2011年東北地方太平洋沖地震による 首都圏の微小地震活動の変化

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2011年東北地方太平洋沖地震による 首都圏の微小地震活動の変化

  • 注1: 首都圏の微小地震(M2~M4程度)活動の推移に関する研究の暫定結果である.

  • 注2: 必ずしも大きい地震(M6~)の活動について予測するものではない.

  • 注3: 過去に顕著な地震活動がない地域については本研究の手法は適用できない.

本研究は,下記の投稿論文に関するものである.

Ishibe, T., K. Shimazaki, K. Satake, and H. Tsuruoka, “Change in seismicity beneath the Tokyo Metropolitan area due to the 2011 off the Pacific Coast of Tohoku Earthquake”, submitted to Special Issue of Earth, Planets and Space (EPS) “First Results of the 2011 Off the Pacific Coast of Tohoku Earthquake”

(石辺・島崎・佐竹・鶴岡による)


研究のモチベーション

東北地方太平洋沖地震発生後に,日本各地に置いて明瞭な地震活動の変化が観測されている.下図左は本震が起きる前1ヶ月の地震活動,右は本震発生後1ヶ月の地震活動を示す.震源域近傍の余震活動以外にも,東日本の内陸部で地震活動の活発化が見られる.

この地震活動の変化を,静的クーロン応力変化(ΔCFF)で説明できないか検討する.

ΔCFFとは何か

地震が起きると,その地震の発生によって周辺の応力分布が変化する.(地震発生周辺の岩盤内での力の分布が地震発生前とは変る,ということ.)そしてその応力分布の変化によって,新しい地震が発生することがある.

左図は,1992年にカリフォルニア州で起きたランダース地震(M7.3)の発生に伴うクーロン応力分布の変化を紫から赤への色のグラデーションで現わしたものである(King et al., 1994).紫は応力が減少したところで地震が起こりにくくなった場所,赤は応力が増加したところで地震が起きやすくなった場所を意味する.

図の白い四角はランダース地震の後に発生した小さな地震の震源をあらわしている.地震活動は,赤いところに集中している.つまり,クーロン応力変化が増加したところで地震活動が活発化したことがみてとれる.

東北地方太平洋沖地震の影響で,首都圏にはどのくらいのクーロン応力変化があったのだろうか.

本研究での手法: 本震後に発生する地震のメカニズムを考慮

これまで,クーロン応力変化を計算する際には,本震発生後に起きる地震活動について,個々の地震のメカニズムは本震と同じであると仮定していた.下図は1984年の長野県西部地震(M6.8)によるクーロン応力変化を示したものである.青は応力変化が減少した場所,赤は上昇した場所,黄緑の丸は本震発生後に起きた地震の震源分布をあらわす.左図では本震の震源として右横ずれ断層を仮定した場合,右図は逆断層を仮定した場合を示す.(断層のタイプについては『謎解き地震学 No.10』を参照のこと)

両者を見比べると,本震は右横ずれ断層だったにもかかわらず,本震後の地震活動の分布は,本震に逆断層を仮定した場合の方がよく説明できている.実際,本震後に発生した地震の多くは逆断層タイプであった.

このように,複雑なテクトニクス環境においては,本震のメカニズムだけで解析をすると大きな誤差を生じる恐れがある.そこで本研究では,過去に起きた地震のメカニズム(断層のタイプ)を活用してクーロン応力変化を計算した.

関東・東海地震観測網定常処理による初動メカニズム解

左図は1979年7月1日から2003年7月1日までに発生した深さ100kmより浅いM2以上の地震の初動メカニズムを示す(関東東海地震観測網による定常処理によるデータ.震源メカニズムについては『謎解き地震学 No.10』を参照のこと).

この30,000個余りの地震のメカニズムを用いて,クーロン応力変化を計算した.






得られたクーロン応力変化

得られた応力変化を下図に示す.左は深さ0-30km,右図は深さ30-100kmにおける応力変化をあらわす.赤いところは応力の増加を,青いところは応力の減少を示す.また,グレーのところは本手法が適用できない場所を示す.適用できない理由は,上述の通り,過去の地震活動が少ないため,震源メカニズムを使用することができなかったからである.

この結果が現実を説明しているとすると,赤いエリアで微小地震活動が活発化しているはずである.下図に地震前と地震後の地震活動データを比較する.上段は本震前の地震活動,下段は本震後の地震活動,左右は震源の深さの違い(左:0-30km,右:30-100km)をあらわす.

四角で囲ったA~Dの領域内で,本震後にわずかに地震活動が高まっているのがわかる.これらの領域内の地震の積算個数やマグニチュードを時間の推移をおってグラフにすると左図のようになる.

左図の上には,横軸に2011年2月1日からの時間の流れを,縦軸に本震以降の地震の発生回数を積算してプロットした.(積算個数であることに注意が必要.)線の色はA~Dの領域を示す.3月11日の本震以降,地震の回数が増えていることがわかる.

左図の下には,横軸に2011年2月1日からの時間の流れを,縦軸にマグニチュードをとり,A~Dのエリアそれぞれの地震活動の頻度と規模とを示した.3月11日の本震以降,地震活動が活発化している傾向がみられる.ただし,3月下旬の地震活動の低下は気象庁による震源決定処理が未完了であることによる見かけ上のものである可能性もある.




茨城県北部の地震活動について:本手法適用外のエリアの例

左図にみられるように,本震発生後,茨城県北部では地震活動が活発化した.左図上は平面図上での地震活動を,左図下は東西断面図を示したもの.

この地域のクーロン応力変化をみると,右図の黄色い枠囲みで示した通り,グレーになっている.グレーのエリアは上述の通り,本手法の適用外のエリアである.適用外の理由は,上述の通り,過去に顕著な地震活動が見られないため,震源メカニズムを用いることができなかったからである.

同様のことは,グレーのエリア全般について言える.


よくある問い合わせ

Q. 今後30年間での首都直下地震の発生確率が70%という話はこれによるのですか?

Q. このサイトにある赤や青の図は揺れやすさを示しているのですか?

Q. ○○に住んでいます.いつ地震が起きますか?

  • 地震の発生する日時を予測することはできません.仮に日時を予測できたとしても,地震が起きたときにすばやく対応できるように備えることは不可欠です.一方で,首都圏での地震発生の危険性については,100年以上も前から繰り返し繰り返し何度も何度も言われてきています.現に,関東大震災(1923年,M7.9)のような大きな地震も起きていますし,M6クラスの地震もこれまでもいくつも起きています.地震災害では,地震発生時の瞬時の判断がとても重要になります.寝ている時に大きな揺れがあった場合,どうするか決めているでしょうか.私は,枕元の懐中電灯を手にして,ベッド下に常備してあるスニーカーかあるいはスリッパ(のいずれか可能な方)を履いて,まずはリビングに行く,そこで家族の無事を確認する,と決めています.一度電気を消してリアルに想像してみてください.本当に強い揺れがあった場合は停電します.通勤・通学中の場合,職場や学校にいる場合,家族で団欒している場合など,一通りのシチュエーションについて,ご家庭や職場で話し合い,地震発生のその瞬間にまず最初に何をするか決めておくのがいいと思います.

Q. ○○に住んでいます.どのように地震に備えたらいいのかわかりません.

  • 地震の備えについては,例えば東京消防庁の『地震に備えて』などをご覧ください.
  • お住まいの自治体のホームページなどでは,より詳細に記述されているものと思います.そちらもご参照ください.