5-6. 内陸直下地震の予知

 

 大きな地震がどのような過程を経て発生に至るのかを解明するためには,実際の地震の発生の過程を観測せねばならない.地震発生のモデルを構築するためにも,地震予知への展望を開くためにも,それは必要なことである.直下で発生する大地震はその発生過程について近距離の信号を捉えることができる.本プロジェクトのねらいは,近い将来直下地震が予想される地域に的を絞り,各種調査観測の準備をしてゆこうというものである.

  地震発生想定域として初めに選んだのが,北部フォッサマグナ地域の糸魚川・静岡構造線に沿った長野県白馬村である.その周辺,とくに新潟地域も視野に入れている.当面はマグニチュード6級の地震を想定し,信州大学,富山大学,都立大学,東海大学,長崎大学などのメンバーとともに1995年から継続して研究を進めている.

 これまでに得られた重要な結果をいくつか列挙する.

1) 松本盆地でのGPSによる地殻変動観測では,1998年7月から活発化した北部フォッサマグナ地域の地震活動に先立つ半年ほど前から測線の縮み変化を観測した(図1).

2) 地殻の応力の高まりや変形の進行によって,間隙流体の移動が生じると考えられる.これが地下水や地中ガスの変化に現れる.例えば,白馬の八方温泉の地中ガス中の水素濃度は,1996年には,約10%であったが,1998年には0.3 % に降下した.

3) ギリシャのVAN法と同様の観測により,1999年1月17日,明瞭な矩形状の異常電位変化が観測された.この直流信号は白馬観測網以外に,同じ長野県内の2観測網でも同時に観測された.この電流源の位置は1999年1月28日の地震(M4.7)の震源に近い.

4) 新潟県北部において,人工衛星LANDSAT画像の1994年夏の地温分布に,線状高温帯が発見された(図2).1994年11月からの群発地震活動および1995年4月1日の地震(M5.5)の準備過程における高温水上昇と考えられる.

1 GPSによる地殻変動.松本盆地を東西に挟む測線の距離変化.2000年からの変動は東海地域の変動に同期.

2 LANDSATによる新潟地域の地温分布(1994年8月).新潟県北部月岡断層に沿う線状の高温帯.XはM5.5の地震の震央.柏崎と新潟沖の海水の高温点は発電所の冷却水排水による.

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