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5-6.火山での広帯域地震観測

 火山での地震観測といえばつい最近までは,1秒より短い周期しか計ることのできない短周期地震計によって行われるのが常であった.このような地震計による観測と,傾斜計・伸縮計などによる測地学的な(地殻変動)観測の間には,観測周波数帯域に大きな空白があり,1秒から数百秒の周波数帯域における火山の変動は今までほとんど観測されてこなかった.我々は1991年から他の研究機関(地質調査所,気象研究所,東京工業大学,京都大学)と共同で活動的火山(桜島,阿蘇山)における広帯域地震観測を行ってきた.このような観測により,火山における骰L帯域地震観測の重要性が近年認識されるようになってきた.

 図1は阿蘇火山が1994年に水蒸気爆発を起こした時に広帯域地震計によって観測された地震波形である.この図で,上向き(正)の変位は地面が膨らんでいることに対応するので,それを考慮してこの地震波形を見ると,水蒸気爆発(現地では土砂噴出と呼ぶ)とは以下のような現象であることが読みとれる:火口から土砂が吹き上げる 50秒ほど前から,周期20秒ほどのパルス的な変動をしながら全体としてはゆっくりと地面が膨らみ始める;地下での圧力を支えきれなくなると,火口から土砂の噴出が起こり,地面はゆっくりとしぼんでいく;土砂が吹き出す過程に対応して短周期の地震波がでるが,これは,火道を土砂や水蒸気が激しい早さで通るときに出る地震波である;短周期の地震波放出,すなわち土砂の噴出が終わると,地面の膨らみは元に戻って,土砂噴出の一過程が終了する.このように広帯域地震計により水蒸気爆発の全貌が明らかになった.

 さらに,静穏期の観測から,15秒を基本周期にして,7.5秒,5秒,3秒と倍音関係にある固有周期の微弱な揺れ(長周期微動,図2)があることがわかっている.長周期微動を詳細に調べることで震動源の正体が分かり,火口直下の南北に延びたクラック状のものとなる.この走向は,地表の火口列の方向と一致する.すなわち南北に連なる火口列は地下にある亀裂構造がもたらしたものなのである(図2).またこの亀裂構造が,水蒸気爆発直前の膨らみを起こしている.このように広帯域地震計による観測で,地表の噴火活動を規定する火口直下の構造が明らかになった.さらに,爆発前の地下の膨らみを捉えることで,爆発の直前予測も出来る可能性がひらけてきた.


図1.土砂噴出の広帯域地地震波形.火口から1.4km離れた観測点の上下動の記録.(上)原記録(速度波形)(中)長周期のバンドパス・フィルターを掛けたもの (下)積分した変位記録.

図2.(上)阿蘇山の長周期微動.(中)阿蘇山中岳周辺の鳥瞰図と求められた亀裂構造.(下)長周期微動の振幅分布(青:観測,赤:理論).




有珠2000:

 有珠山は2000年3月31日に約20年ぶりに噴火を起こした(7-2を参照).地震観測体制の整っていない有珠山では,阿蘇の場合のような質の良いデータを得ることは出来なかったが,噴火の直前10分前(!)に広帯域地震計を1台,昭和新山のふもとに設置することが出来た(北大理学部との共同研究).図3はその地震計によって観測された,噴火10分前から一月間のスペクトルをまとめたものである.矢印で示した部分に,周期10-12秒の震動の存在が確認できる.噴火直後に10秒ほどであったものが徐々に周期を12秒に伸ばしつつ震幅を大きくし,一週間程大きな震動を起こしている.この長周期微動源の位置は西山の南南東約1-1.5kmに決まる.この微動源の位置は,GPS観測などから求められる地下の圧力源の位置とほぼ一致している.また深さについては,不確定性が大きいものの,これまで観測されている他の火山の長周期微動源の深さ(〜2km)より深く,火山直下のマグマの運動に関係した長周期微動とも考えられる.

 このように阿蘇山で初めに発見された周期約10秒の長周期微動は多くの活動的火山で観測され(三宅2000の成果については7-3を参照),火山活動について様々な新しい情報・知見を与えることが広帯域地震観測により明らかになりつつある.日本中の活火山に広帯域地震計を設置し,モニターすることが望ましい.

図3.有珠2000噴火のスペクトログラム.噴火直後から一月分.


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