過去の伊豆半島東方沖群発地震活動

1. 過去の活動との関連

伊豆半島東方沖で発生する群発地震は,火山活動(マグマの移動)に関連した地震活動であると考えられています.その理由は,1989年には小規模な海底噴火が起こりましたし,この地震活動に伴う地殻変動は,垂直の板状の物体が地下深さ5km付近に貫入したことで説明できるパターンを示すからです.

図1

この地域では、群発地震活動は,1978年から1998年まで毎年のように発生していましたが,最近は少し活動のレベルが下がっていました.これは、1998年を境にこの地域の群発地震活動の様式が変わったものと考えられます. 1998年以降,2002年,2003年,2004年には規模の小さな活動があり,今回はこの3回の活動に比べると、少し規模が大きいのですが,全体としては前の活動期(1978年〜1998年)の平均的な活動に比べ,規模は小さいと言えます.
前の活動期の典型的な例として,1998年の群発地震活動の震源を図1に示します.地震活動は川奈崎沖の深さ約8kmから始まり,最初の26時間の震源はA-A'断面の左下に鍵型(「)のように並んでいました.この時期の地震はマグニチュード3以下の小さな地震ばかりでした.その後,地震は深さ3〜7kmのリング状の地域に移動し,リングの中心の深さ5kmの地震の起こっていない場所から外側に広がって行きました.1日毎の震源の位置の変化を図2に示します.この時期になると,地震のマグニチュードも4を越え,多数の有感地震が発生しました.この震源の移動の様子やその他の観測結果から,この群発地震活動中に,深部から軽いマグマが浮力によって上昇してきて,深さ5kmで周りの岩石と同じ密度になったため(浮力中立),そこを中心に上下左右に広がったと考えられています.つまり,最初の26時間の活動域はマグマの蛇口で,最終的な蓄積場所はこのリング状の場所と考えることができます.同時に観測された地殻変動もそのモデルを強く支持します.

図2

ここで一つ疑問に感じられる方も多いと思います.浮力でマグマが上昇してきたなら何故まっすぐに上がらないのか.蛇口の真上ではなく,そこから少し離れた場所になぜマグマは広がったのか?その疑問は,1998年以前の活動を見ると判ります.図3に1995年,1996年,1997年,1998年の震源を示します.それぞれの震源の位置はほぼ同じ深さで,それぞれ隣り合うように並びます.1998年のマグマの蛇口は実は1997年の活動でマグマの貫入した場所の真下に当たります.真上は1年前にマグマが貫入しているため,応力が大きくなり,入るのに大きなエネルギーを必要とします.そのため,簡単に貫入できる場所,つまりまだマグマの貫入していない沖合に位置を変えたと考えることができます.

図3

2. 今回の活動
 1998年以前の活動と今回の活動を比較すると,震源の深さに大きな差があります.今回の地震活動の震源は,図3の○で囲んだ場所で1998年のマグマの真下に広がっています.震源の深さも6km以深です.実は,2002年,2003年,2004年の活動も同様で,1998年以前の活動域の真下で地震が群発し,深さ6kmより浅くなりませんでした.今回の活動も今後浅くなる可能性は否定できませんが,活動開始から既に4日経つのに今のところ(4月21日21時現在)浅くなる様子が見えません.この理由については良くは判りませんが,1998年のマグマに邪魔されて上がれないのか,今回のマグマが以前のものに比べて少し重く,これ以上浅い場所まで上昇するための浮力を持っていないなどの理由が考えられます.
 この地域の群発地震の発生様式は,数時間から1日の間隔で2〜3時間地震が多発する時間帯と,地震がほとんど起こらない時間帯が交互に現れるという特徴を持っています.震源に近い場所にお住まいの方の中には,現在不安な思いをされている方も居られるかも知れませんが,有感地震が多発したからと言って過度のご心配をされる必要はないと思います.もし,1989年のような海底噴火につながるような大規模な活動に推移するとしたら,現在の科学水準では,それを事前に察知できるものと思っています.

(文責 火山噴火予知研究推進センター 森田 裕一)