2010年 チリ中部地震

ウェブサイト立ち上げ: 2010年2月27
最終更新日: 2010年4月9日

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2010年2月27日15時34分(日本時間,現地時間では午前3時34分)ごろ,南米チリでマグニチュード8.7程度の地震が発生しました.巨大地震であるため,現地では大きな被害が出ています.日本でも太平洋側の沿岸地域で1mを超える津波が観測されました.

なお,USGSによると,震源の位置は南緯35.846°,西経72.719°,深さ35 km,マグニチュードは8.8となっています.

(アウトリーチ推進室)


更新履歴


テクトニクス背景と歴史地震

今回の地震は,南米プレートに対するナスカプレートの沈み込みに伴って起きた.ナスカプレートはこの付近では年間8cmほどの速度で南米プレートの下へ東向きに沈みこんでいる.低角逆断層の震源メカニズムであることにより,このプレートの境界面で起きた,プレート境界地震であると考えられる.

過去にこの地域で起きた地震を下左図に示す.(クリックで拡大表示.過去の地震については,Kelleher, 1972のFig.1,Lomnitz, 1970のTable 1 を参照した.) それぞれの断層において数十年から100年程度の周期で,マグニチュード8クラスの地震が繰り返し起きている.グレーで示した地震は津波が観測されていないもの.この地域のほとんどの地震が津波を起こしていることがわかる.

下右図はこの地域の震源分布とその断面図(1973年から2010年2月25日までのPDEカタログによる).

今回の地震の震源は,1960年チリ地震(20世紀以降最大のマグニチュード9.5)の震源域の北側に位置しており,1928年と1939年の地震(ともにマグニチュード8.3)の震源域を超える範囲で断層運動があったと考えられる.

1960年のチリ地震では現地で9mの津波が観測され,そのほぼ一日後に伝播した津波により日本で142名の死者・行方不明者を出した.

(大木 聖子 助教)


津波シミュレーション

今回の地震の津波シミュレーション.(クリックで動画へ)

日本周辺の拡大図はこちら.(クリックで動画へ)

報道等の方へ:こちらの動画をお使いになる場合は,『東京大学地震研究所 佐竹教授による』といれてください.

(佐竹 健治 教授)


J-arrayで観測された波形

こちらから.(クリックで波形のページへ)

新J-array地震波形データベースは,日本列島の高感度地震観測網を大アレーに見立て, 世界各地で発生している大地震の地震波をオンライン・リアルタイムで収集し,データベース化したものです. 現在,全国の大学と気象庁の約400近い観測点の3成分の地震計の波形データが地上高速ネットワークを通じて収集されています. 地震波形データは,全て20HzサンプリングのJ-anay標準波形データに変換して保存されています.

(地震予知情報センター)


余震分布

←クリックで拡大表示.

USGSによる本震を星印で,3月2日1時3分(世界標準時)までの余震を丸印で地図上にプロットした.楕円はこの地域の歴史地震の震源域(Kelleher, 1972のFig.1を参照した).

(大木 聖子 助教)


室戸沖GPS津波計の記録

室戸沖に設置してある津波計の記録のリアルタイム表示 (30秒程遅れて表示)

2つ出る波の表示のうち,上段は波浪(短周期波),下段が津波(長周期波:60秒の移動平均値).
縦軸のスケールは変更可能.
GPS津波計についての詳細はこちら

なお,同じGPSブイがGPS波浪計として,国土交通省により東北沿岸に設置されており,その記録はこちらから見ることができる.沖合の潮位を観測するためのものなので見かけがかなり異なるが,津波も優位なものであれば見える可能性がある.

(加藤 照之 教授)


遠地実体波による震源過程インバージョン

左図:断層の上盤の断層すべり(黒コンター)を地図や24時間以内の余震分布(オレンジ丸)に重ねたもの.モーメントマグニチュード8.7,最大11mの断層すべりがあった.断層長さは450~500kmにおよぶ.右図: 全体の震源メカニズム.走向が16°,傾きが18°の低角逆断層である.

USGSのマグニチュード8.8の根拠となったWフェーズの解析結果(下記参照)に比べると,やや小さいマグニチュードとなった.震源(破壊開始点;星印)の北側にアスペリティ(断層すべりの大きい領域)が広がっており,その北東に首都サンチアゴが隣接しているので,サンチアゴでの被害は,アスペリティ近傍の強震動(強い揺れ)によると考えるのが妥当であろう.また,主要な断層破壊が破壊開始点からサンチアゴに向かって進んだことも影響している可能性がある.

(← クリックで拡大します) 

(Natalia Poiata氏,纐纈一起 教授)


W-phaseによる震源解析

震源の走向が13.4°,傾きが15.1°,モーメントマグニチュード8.8の結果が得られた.

(横田 裕輔 氏)


 三陸沖光ケーブル式海底地震・津波観測システムのとらえた海面変化

三陸沖に設置されている,光ケーブルを利用した海底地震・津波観測システムによる記録.大きなうねりは潮汐の記録をあらわす.14時前からの波形が今回の地震の津波による海底下での水圧の変化(=海面の変化)を記録したもの.

釜石湾東方の沖合に敷設された地震観測装置と津波観測装置は,データをリアルタイムで釜石市(八木浜)の陸上局に送っており,三陸沖で発生する地震や津波などの災害情報を収集して防災活動の一翼を担っている.沖合で観測されたこれらのデータが沿岸ではどのくらいの津波となるのか等のより詳細な津波予測は,こういったシステムによる継続的な観測により可能になる.

三陸沖光ケーブル式海底地震・津波観測システムとは.(←クリックして詳細ページへ)

(酒井 慎一 准教授)


地球表面を周回する地震波

地震波には大きく分けて実体波(P波やS波)と表面波の2種類がある.実体波は地球の内部を突き抜けて伝わってくる波であり,表面波は地球の表面に沿って伝播する周期の長い波である.今回の地震のように震源が浅くマグニチュードが大きい場合は,何周も地球を周っている表面波が観測される.世界的に展開されているIRIS地震観測網や,日本で展開されている高密度観測網F-netを解析してみたところ,今回の地震による表面波が5周していることが確認された.

表面波のひとつ,レイリー波には地球を周る方向によって下図のような名前が付けられている.地球の中心を通る円で震源(★印)と観測点(▽印)を結んだとき,近い円弧(劣弧)に沿って伝播しものをR1,遠い円弧(優弧)を伝播したものをR2という.R1が再び震源に戻りもう一周して観測されたものはR3,同様にR2がもう一周したものをR4,と命名していく.

下図は小笠原観測点(父島)の観測記録に200~300秒のフィルターをかけて表面波が見やすくなるように加工したものである.地震の発生を0秒とし,60000秒(約16時間半)までの波形記録を示した.最初の大きなピークがR1,すぐ次のピークがR2である.ここで,近い側の円弧(劣弧)を伝播したR1と遠い側の円弧(優弧)を伝播したR2との差がほとんどないことは,震源(チリ中部)に対して観測点(日本・小笠原)がほぼ真裏にあることからきている.

下図は世界各地の観測記録を距離順に上から並べたものである.ひとつの波形がひとつの観測点の記録(上図参照)をあらわしている.20000km地点は震源の真裏に相当する.R1が近い観測点から順に観測されていく様子が見てとれ,5周まで確認できる.

同様に日本のF-net観測網を解析した結果を下に示す.上述のとおり,震源がほぼ真裏であるため,R1とR2,R3とR4,・・・,が隣接して観測されている.

こういった現象は2008年の四川地震(6周)や2004年のスマトラ島沖地震(8周)でも観測された.

謝辞: 防災科学技術研究所のF-net観測網のデータを使用させて頂きました.

(大木 聖子 助教)


振動する地球

今回の地震のような巨大地震の後には,地震波が地球を数周した後も地球全体が振動し続けている.釣り鐘をたたいた後も釣鐘全体が変形して振動している様子に似ている.

今回の地震でも2日以上にわたって振動をし続けている様子が観測された.図は,観測された波形に色々な周波数の成分が含まれている事を示したもの.それぞれのピークが一つの振動パターに対応している.たとえば0S2という振動パターンはフットボール型と呼ばれる振動,0S0という振動パターンは地球全体がのび縮みする振動に対応してる.今回の地震ではそれぞれ,おおよそ0.19mmおよび0.03mmの振動を続けていることがわかった.

このように,マグニチュード8をゆうに越える巨大地震では,周期1000秒以上で地球全体が変形してる様子を見て取ることができる.初めて実際に観測されたのは1960年のチリ地震だった.

謝辞: 防災科学技術研究所のF-net観測網のデータを使用させて頂きました.

(西田 究 助教)


Directivity -指向性-

今回起こったチリ地震のように断層サイズが500km 破壊の継続時間が100秒を超えると,周期100秒の表面波でも瞬間的に破壊が起こったとは見なせなくなる.このような場合地震波の射出される方向によって振幅が変わる現象,Directivity(指向性)が見られる.解説は下の図をクリック.

(西田 究 助教)


津波に関する意識調査結果(速報)

2010年2月27日に南米チリで起きたチリ中部地震では大規模な津波が発生し,日本へも到達した.これをふまえて,津波に関する日本人の意識調査を実施した.下図をクリックして詳細ページへ.

「今回,気象庁が発表した大津波警報や津波警報は防災上の観点から適切でしたか」という問いに対する回答.


最大加速度の距離減衰

強震計9点分の加速度記録が紙媒体(PDF)でUniversity of Chileから公開されている.ここに書かれている最大加速度(PGA:水平2成分のうち大きい方)を,上記「遠地実体波による震源過程インバージョン」で用いた断層モデルに対する断層最短距離でプロットした(下図).もっとも大きなPGAは74.3km地点での548.8galである.

(司 宏俊 研究員)


リンク

  • 衛星測地データによる解析 Supersites