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5.ハイライト研究 


5-1.地震予知

5-1-1.プレート内部の地殻活動・構造不均質に関する研究

 内陸に発生する大地震の発生機構を解明する為には,プレート間相互作用による応力が島弧地殻にどのように蓄積して地殻を変形させ,さらにその地殻変形によって,どのようにして応力が特定の断層に集中して破壊に至るのかを解明しなければならない.地震研究所では,この一連のプロセスの中の最初の段階,即ち“島弧地殻の変形過程”の解明のための研究を推進している.

 島弧地殻変形過程プロジェクトは種々の研究分野にまたがる学際的なものであり,以下の項目について精力的な研究を行っている.

(1)島弧の地殻構造及びその不均質性,地殻の物性等を,主として地震学的手法を用いた探査・観測から明らかにする.

(2)対象領域の地震学的構造に関する知見と地質学・岩石学的知見と総合させ,地殻の形成や改編の様式,地殻内断層系の形状やその物理的特性を明らかにする.

(3)(1)及び(2)と平行して対象領域において高密度地震観測を実施し,精度のよい震源分布を求め,断層系や地質的構造線等の地殻内不均質構造と地殻活動の対応関係を明らかにする.

 1997-1998年には,東北日本弧の地殻構造とその変形過程を解明する目的で,大規模な観測・実験が行われた(図1).この探査では,屈折法,浅層反射法,深部反射法,高密度臨時自然地震観測が密接な連携のもとに実施された.屈折法地震探査は,日本探査対象領域の大規模構造を明らかにする目的で,海溝から東北日本弧を経て日本海に至る全長500kmにわたる測線で行われた.深部反射法探査は,東北日本弧脊梁部の断層帯の精密なイメージング及び地殻深部までの反射帯構造の解明を目指すものである.更に,地殻最浅部での形状,表層地質構造との対応関係を調べる目的で,浅層反射法地震探査も実施された.また,高密度自然地震探査は,地殻の構造不均質と地震活動の関係を明らかにし,地殻の力学的特性,地殻内の応力状態の解明を目的としている.

 屈折法で得られた東北日本弧の地殻構造断面を図2に示した.東北日本弧の構造は,東西方向に著しい変化を示す.即ち,脊梁山地の西側は中新世の日本海生成時の伸張場により,地殻浅部が著しく変形を受けている.またモホ面は,日本海側で27km,脊梁山地下で32-35kmとなり,日本海生成に伴う地殻薄化を示している.さらに,上部地殻の速度は5.8-5.9km/sで,測線東部(北上山地)のそれに比べて明らかに遅い.一方,北上山地の構造は単純であり,また,地殻深部には多くの反射体が存在している(反射的下部地殻).

 脊梁山地で実施された反射法地震探査では,同地域に発達している主要断層の形状が明らかになった(図3).即ち,脊梁山地の西側の千屋断層,東側の上平断層に対応する反射面が明瞭である.これらの断層は,深さとともにその傾きが緩やかになり,地殻内反射面が発達している深さ12kmで,ほぼ水平となる.このような形状は,地殻内のレオロジーを反映しているものであろう.

図1.実験図.星印はショット点.黒線が人工地震探査測線.
 

図2.屈折法地震探査による速度構造モデル.黄丸は,稠密地震観測網で決められた震源.
 
 
 


図3.反射法地震探査による構造断面図及び解釈図.




5-1-2.地震発生の繰り返しの規則性と複雑性の解明 ―三陸はるか沖地震と十勝沖地震の震源過程の比較―

 震源域が重なる2つの地震:1968年5月16日十勝沖地震(M7.9)と1994年12月28日三陸はるか沖地震(M7.5))について、遠地と近地の地震波解析によりアスペリティ分布を調べた。その結果,十勝沖地震では2つのアスペリティで断層すべりが起こったが,そのうちの1つが1994年三陸はるか沖地震でも大きくすべったこと,また,この領域のサイスミックカップリング率はほぼ100%であることがわかった(図4).


図4.三陸はるか沖地震と十勝沖地震の震源過程の比較.


5-1-3.横ずれ断層の変位量の測定

 活断層から発生した過去の地震規模を知るためには,一度に活動した断層の長さとともに,地震時のずれの量を検出する必要がある.ところが,従来のトレンチ掘削手法では地震発生時期の検出が優先され,掘削規模を大きくせざるを得ず,変位量に関する情報が破棄されていた.そこで,本研究では地層抜取装置と考古学的掘削を組み合わせる手法を開発した.これにより,小規模掘削にもかかわらず多くの地質情報を得ることができ,地層に記録された過去の地震のずれの量を3次元的に検出することができる.この適用性を検討するために,この手法を丹那断層で試行した(図5).調査では複数の断層が多数の掘削平面・断面に露出した.断層の多くは,丹那断層全体のトレンドに対して反時計回りに10°〜40°の走向を示していた.断層を横切る複数のチャネル堆積物のずれから,1930年北伊豆地震とそれに先行する地震一回分の横ずれ量をそれぞれ同じ40±10cmと見積もることができた.これにより,丹那断層による最近2回の地震規模はほぼ同等であった可能性が示唆される.

図5.丹那断層での地層抜き取りサンプル(A)と3Dトレンチ掘削調査(B).赤線は断層を示す.地層の抜き取りや大小多数の平面・断面の観察から,三次元的に断層周辺の地質構造を復元した.ミ型に雁行した断層形態や地震時の横ずれ変位量が検出された.



5-1-4.破壊に伴う電磁気シグナル発生のメカニズムの解明

 地震前あるいは地震と同時に電磁場変動が観測されたという報告がかなりあるが,地震に関連した電磁電磁気信号の発生メカニズムは充分には理解されていない.破壊核成長過程のどの段階にどのような電磁気信号がどのようなメカニズムにより発生するかを定量的にモデリングできれば,力学的データだけからはわからない破壊核の成長に関する情報を電磁気的データから得られるようになるだろう.またどのような観測を行えば検出できるかを示せるだろう.地震研究所では,理化学研究所と共同で,電磁気信号発生メカニズムを解明するための室内実験を行っている.地殻中に大量に含まれている石英の圧電効果,あるいは地殻内流体の移動による界面動電効果(流動電位)が電磁気信号発生に寄与すると考えられているが,ここでは地殻内流体に焦点をあてた研究を紹介する.岩石中の間隙水圧が高くなると破壊核成長が促進され,また,破壊核の成長は震源域の流動特性や間隙圧の変化を引き起こすので,地殻内流体と破壊との相互作用を明らかにすることが地震の準備過程を考えるうえで非常に重要である.破壊現象を流体移動および電磁気現象と関連づけて実験的に調べるために,岩石試料部を周囲から電気的に絶縁させた状態で,岩石中の間隙水圧をサーボコントロールできる特別仕様の岩石破壊装置を開発した.その実験装置を使い,岩石試料に流れ込む水の流量,体積歪変化,岩石試料に発生する電流などを測定しながら,岩石を破壊させた実験結果を図6に示す.応力が破壊強度に近づくと電流が流れ始めているが,この電流はダイラタンシー,およびそれにより引き起こされた間隙水の流動と非常によい相関を示しているのがわかる.このような実験により,破壊前にダイラタンシーが急速に成長し,間隙水の流動が起こって界面動電効果により電流が発生することが実証された.電磁気観測データから地殻中の流体移動を定量的に推定できるようにするために,岩石の流動電流係数などのパラメータが実際の震源域の条件下でどのような値をとるのか実験により明らかにしつつある.

図6.岩石破壊実験で得られた記録例.破壊前にダイラタンシーが急速に成長し,間隙水の流動が起こって界面動電効果により電流が発生したことがわかる.



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