震源域北部近傍の地質構造について

 北上山地西縁には,長さ約300kmにわたって重力異常の急変帯が分布する. この地域は中新世に形成された北部本州リフト系(佐藤ほか,2004, 石油技術 協会誌,69, 145-154)の東縁部にあたり,北上山地を構成する中古生界と新 第三系が広く分布する地域の境界部に相当している.
 水沢地域については、既存データの追加解析や新たなデータ所得によっ て、地殻中部までの構造探査がなされているので、その結果を簡単に紹介す る。水沢地域には北上河谷帯を横断する石油公団(石油公団, 1992,調査報告 書)が実施したバイブロサイス4台による反射法地震探査データがある.この データについて解析を追加し,地質学的な再解釈を行った.反射断面では,反 射層の不連続から4条の西傾斜の正断層が抽出できる.堆積層は断層を隔てて 大きく層厚が変化するリフト期の堆積層と,それらを平行に覆うリフト後の堆 積層に区分できる.リフト期最上部の層準はボーリングデータからほぼ小出川 層と前川層の境界部(ca. 15 Ma)に相当する.リフト後の堆積層の変形から 4条の正断層のうち2条が逆断層としての再活動している.特に,測線西部の断 層は,深さ3km程度で分岐し,それぞれの地表への延長部は活断層である出店 断層となっている.分岐断層のうち西側の高角度の断層は,正断層が直接再活 動した断層であり,東側の断層については新たにショートカットして形成され た断層(Footwall shortcut thrust)である.
 地震探査データでは,往復走時5秒付近(約13km)からの反射波が収録され ている.この反射波群は,水沢地域の北方で地震研究所が実施した深部地殻構造探査で報告されている往復走時4.5秒から5秒の反射層に相当する.脊梁山地 では,この反射面が地震発生層下限となっていることから(Sato et al., 2002:Tectonophysics, 355, 41-52),地震発生層の下限に存在するデタッチ メント断層と推定される(Kato et al., 2006)。
 地下深部の断層の形状を明らかにするための手法開発も含め、(株)地球科 学総合研究所・東京大学地震研究所・岩手大学は、前述した断面での構造探査 を実施した(阿部ほか,2008物理探査学会)。この探査によって、出店断層の 深部延長が10km程度まで追跡され、深部で低角度になる断層形状が明らかにな っている(上:平面図、下:断面図。赤星印は気象庁による本震の震源を断面図に投影して表示した。震央は平面図の範囲外に位置する。)。  



今回の地震の震源断層について、出店断層の深部延長か否かは今後の観測結 果を待つ必要があるが、大局的には北上山地とその西側の奥羽山脈までには数 条の西傾斜の断層があり、そのいずれかが逆断層として再活動したものと推定 される。それらの断層の起源は日本海の形成時にできた正断層である。    
今回の地震と地質・地殻構造との関係については、地震観測結果が明らかに なり次第、続報する。

【文献】
1) Naoko Kato, Hiroshi Sato, Norihito Umino, Fault reactivation and avtive tectonics on the fore-arc side of the back-arc rift system, NE Japan, Journal of Structural Geology, 28, 2011-2022, 2006.
2) 阿部 進・斉藤 秀雄・佐藤 比呂志・越谷 信・白石 和也・村上 文俊・加藤 直子・川中 卓・黒田 徹,制御震源及び自然地震データを用いた統合地殻構造探査 - 北上低地帯横断地殻構造調査を例として -,物理探査学会第118回学術講演会講演要旨,2008.
3) 斉藤 秀雄・阿部 進・白石 和也・佐藤 比呂志・越谷 信・加藤 直子・川中 卓,北上低地帯横断地殻構造探査について,物理探査学会第118回学術講演会講演要旨,2008.
4) 阿部 進・斉藤秀雄・佐藤比呂志・越谷 信・加藤直子・白石和也・川中 卓,北上低地帯横断測線における統合地殻構造探査について,日本地球惑星科学連合2008年大会予稿集,2008.
5) 斉藤秀雄・阿部 進・白石和也・佐藤比呂志・越谷 信・加藤直子・川中 卓,北上低地横断地殻構造探査について,日本地球惑星科学連合2008年大会予稿集,2008.


文責:加藤直子・佐藤比呂志