4-2.火山噴火予知

 

 これまで火山噴火予知の研究では,噴火の前兆現象をとらえることに多くの努力を払ってきた.その結果,普段から観測を続けている火山では,多くの場合噴火の前に異常を捉えることができるようになっている.しかし,確実な噴火予知にはまだ程遠いのが現状である.その理由は,マグマそのものや火山噴火のメカニズムがまだ完全には理解できていないことにある.火山活動の仕組みについての理解を深め,活動予測をもっと確実なものとするために,いくつかの新しい試みを行っている.

 

4-2-1.火山の構造とマグマ供給システムの研究

 

 全国の関連研究者の共同で,これまでに,霧島,雲仙岳,磐梯山,阿蘇火山,伊豆大島,岩手山,有珠山,北海道駒ヶ岳を対象に火山体構造探査が実施された.これらの調査でマグマや熱水に対応すると思われる異常領域が捉えられ,地震や火山性微動,熱消磁などの噴火の前兆現象の発生との関係が注目されるようになってきた(6-12火山体構造探査を参照).一方,自然地震を用いる手法では,地震波がマグマ溜りなどの不均質によって散乱されることを用いる散乱波トモグラフィー法を開発し,伊豆大島における稠密観測網のデータに適用し,カルデラの地下約5 kmおよび8〜10 km付近にマグマ溜りと解釈される領域を捉えることができた.また,地震波速度と密度分布を同時に推定する協調インバージョン手法を開発し,伊豆大島における稠密な観測データに適用し,過去の火山活動でダイクが繰り返し貫入したことを示唆する,火山体浅部を北西—南東に横断する高速度帯の分布を明らかにした(図1,6-8火山噴火予知研究推進センターを参照).さらに,富士山では,低周波地震の発生機構および火山体構造を解明するために,既存の観測点を含め100点規模の臨時稠密地震観測を関連機関の共同で開始した(4-4富士山を参照).

1 速度・密度協調インバージョンによって明らかにされた,伊豆大島火山浅部の高速度領域.

 

4-2-2.火口近傍観測

 

 構造調査で捉えられる異常領域が噴火前兆現象の発生とどのように関係しているかを知るには,異常現象を精確に観測することが不可欠である.より精確なデータを安全に得るため,アルゴス衛星システムを利用して,火口周辺での噴気温度や地磁気の高密度観測を実施している.三宅島火山では,2000829日の火砕流発生直後に南西山腹にプロトン磁力計を設置した(図2).停電や火山ガスにより多くの観測が中断する中,このシステムは順調に全磁力データを送りつづけている.20017月以降には,火口地下の温度低下によると思われる急速な全磁力の増加を捉えた(4-6 三宅島噴火を参照).

図2 三宅島火山でのアルゴス衛星システムを用いた全磁力観測.

 

4-2-3.火山体科学掘削

 

噴火履歴とマグマ供給系の解読,火山体構造の解明,高精度地震・地殻変動観測などを目的として,伊豆大島,雲仙岳,富士山で火山体科学掘削を実施してきた.伊豆大島では,カルデラ内に深さ1 kmの観測井を掘削し,孔井内に地震計,水中マイクロフォン,水質計,温度計などを多点設置し,地表の観測点とあわせて3次元的な観測を1999年以来行っている(図3).また,掘削孔を用いた検層や採取した岩石資料の地質岩石学的な分析によって,カルデラの構造と成因,噴火活動史とマグマ供給のしくみについて新たな知見が得られている.雲仙岳では,科学技術振興調整費研究により山体周辺で掘削されたコア試料の地質岩石学的分析から,結晶質のマグマ溜りに苦鉄質マグマが繰り返し注入しているというマグマ供給系のモデルが得られた.平成14年度からは火道掘削が開始され,火道内を上昇するマグマからの脱ガス過程について情報が得られるものと期待される(4-5雲仙岳を参照).富士山では,北東山腹2か所での中深度掘削と東斜面でのトレンチ調査を実施し,コア試料の地質学的解析,化学分析,年代測定を行った.掘削孔に広帯域地震計を設置して観測を開始している.平成15年度に完成予定の掘削孔には,広帯域地震計,傾斜計,3成分歪み計を設置する予定である(4-4富士山を参照).

図3 伊豆大島火山カルデラ内総合観測井.

 

4-2-4.噴火の中長期および推移予測の研究

 

 数十年おきに噴火する火山で,噴火と噴火の間に地下で起こっている現象が解析されつつある.伊豆大島火山では,1986年噴火以降も山体膨張が継続していることが観測され,地下でマグマの蓄積が進んでいるためであると解釈される.また,2000626日以来活動を開始した三宅島火山でも,噴火前にマグマの蓄積に伴う山体膨張が起こっていることがGPS観測によって捉えられた(4-6三宅島噴火を参照).一方,2000331日に噴火活動を開始した有珠山では,噴火前後の観測データを総合することにより,伊豆大島や三宅島とは異なる前兆過程と噴火後も継続するドーム形成メカニズムのモデルが得られた.

 噴火の古記録が残っている火山でも,これまでの噴火と異なり,それを上回る規模で起こることがある.このような場合や,噴火の古記録が存在しない火山においては,火山成長史を地質学的に解析することによって,噴火予測に役立てることができる.火山毎に長期にわたる一定の溶岩噴出率があることを利用して,雲仙普賢岳では,5年近く続いた噴火活動の溶岩の供給停止が判定された(図4).また,火山の発達段階や噴火様式の違いで,噴出する溶岩の組成に差が見られることもある.そのため,本格的噴火に先立って放出されたマグマ物質の特徴から,引き続く噴火の様式を予測する研究も行っている.

4 雲仙普賢岳における積算噴出量と噴出年令を示す階段図.

 

4-2-5.噴火予知共同研究体制の強化

 

 国立大学の法人化を迎えるにあたり,関連機関・研究者との連携を維持強化することが重要である.このため,平成12年度に設置された火山噴火予知研究協議会および平成15年度から火山噴火予知研究推進センターに新設された客員教官を活用して,集中総合観測,火山体構造探査などの共同観測研究や人材育成,海外の火山噴火の迅速な調査観測等の企画立案と実施機能を強化する予定である.

 

 

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