2010年4月 エイヤフィヤトラヨークトル火山の噴火(アイスランド)

ウェブサイト立ち上げ:2010年4月19日

更新2010年4月22日

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アイスランドのエイヤフィヤトラヨークトル火山の活動が4月14日から活発化し,近隣住民の避難だけではなく,火山灰による航空関係への被害などが出ている.本ウェブでは噴火の背景となるアイスランドのテクトニクスを中心に報告する.(広報アウトリーチ室・火山噴火予知研究センター)


更新情報


エイヤフィヤトラヨークトル火山の基本情報

  • 位置: アイスランド南部(63.63N, 19.62W)
  • 山頂高度: 1666m
  • カルデラ幅: 25.5km
  • 過去の噴火: 1821年12月-1823年1月

テクトニクス背景

アイスランドはプレートが生まれるところ「海嶺」と,マントルに生成源があると考えられるマグマが上昇してくる場所「ホットスポット」との上に位置している.(図1で描かれる海嶺とホットスポットとが同じところに位置し,アイスランドを形成した.)

図1.プレートテクトニクスの模式図

島の東側がユーラシアプレート,西側が北米プレートであり,年間10mm程度の速さで開いている.今回噴火したエイヤフィヤトラヨークトル火山は島の南部に位置している(図2).

図2.アイスランドを横切る大西洋中央海嶺とエイヤフィヤトラヨークトル火山の位置.(Pedersen and Sigmundsson, 2006 に加筆)


氷河下での火山噴火

ヘルドブレイド火山(撮影:金子助教)


厚い氷河の下からマグマが上昇してきて火山を形成すると写真のように上が平らな火山「卓上火山(テーブルマウンテン)」となる.この平らな頂上までの高さが噴火当時の氷河の厚さといえる.

氷河下からの噴火では水とマグマとが触れ合って火山灰は細かくなる.(「航空機と健康への影響」参照)









航空機と健康への影響

すでに空路の深刻な影響を及ぼしているが,火山噴火の代表的な被害として火山灰による航空機への影響が挙げられる.

エンジンに吸い込まれた火山灰は燃焼室で融解し,その後排気口に移動して冷却し固まり,燃料ノズルや排気タービンに付着し目詰まりや破損が生じる.これにより飛行機は推力を失う.過去には,ブリティッシュエアウェイズ(イギリス)とKLM(オランダ)とが,インドネシアやアラスカの火山の上空で火山灰を吸い込みエンジン4基すべてが停止するという緊急事態に見舞われた.最近では2000年の三宅島火山の噴火でもエンジン障害が報告された.

地上であっても,細かい火山灰が降ってくることによって,健康への被害が起こりうる.明らかな降灰,異臭などが感じられるようになれば,呼吸器や眼球の保護のために,マスクの着用やコンタクトレンズ等のケアにも注意が必要である.


衛星画像による地殻変動の解析

日本の地球観測衛星 「だいち」(ALOS)に搭載されたPALSARという合成開口レーダー(SAR)のデータを干渉解析して、地殻変動分布を求めたところ,噴火口近くでは最大で70cmの隆起があったと考えられることがわかった.

下図1はアイスランド南部をクローズアップしたもの.左の大きい赤三角はエイヤフィヤトラヨークトル火山,右の小さい赤三角はカトラ火山の山頂を示す(Smithsonian Institutionによる).カラーで示してあるLOSとは,Line of Sight(視線)の略で,矢印に示すように西(やや西南西)から東(やや東北東)方向の,鉛直から約38度傾いた視線方向から見ている図になる.干渉解析では,ある点が東へ移動するのと沈降するのは区別ができない.いずれも視線距離が伸びるためである.同様に,西へ移動するの隆起するのとは区別できない.また,白い線は等高線を,灰色の部分は氷河の影響で干渉しなかったかあるいは画像の端より外側だったためにデータがなかった部分をあらわしている.

さて,下図1の解釈を以下に述べる.この期間(2007年2月18日から2009年8月26日)はほとんど変動がない.つまり,マグマの蓄積は2009年8月以降に始まったと考えるのが妥当である.

図1.2007年2月18日から2009年8月26日の干渉処理画像.

さらに,2007年12月25日から2010年4月1日も,2008年1月6日から2010年4月13日も,最大50cmほどの視線距離の短縮が見られる(下図2と図3).これは地下でマグマが溜まることによる隆起と解釈することができる.この2枚の変動パターンの考察として,4月1日から13日までの間に地下でのマグマの蓄積はあっただろうが,2008年1月6日から2010年4月13日の変位がもう一方に比べてやや大きい程度なので,4月1日までにマグマはかなり溜まっていたという解釈があげられる.また,変動の中心は3月の割れ目噴火よりは西側で,4月14日から噴火が始まった山頂(左の赤三角)よりは東のようである.

図2.2007

図2.2007年12月25日から2010年4月1日までの干渉処理画像.

図3.2008年1月6日から2010年4月13日までの干渉処理画像.

謝辞:PALSAR Level1.0データは,PIXEL(PALSARInterferometry Consortium to Study our Evolving Land surface)において共有しているものであり,宇宙航空研究開発機構(JAXA)と東京大学地震研究所との共同研究契約にもとづいて提供されました.PALSARデータの所有権は,宇宙航空研究開発機構および経済産業省にあります.

青木 陽介 助教


リンク

<参考文献>

  • 中村一明著 「火山の話」岩波書店
  • 中村一明著 「火山とプレートテクトニクス」 東京大学出版会,
  • 荒牧重雄・白尾元理・長岡正利 編 「空からみる世界の火山」 丸善
  • 小野寺三朗,井口正人,石原和弘(1997)「火山噴火による航空機災害の防止と軽減」京都大学防災研究所年報 40,B-1, 73-81
  • 澤田可洋(2005)2000年8月18日の三宅島噴火によ る航空機と噴煙の遭遇,火山,50,247-253
  • 小野寺三朗(1995)「航空機災害, 火山の事典<第二版>」p.373-376, 朝倉書店