6-6) 地震地殻変動観測センター

 

地震地殻変動観測センターは平成6年の地震研究所の改組に伴い,観測を主体とする部門,センター,および観測所を統合して発足した.現在のセンターは,陸・海の地震,地殻変動,および強震動の四観測研究分野で構成され,観測拠点としての地震観測所,地殻変動観測所がある.地震研究所の設置目的「地震及び火山噴火の現象の解明及び予知並びにこれらによる災害の防止及び軽減に関する研究」を達成するため,各観測拠点における地震活動,地殻変動の観測と,強震動,機動的な海・陸地震観測の協力体制により地球物理学的研究,地震予知研究,地震工学的研究をはじめ各種の研究を進めている.また,地震予知観測研究の地域センター(関東・東海・甲信越・南海)として地殻活動の常時観測および地震現象・異常地殻活動の研究を進めるとともに,全国共同利用研究所のセンターとして地震予知観測研究の進展のために全国の大学との共同研究の推進及びその拠点としての役割を担っている.

 

地震観測研究分野

 関東甲信越から伊豆諸島地域,紀伊半島,瀬戸内海西部地域に約100点の高感度地震観測点を設置して,広域の地震活動や地殻構造の研究を進めている(図1).伊豆半島東方沖にはケーブル式海底地震計を3台設置して特に観測精度を高め,繰り返し発生する群発地震活動の詳細な把握とその成因と考えられるマグマ活動の解明を行っている.関東甲信越地震観測網のうち19観測点では短周期地震計だけでなく広帯域の高精度地震計も設置して観測の高度化と高ダイナミックレンジ化を図り,小地震の破壊過程と構造の不均質との関連の研究により地震発生にいたる過程の解明を進めている.

 

1.地震地殻変動観測センターの地震観測点分布

 

 

  リアルタイムに収集している膨大な地震観測データは,ここで開発した自動収録・処理・検測システムを用いて効率的にその処理・解析,アーカイブを行っている.1990年代に開発されたこのシステムは,国内の主要な大学や各機関の地震観測網における一つの標準となっている.

  1996年に開発した衛星通信利用の地震データ伝送システムは全国の大学に導入され,広域の定常観測と機動的観測に利用されている(図2,図3).これによって地震データのリアルタイム流通による有効利用が可能になり,同時に特定の地域における目的を絞った稠密観測研究を機動的に行うことも可能となった.本センターはこのシステムでデータ集配信機能の中核となる中継局を運用するとともに,全国の大学が気象庁および防災科学技術研究所とリアルタイムデータ交換するための,窓口としての機能を果たしている.

 

2.衛星テレメータシステム親局のパラボラアンテナ.

 

 

3.衛星テレメータシステム子局(観測局)の例.

 

 

  本センターは地震予知研究推進センターと協力し,全国の大学合同規模での総合的な地殻構造調査と自然地震稠密観測を順次各地域で実施している.2002年からは鳥取・島根地方および南関東地方でこのような大規模機動観測を行っている.

 

海域地震観測研究分野

 伊豆東方沖および三陸沖に光海底ケーブルを用いた観測システムが設置され,地震・津波をリアルタイムに観測できるようになった.また,自己浮上型海底地震計による機動的な観測を随時行っている.これらのデータを用いて,海陸境界域の詳細な地殻活動やプレート間相互作用の解明を進め,日本周辺の地殻構造の不均質や地殻活動を明らかにしようとしている.

 

1.光海底ケーブルを用いた海底地震津波観測システム

伊豆東方沖では,群発地震がこれまで数多く発生しており,これらは地下のマグマ活動を反映するものと考えられている.微小地震活動から地下のマグマの活動を捉えるためには,地震活動を正確に把握する必要がある.それには,震源域直上での海底地震観測が不可欠である.地震地殻変動観測センターでは,1994年2月に,この地域に光海底ケーブル式海底地震観測網を設置した(図4).海底の加速度センサーからの信号は,光ファイバーで伊東市に伝送され,地震観測所にリアルタイムで送られている.この海底地震観測システムにより,伊豆半島東方沖の微小地震活動が,正確に把握できるようになった.

 

4.光海底ケーブル海底地震計の位置と伊豆東方沖の震源分布(1998年4月20日〜5月10日).震源の色は,発生した時間を示す.

 

 

 

 三陸沖の日本海溝では,太平洋プレートが日本列島の下に沈み込んでおり,地震活動が活発である.歴史的に見ても,大きな地震が度々発生し,被害を与えている.この海域の地震や津波を観測するために,東北大学等の関係機関と共同して,光ケーブルを利用した海底地震・津波観測システムを開発した.1996年6月に三陸沖日本海溝陸側斜面に設置し,同年10月から運用を開始した(図5).本観測システムは,海底に設置された3台の地震計と2台の津波計を光海底ケーブルで結んだものである.水深1000mまでの海底ケーブルは安全のために海底下に埋設してある.観測データは,リアルタイムで釜石海底地震観測所に伝送された後,東北大学理学系研究科地震・噴火予知研究観測センターに送られる.また,欠測を防ぐために,人工衛星回線により,地震研究所にも送られている.本システムの設置により,海・陸の一体化した地震予知観測研究が開始された.地震活動の推移や津波等の情報をリアルタイムで観測し,プレート沈み込みに関する研究を推進する.

 

5.光海底ケーブル式海底地震津波観測システムの観測点位置とケーブル位置.丸が地震計,三角が津波計を表す.

 

 

2.自己浮上式長期観測型海底地震計を用いた海底地震観測

 日本列島とその周辺の地殻活動を理解するためには,陸域における地震観測に加えて,海域における地震観測が重要である.近年,1年以上の期間,海底において高精度連続観測可能な海底地震計が地震研究所で開発された(図6).2000年からは,この地震計を用いて,茨城沖などのプレート境界域や日本海や四国海盆のような背弧海盆域において,長期海底地震観測を実施している.地震活動の活発なプレート境界域では,これまでの海底地震観測では十分に分からなかった地震活動の時間的変化などを捉えることができるものと考えられる.また,背弧海盆域では,長期に渡るデータの蓄積により,日本列島を含めた日本海の深部構造が明らかになるものと期待される.

 

6.開発された長期観測型高精度海底地震計

 

 

 

3.自己浮上式海底地震計を用いた地下構造探査

 プレート境界等の地球科学的に重要な地域のほとんどは海底下にある.特に地震発生という観点では,発生域の詳細な構造を知る必要がある.この観点にたって,自己浮上式海底地震計,ハイドロフォンストリーマーおよび制御震源を用いて,構造調査を行っている(図7).構造調査は,プレート沈み込みに伴う地球科学現象の全体像をとられるために,プレート沈み込み域である海溝域だけでなく,背弧海盆域,大洋底や海嶺域も対象とし,ほぼ毎年数回の実験を行っている.また,1999年には火山島などの構造調査も火山研究グループと共同して行った.

 

7.構造探査実験のために観測船上で準備を完了した海底地震計とエアガン(人工地震震源).

 

 

 

地殻変動観測研究分野

 

 南関東・東海・伊豆・南海の地域などにおいて歪・傾斜などの連続観測や光波測量・GPS観測の変位観測,地下水観測を行い,観測に基づいて地震発生と地殻変動の関係や地殻のダイナミクスに関する研究を行っている.歪・傾斜観測では横坑における伸縮計・水管傾斜計を使った観測のほかに,地震研究所で開発されたボアホール地殻活動総合観測装置(歪水平3成分,傾斜2成分,温度,加速度3成分,速度3成分,ジャイロ方位計などから構成)を地殻活動発生域あるいはできるだけ発生域に近い場所に設置し,地殻活動の連続観測を実施している.この装置では,これまで3回の伊豆群発地震の前兆変動と最初の大きな地震の前兆的異常変動および地震時の変動を記録しており,深部ボアホールにおける総合観測が重要性であることを証明した.稠密な変位観測を場所を選ばずにしかも少ない人数で機動的に行うために1周波のGPS受信機基盤を用いた低消費電力低価格のGPS受信機を開発した.伊豆群発地震発生域には1997年9月から観測を開始し,1998年4月に発生した群発地震活動に伴う地殻変動を高い時空間分解能で観測し,「地震観測研究分野」が観測した震源分布などと比較することにより,物質の移動が明らかになった.また,この1周波GPS受信機を使うことによって,1999年台湾集集地震,2000年鳥取地震後の地殻変動観測が可能となった.

 高度に制御された発振系および波形記録系をもちいたパルス透過法による高精度弾性波連続観測研究を油壺観測壕,釜石観測点,名古屋大学瑞浪観測点で実施した.油壺では100ppm, 釜石では1ppm,瑞浪では10ppmの分解能で速度変化が観測されている.弾性波速度測定系の信頼性は基本的にシステム共通のクロック(0.01 ppm/yr)にかかっており,短期および長期の信頼性に差がないことが特徴である.したがって長期間にわたって徐々に変化する岩盤内構造変化およびそれをもたらした応力変化や水の変化が明らかになってきている.

 

強震動観測研究分野

 

 地震は極めて広帯域の現象であり,単一の測定器では現象の一部を理解出来るに過ぎない.強震動観測研究分野では,大地震の近傍で発生する強震動現象を捉え,大地震の発生と破壊伝播の詳細を知り,さらに強震動に与える地下構造・表層構造の影響を定量評価するための強震計による観測とその記録の解析に中心課題を置いている.現時点での強震計の守備範囲は最強の地震動(重力加速度の2倍程度を想定)からほぼ有感となる地震動(重力加速度の千分の一程度)である.観測の対象は,M8クラスの地震の発生が予想されている駿河湾地域,地震活動の活発な伊豆半島地域および表層構造が複雑な足柄平野などである(図8).足柄平野では表層地質の影響を定量評価するために地盤上での高密度アレイ観測を実施しており,その他の地域では露岩上での観測に特徴を持っている(図9).

 

8.関東・東海地方における強震動観測網(地質図は地質調査所による).

 

9.足柄平野におけるアレイ強震動観測.

 

 

観測記録は基本的に学術研究の目的に使用されるが,強震動情報は発災直後の応急復旧に極めて重要であり,現在,一般公衆回線を用いた準リアルタイム波形伝送を実現し,強震動情報を即時に自治体・関連機関等へ伝達するシステムの開発に取り組んでいる.これらの研究は地震火山災害部門と密接に協力して進めている.

 

筑波地震観測所

Tsukuba Seismological Observatory

大正10年震災予防調査会により設置され,その後昭和2年地震研究所に所管替えとなり現在に至っている,地震研究所で最も古い観測所である.観測施設は東京の北東約70kmにある筑波山の中腹の花崗岩層上にあり,関東地方で最も地震活動の活発な地域の一つに位置している.

 

和歌山地震観測所

Wakayama Seismological Observatory

昭和3年,今村明恒博士が来るべき南海道大地震に供えて紀伊半島および四国地方の地殻活動を観測する目的で設立した南海地動研究所をその前身とする.太平洋戦争のため観測を一時中断したが,地震研究所が昭和27年に観測を再開し,昭和39年和歌山微小地震観測所として正式に発足した.昭和53年度に全観測点のテレメータ化と処理システムの導入が行われ同時に局舎を移転し,南海地域における地震観測の中心としての機能が整えられた.平成6年6月,地震研究所の改組に伴い和歌山地震観測所となった(図10, 図11).

 

10.和歌山地震観測所の外観

 

 

11.和歌山市周辺に展開されているローカルな地震観測網

 

 

広島地震観測所

Hiroshima Seismological Observatory

昭和38年米国沿岸測地局より国際標準地震計を設置するよう依頼があり学術会議はこれを受け入れるよう勧告した.地震研究所はこの勧告に基づいて昭和40年度に白木微小地震観測所を新設した.現在は,広島を中心として四国や九州にも観測点を設置し,瀬戸内海西部地域の地震活動の観測研究を目的としている.平成6年6月,地震研究所の改組に伴い広島地震観測所となった(図12).

 

12.広島地震観測所の外観

 

 

堂平地震観測所

Dodaira Seismological Observatory

局地,近地,遠地の大小の地震について広い周期範囲の地震波を観測する近代的な総合地震観測所として昭和39年度に堂平微小地震観測所が設置された.秩父堂平山に短周期地震計の群列観測網を持つとともに関東地方に衛星観測点をもって,無線テレメータ観測を始めた.平成6年6月,地震研究所の改組に伴い堂平地震観測所となり,関東甲信越地震観測網の一翼を担っている.

 

信越地震観測所

Shin-etsu Seismological Observatory

北信微小地震地殻変動観測所(昭和42年度設置)と柏崎微小地震観測所(昭和43年度設置)の両観測所を統合し昭和60年度に信越地震観測所となった.新潟県南西部,長野県北部の特定観測地域を含む中部日本に地震観測網を展開するとともに,日本海東縁部の地震活動の観測研究にも寄与する.平成6年6月,地震研究所の改組に伴い信越地震観測所となった.地震研究所本所と専用回線で結ばれ,関東甲信越地震観測網として波形データが統合されている(図13).

 

13.信越地震観測所の外観

 

 

油壺地殻変動観測所

Aburatsubo Geophysical Observatory

戦後の昭和22年理学部の臨海実験所構内の地下壕(元の特殊潜行挺の発進地)を利用して地殻変動連続観測の研究が開始された.これが油壺観測所の始まりである.昭和24年9月より観測が始められ,昭和52年2月に現在の庁舎および観測坑が完成した.三浦半島南端近くの油壺地殻変動観測所は東方20 kmの房総半島の鋸山に設置されている鋸山地殻変動観測所との相互の変動を比較することにより,地震に関連した異常地殻変動の検知能力を向上させている.平成9年度からは地震研究所で開発されたボアホール地殻活動総合観測装置が設置され,ボアホールと横坑での観測が同時に行われている数少ない観測所として比較観測を行っている.

 

鋸山地殻変動観測所

Nokogiriyama Geophysical Observatory

昭和34年1月より現観測所の約1 km北にある観測坑において観測を開始し,30年以上の 観測を継続した.1年間の並行観測の後,平成5年10月から現在地の観測所に移転した.油壺地殻変動観測所との傾斜データの比較解析により20m/年で東から西へ移動する超低速の地殻変動が初めて見いだされている.標準的な地殻変動観測所における観測計器,水管傾斜計・水晶管伸縮計のほかに強震計・重力計・水晶振動式応力計・STS地震計やボアホール多成分歪計などの観測を行っており,また,海岸には検潮所が設置され,地球物理総合観測所としての観測を進めている(図14).平成8年に海底掘削孔と同孔径の試験観測井を設け,海底地殻変動観測手法の開発を進めている.

 

14.鋸山地殻変動観測所,観測坑内の水管傾斜計・伸縮計(中央),

観測坑入口 (左上),観測坑内分岐点(右下).

 

 

弥彦地殻変動観測所

Yahiko Geophysical Observatory

前身となる間瀬観測所が昭和27年に設置され,水管傾斜計が新潟地震の数年前から異常傾斜を記録していたことは注目すべきことである.日本海沿岸の地震は太平洋側に発生するプレートの沈み込みに伴う巨大地震とは異なる.このことを考慮して昭和39 年に発生した新潟地震(M=7.5)後の昭和40年に地震予知計画の一環として弥彦地殻変動観測所が設置された.近年国土地理院のGPS観測網GEONETや地質学的データから求められている歪集中帯の中に位置する観測所である.

 

富士川地殻変動観測所

Fujigawa Geophysical Observatory

富士川地殻変動観測所は,西南日本から延びる南海トラフが深く駿河湾内に入り込み上陸する地点に位置し,プレートの異常運動から東海地震に関連した変動を検知する目的で昭和44年地震予知計画の一環として設置された(図15,16).地殻変動連続観測の他に微小地震の観測を行い,地震活動と歪・傾斜変化との対応について調べている.平成14年度には開設当初から設置されている水管傾斜計に加えて1990年に地震研究所で開発された震研90型水管傾斜計を設置した.

 

15.富士川地殻変動観測所の外観

 

16.奥山観測壕(富士川地殻変動観測所)

 

 

室戸地殻変動観測所

Muroto Geophysical Observatory

四国の室戸岬最南端に平成7年度完成した全長150mの横坑の観測点である.本州最南端にある和歌山県の潮岬観測点における250mのボアホールの3成分歪・2成分傾斜などの観測との比較により,21世紀に再び発生すると考えられる南海道大地震に関連する現象を観測するために設置された.


 

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