2013-2014 年西之島噴火



西之島噴火に伴い発生する可能性がある津波について


 西之島では溶岩流出が継続しており,島の南西および南東側では溶岩流がすでに海底火山体の山頂火口縁に達していると考えられる (Fig. 1, 火山センター西之島のページ参照). 今後溶岩がさらに島の外側に供給され続けた場合,急斜面上に溶岩が流出することになるが,このような状況では, 溶岩流先端部での自破砕・水冷破砕により生じる砕屑物が斜面上に堆積し,その上に新たな溶岩流や砕屑物が積み重なっていくと考えられる. 急斜面上に形成された溶岩塊を主体とする砕屑性堆積物は,脆弱である上に重力的に不安定で,崩壊しやすい.

 溶岩流の海への流入により形成された新たな陸地が崩壊する事例は,ハワイ・キラウエア火山の溶岩デルタなどで知られている*1. 今後,西之島で溶岩流が急斜面上に供給され続けた場合,新島の一部が小規模な崩壊を起こす可能性があると考えられる. 崩壊が起これば,崩壊物は海底火山体の斜面を重力流として流下するとともに(陸上であれば火砕流に相当する),津波が副次的に発生する可能性がある. 以下では,西之島において斜面上に成長した新たな島の一部が崩落することにより発生する津波の特徴について検討する.
Fig.1 西之島周辺の海底地形.xy 軸は緯度経度,z 軸の単位は m.


Fig.2 西之島および小笠原諸島周辺の海底地形 (東西 240 km,南北 180 km).xy 軸は緯度経度,z 軸の単位は m.


 数値計算は,重力流(火砕流や岩屑なだれなど)が海に流入することにより発生する津波を対象として開発されてきた,非線形長波理論にもとづく二層流モデルの有限差分法による解析手法*2 を用いて行った. 海底地形データには海洋情報研究センターによる M7023 ver. 2.0(小笠原海域)を用いた(Fig. 1, 2).計算領域は,広域では200 mグリッド,波源近傍ではその 1/3 のグリッドを用いて接続している. 下記 4 通りの初期崩壊条件(Table 1)について調べた.


Table 1 Initial condition of collapse
LocationVolume (×104 m3)
Case 1AWestern edge1300
Case 1BWestern edge600
Case 2AEastern edge1200
Case 2BEastern edge780

例えば Case 1B の初期条件は,新たに形成された島の西側一部(面積約 13万 m2,海水面上の平均高さ約 20 m,体積にして2014年6月現在の推定総体積の 1/7 に相当する約 600 万 m3 を仮定)が斜面上へ流出するというものである.



[数値シミュレーション結果の例]

# 西側崩壊: Case 1B(動画へのリンク)

# 東側崩壊: Case 2B(動画へのリンク)


[津波の最大波高分布]
Fig.3 津波の最大波高分布.(a)Case 1A,(b)Case 1B,(c)Case 2A,(d)Case 2B. どの場合も波源近傍では最大 10 m 程度に達するが概ね数 m 以下である.西之島から離れると減衰するが,海底地形の影響により小笠原諸島付近で再び波高が高まる.東側崩壊(Case 2)の方が小笠原諸島での波高は高くなる.


[父島南西岸における津波の特徴]
Fig.4 父島南西岸における津波波形(発生から 40 分後まで).東側崩壊の場合,小規模でも 1 m を超える津波になる可能性がある.また,2分30秒から3分の周期の波が次第に減衰していくという特徴を示す.


[津波到達時間分布]

Fig. 5 津波到達時間の分布(Case 2B の例).単位は分.父島へは 20 分弱で到達する.津波の波速はほとんど水深に依存するため,初期条件が変わっても津波到達時間の分布に大きな変化はないと考えられる.




*1 例えば,USGS による解説など.

*2 Kawamata, K., Takaoka, K., Ban, K., Imamura, F., Yamaki, S and Kobayashi, E. (2005) Model of tsunami generation by collapse of volcanic eruption: the 1741 Oshima-Oshima tsunami. In Tsunamis: cases studies and recent development (Satake, K., ed.), Springer, p79-96. Maeno, F. and Imaumra, F. (2011) Tsunami generation by a rapid entrance of a pyroclastic flow into the sea during the 1883 Krakatau eruption, Indonesia. Journal of Geophysical Research, 116, B09205, doi:10.1029/2011JB008253.