地震調査委員会による評価など

平成20年6月14日午後5時から臨時の地震調査委員会が開催され、「平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震*の評価」が公表された。 詳細は下記参照。
http://www.jishin.go.jp/main/chousa/08jun_iwate_miyagi/index.htm
  余震分布の深さ精度が不十分とのことで、断層面が東傾斜か西傾斜か等、踏み込んだ評価は見送らた。このため、北上低地西縁断層帯との関係についても不明とされた。

以下は、一委員として出席した個人的感想である。なお、ここでは断層面が西傾斜であると仮定して議論を進める。

  震源の深さは別として、初期の余震の震央分布を見る限りでは、本震(破壊の開始点)とその北東に位置する出店断層との間に、余震が集中しており、出店断層の活動の可能性を考えざるを得ない。
 一方、提出された気象庁資料は、余震の南部(本震より南側)の方が北部より長く、南部は北北東ー南南西の方向に延びていることを示している。
1)南部の活動は、平常地震活動が高い場所の活動であり、この地震によって誘発された活動の可能性も考慮する必要がある。しかし、震度分布は南の方が揺れが大きいことを示しており、単なる誘発とは考えにくい。震源断層は、本震(破壊開始点)より南部にも及んだであろう。
2)幾つかの震源過程解析の結果は(西傾斜と考えると気象庁資料でも)南部で大きなずれがあったことを示している。

  よって南部の活動は無視できず、むしろ南部の方がずれの量や、断層面積など大きかったように見える。南部の余震の分布は北北東ー南南西に延びており、南北に延びる北上低地西縁断層帯とは異なる。以上から、南部については、北上低地西縁断層帯の活動とは言えない。敢えて言えば南部延長上の活動である。
  この付近は、いわゆる宮城県北部の地震1900, 1962, 2003年(詳しくは武村, 2005;地震58, 41-53)が南北に連なって発生した場所にあたる。2003年7月26日の宮城県北部の地震の後に構造調査が行われた。(詳しくはKato, et. al., 2006; J. Structural Geol.,28, 2011-2011) この南北に延びる地域は、かつて日本海が拡大した際の正断層帯であり、現在は東西圧縮により、少なくともその一部が、逆断層となって地震を発生させていることが判明している。一部は活断層として認識されているが、他の部分では最近の活動は不明である(活構造として明記されていない)。北上低地西縁断層帯の南部の地下構造も、同様(本HP参照)だが、最近の活動が記録できる段丘が分布しており、活断層として認識されている。
  産業技術総合研究所の資料の地質図をみると、古い断層で北北東ー南南西に延びるものが認められ(20万分の一地質図幅、一関市付近など)、このような方向の弱面が地下に存在する可能性が高い。
  2003年の宮城県北部地震の発生以後、一部で新しい活動が判明している古い構造をどのように評価するかが、課題とされてきた。現在、地震調査委員会長期評価部会活断層評価手法等検討分科会では、新しい活断層の評価手法をまとめている。その中で、短い活断層の評価手法がまとまっており、このような古い構造での地震発生の課題がとりあげられている。
  地表では、一部しか活断層として認められていなくとも(すなわち、短い活断層でも)、その地下の弱面の存在が重力異常分布や地質図などで認められる場合には、地表で認められる長さより長い震源断層が地下に存在すると考えて、評価することとしている(島崎, 2008;活断層研究, 28, 41-51)。地下の地震発生層(厚さ15km程度)の厚さ全体を占めるくらいの震源断層が存在し、その一部が(時々)顔を出し、その結果、活断層として認められるとの考えによる。長い震源断層の存在の推定は、重力異常図や地質図に基づく。(なお、地表同様、地下の震源断層も短い、という状況は、火山周辺など、浅い部分のみに力がかかる場合ではあり得ても、普通は考えにくい。)
  もしも、今回の地震の余震分布の南部が北北東ー南南西に延びる古い構造の弱面(断層)の活動によるものであれば、上記の短い活断層と同様の考えを適用すべきであろう。このように踏み込んだ評価を行えば、評価が可能となる地震の範囲が広がることが期待できる。

(島崎邦彦)