2012年4月 インドネシア・スマトラ北部西方沖の地震

立ち上げ: 2012年4月11日

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2012年4月11日14時38分(現地時間,日本時間では17時38分),インドネシア・スマトラ島北部の西方沖でマグニチュード8.6の地震が起きました.インド洋を囲む国々には津波警報が発令されました.気象庁によれば,この地震による日本への津波の影響はありません.


基本的な情報-USGSウェブサイトによる

  • 震源の位置: 北緯2.311度, 東経93.063度,深さ22㎞
  • マグニチュード: 8.6(モーメントマグニチュード Mw
  • 断層メカニズムのタイプ: 横ずれ断層型
  • 関連するプレート: オーストラリア・ユーラシアプレート

背景にあるテクトニクス

スマトラ島は,オーストラリアプレートがスンダプレート(ユーラシアプレート)の下へ,1年間に60-65mmの速度で北東方向に沈み込むところに位置しており,世界的にも有数の地震活動の活発な地域である.過去には,津波で20万人を超える死者を出した2004年スマトラ島沖地震(M 9.1)や,その3か月後に起きたM8.7の地震など,巨大地震や超巨大地震が起きている(図1).

図1.スマトラ島周辺で起きた地震(佐竹健治教授の作図に加筆).


今回の地震の特徴

今回の地震は2004年に起きたM9.1の地震の西側で発生している.震源はプレート境界の西方の沖合に位置しており,2004年のスマトラ島地震や2011年東北地方太平洋沖地震のようなプレート境界地震ではない.

こういったプレート境界の沖合いで起きる地震は,一般に,アウターライズ地震と呼ばれており,特に,プレート境界での巨大地震が発生すると,正断層型(引っ張りの力)のアウターライズ地震の発生リスクが高まると考えられている.アウターライズとは,海溝から海側にかけて,地形的にもりあがった部分を指す.こ の盛り上がりは,沈み込もうとするプレートが海溝の手前から曲がり始めるために出来ると考えられているが,震源が浅い場合はこの曲げによる引っ張る力が働いて正断層型となることが多い(図2).ところが,今回の地震は,断層メカニズムが横ずれ断層型であることから,一般的なアウターライズ地震(正断層型)とはメカニズムが異なっている.地形や構造の影響があるのかもしれないが,なぜ横ずれ断層型になったのかはわからない.そのような意味で,今回の地震をいわゆる「アウターライズ地震」としてよいのかも,今後検討される必要がある.

図2.アウターライズ地震とプレート境界地震.

横ずれ断層型のタイプだと,正断層型や逆断層型の場合よりも津波が励起されにくい.M8.6と地震の規模は大きいものの,大規模な津波が観測されていないことは,横ずれ断層型のメカニズムに起因すると考えられる.

また,2時間後の16時43分(現地時刻,日本では19:43)にM8.2の地震が,南西隣りで発生した.M8.6の地震の余震と位置付けるにはややマグニチュードが大きいが,メカニズムはよく似ている.なお,2012年1月10日にはM8.6の今回の地震のすぐ近くで,M7.2の地震が起きており,今回の地震の前震であったと考えられる.

  • 地震のメカニズムのタイプ(逆断層・正断層・横ずれ断層)については,『謎解き地震学 No.7』を参照のこと.
  • 津波が発生するしくみについては,『謎解き地震学 No. 4』を参照のこと.

あらためて定量的に吟味するのは難しいが,今回の地震は,2004年のスマトラ島沖地震(M9.1)の影響(プレート内の応力状態の変化)で起きたと考えるのが自然であろう.日本でもM9.0の超巨大地震が発生したばかりであり,アウターライズ地震の発生のリスクは以前から指摘されている.マグニチュード9を超えるような超巨大地震の場合は,その影響が数年あるいは数十年にも及ぶことを踏まえて備えなければならない.過去には,1896年の明治三陸地震の37年後の1933年に昭和三陸地震がアウターライズ地震として発生し,津波による被害が起きている.また,2006年11月の千島列島の地震(M8.3)の2ヶ月後には,M8.1のアウターライズ地震が発生している.


 

J-arrayで観測された波形

2012年4月 インドネシア・スマトラ北部西方沖の地震(地震火山情報センター)

http://wwweic.eri.u-tokyo.ac.jp/topics/20120411/

(鶴岡弘准教授)


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