最近の成果

ここでは、最近の研究成果をイラストとともに紹介しています。 より詳しい研究成果や報告書、過去の計画の成果などはこちらをご覧下さい

令和元年度の成果

※現在作成中です。

平成30年度の成果

これらの図は下記の報告書に掲載されているものです。

日記史料に基づく有感地震の記録日数の推移
日記史料には地震の被害だけでなく,日々の有感地震についても詳細に記録されている。西南日本で記された複数の日記史料からは,安政元年(1854年)11月5日の南海地震の本震以降,頻発する有感地震を記録した日数の推移が分かる。グラフは,安政元年(1854年)11月から安政2年(1855年)12月末までの期間について,有感地震の記録日数を月ごとに示したものである。グラフより,西南日本では安政2年9月から再び有感地震が増加した状況が分かる。

1454年享徳地震の復元
炭素年代測定から1454年享徳地震によるものと判断された津波堆積物の検出位置と,復元された当時の海岸線を基に行った浸水シミュレーションによって,享徳地震の規模がモーメントマグニチュード(Mw)8.4以上であったと推測された。

南海トラフ沿いプレート境界の滑りと固着
(a)GPS-音響結合方式による海底地殻変動観測によって得られた海底の変動速度から推定された,南海トラフ沿いプレート境界の滑り欠損速度分布。滑り欠損速度の大小はプレート間の固着の強弱を反映していると考えられることから,南海トラフ想定震源域内において固着分布に不均質があることが示された。
(b)海底における坑内間隙水圧観測によって得られたひずみ変化から推定された,熊野灘のトラフ軸近傍でくり返し起こる「ゆっくり滑り」。間隙水圧変化から得られたひずみの変化の大きさと,その変化がプレート境界での滑りによって生じたと仮定して推定された各イベントの滑り量を示した。2016年4月1日に発生した三重県南東沖の地震(M6.5)後に浅部超低周波地震が続発したが,これに連動して大きな滑りが観測されている。

プレート境界の滑り速度変化と地震発生との比較
北海道?関東地方の沖合のプレート境界断層の広い範囲で,プレート境界の滑り速度が概ね周期的に変化していることを小繰り返し地震及び地殻変動データから発見した。滑り速度が普段よりも速くなると,プレート境界の固着が緩むため大きな地震が起こりやすくなる傾向があることが示された。(a)解析に用いた相似地震の分布(赤色丸)。赤色の矩形(領域A)は,(b)図の領域に対応する。白線は2011年東北地方太平洋沖地震の滑り域,黒線は他の大地震の滑り域を示す。(b)繰り返し地震データから推定した三陸沖西部でのプレート境界での滑り速度(灰色)と,GNSSデータから推定した地表面の短縮速度(紺色)の時系列。上部のパネルはマグニチュード5以上の地震活動を示し,緑はそのうち,プレート境界の滑り速度が増加している際に発生したものを表す。

2011年東北地方太平洋沖地震後の地殻変動とその原因を説明するモデル
2011年東北地方太平洋沖地震後の地殻変動とその変動を説明するモデル。左図:陸上GNSSと海底GNSS-Aによって測定された2012年から2016年の間の地殻変動速度。
矢印は水平変動速度で,陸上のコンター(青と赤の色)は上下変動速度。宮城県沖では陸とは逆向きの西向きの変動が卓越している。陸上では奥羽山脈を境に東西で上下変動が逆転している。右図:地殻変動のパターンを説明する地下構造のモデル。宮城県沖の海陸の逆向きの変動は,海洋プレート下のマントルの粘性的な振る舞いによって説明される。地震発生時に海溝軸近くの海洋プレートが大きく西向きに動くことにより,特に海溝軸外側(海側)の海洋プレート直下のマントルにも西向きの流れが生じる。この流れにより,地震後も,海溝軸近くの海洋プレートは西向きに動き続ける。陸側のプレートは,地震時に東向きに動くため,陸側のプレート直下のマントルにも東向きの流れが生じ,地震後も陸側のプレートは東向きに動き続ける。

2016年熊本地震:複雑な地震活動
(a)左図:熊本地震に伴う干渉SAR解析による地表変動の様子。右図:干渉SAR解析により提案された熊本地震の震源断層モデル。地表変動を説明するために少なくとも3枚の異なる断層面に沿う断層運動を仮定する必要である。(b)前震(2016年4月14日M6.5)から本震(2016年4月16日M7.3)に至る地震活動の震源分布の推移。震央分布(上)と代表的な深さ断面図(下)に,累積の震源分布を示す。丸印の色と大きさは,地震の深さとマグニチュードをそれぞれ表す。

多項目観測で見た火山噴火の推移
九州の阿蘇山で,地殻変動,火口温度,放熱量,地震などの多項目観測を実施したところ,噴火の推移に応じて多くの観測項目のデータが明瞭に変化し,火山活動の活発化を反映している様子が捉えられた。グラフ中の赤矢印は2014 年11 月のマグマ噴火前に見られた各観測量の上昇を表す。青矢印は2015 年9月に噴火警戒レベルを2から3に引き上げる直前の活動度の変化を表す。青灰色の縦線は火口周辺に影響を及ぼした比較的規模の大きい噴火を表す。一方,紫色の縦線が示す2016 年4月の熊本地震の際はデータに変化の見られた観測項目は限定的であった。

桜島のマグマ供給系と噴火事象の分岐条件
上図は桜島のマグマ供給系,下図は桜島において経験的に得られた,1日当たりのマグマ貫入量に基づく噴火事象の分岐条件を示す。既に火道が存在している場合は,貫入量が増加するにつれてブルカノ式,溶岩噴泉,溶岩流出へと噴火様式が変化する。新たに火道を作る場合は,106m3/日程度であれば噴火しないが,108m3/日と推定された大正噴火では全島避難となるような大規模噴火となった。

東日本大震災被災地の過去100年の土地利用変化
1896年明治三陸地震,1933年昭和三陸地震,1960年チリ地震津波,2011年東北地方太平洋沖地震において,陸前高田と石巻を比較すると,4つのどの地震・津波においても,陸前高田は広く津波浸水が及んだ。一方,石巻は前3つにおいては,浸水はほとんど確認されないか,あったとしても狭い範囲に留まっていた。土地利用の変化を見ると,陸前高田においては,津波浸水域を避ける形で都市的利用が広がったが,1980年代におけるこの地方の土地利用拡大期において,過去の津波浸水域に一部市街地が広がっている。石巻においては,土地利用拡大期以前から,都市的利用が海岸線付近に広く広がっており,その傾向は土地利用拡大期にさらに加速し,東北地方太平洋沖地震による都市的利用部分に対する津波浸水域が広範囲に及んだ。

2011年東北地方太平洋沖地震の強震観測データ同化に基づく長周期地震動の予測実験
(a)2011年東北地方太平洋沖地震の発震時から100,120,140,160秒後時点の同化波動場(加速度の南北成分)のスナップショット。(b)それぞれの時点の同化波動場(左)を用いて計算された,発震時から220秒後の予測波動場。(c)それぞれの時点の同化波動場を用いて計算された,新宿(TKY007)における予測波形と実際に観測された波形(速度の南北成分)。(d)予測波形と観測波形の速度応答スペクトル(水平成分)の比較。

研究分野横断型のリスク評価手法の構築
南海トラフ地震が発生した際の高知県における人的被害(棟死亡率:木造2階建て1棟当たりの死亡率)について,震源断層,地震動予測式,地盤増幅率,建物被害率曲線,建物被害による損失額及び人的被害の各モデルの不確実性を考慮して試算した。平均値は高知平野で特に高く,室戸岬と足摺岬及び高知平野と室戸岬の間の沿岸部で高い。また,棟死亡率のばらつき(予測の幅)も同じ地域で高くなると推定された。

桜島火山における避難シミュレーション
最近100年間我が国において発生していないような大規模噴火では,避難の途中において大量の降灰があれば避難を続けられなくなる可能性がある。事前分析として火山灰の堆積厚が30㎝以上となる地域に住む80万人の住民全員が避難する時間の予測シミュレーションを行い,50時間となる結果を得た。次に避難意向のアンケート調査を行い,その結果と風向を反映したシミュレーションから,避難する住民の数と避難勧告が発表されてからの避難時間の見積もりは大きく変わることが確かめられた。これは,風向きによって避難すべき地域が絞られ,その地域が避難勧告等で発表されるために避難人数が絞られることと,避難準備情報があれば準備を始められることから避難勧告発表時には素早く避難できることが理由であると考えられる。このようなシミュレーションは,実効性の高い避難計画の作成に役立つ。

2018年大阪府北部の地震の震源断層モデル
(a)大阪府北部の地震(2018年6月18日,M6.1)の震央と,活断層の分布を示す。灰色の点と青色の点は,それぞれ大阪府北部の地震の発生前と発生後の地震活動の分布を表す。上町断層帯と有馬高槻断層帯を赤い太線で示す。(b) 大阪府北部の地震の震源断層モデル。色のついた点は,大阪府北部の地震の余震分布を表しており,色は深さに対応する。逆断層(F1)と横ずれ断層(F2)に対応する面状の分布が確認される。

平成30年北海道胆振東部地震の余震分布と流動化発生個所の地盤断面図
上図:臨時余震観測により高精度に推定された平成30年胆振東部地震の余震分布。余震は深さ10~40km付近に分布している。下図:ボーリング調査で明らかになった液状化に伴う流動化発生個所の地盤断面図。沈降量の大きな部分では含水量の多い特に柔らかい火山灰層が存在していた。

東北地方太平洋沿岸域の沈降メカニズム
(a)東北地方太平洋地震発生前の地表で測定(水準測量)された上下変動速度の平面図。
(b) 中部東北日本を横断する測線(図(a)の直線AA')周辺の上下変動速度を日本海溝からの距離の関数として示す。黒点は水準測量に基づく観測データで,実線と破線は数値シミュレーションによる上下変動速度を表す。線の色は,巨大地震発生後の各経過時間に対応する。
(c)数値シミュレーションの際に仮定した粘性率構造。

日本列島周辺域基本構造モデルの構築
これまでに得られている様々なデータを統合し,日本列島周辺域の基本構造モデルを構築した。左図:地殻構造モデル。地殻とマントルの境界であるモホ面の深さを等深線で表示。中央:フィリピン海プレートの形状モデル。プレート上面の深さを等深線で表示。右図:太平洋プレートの形状モデル。プレート上面の深さを等深線で表示。(深さの単位はいずれもkm。)

噴火事象系統樹の試作(浅間)
火山現象を網羅的に時系列に沿って示す「噴火事象系統樹」の高度化を進めた。多くの火山において系統樹を作成することができるように,作成手順の一般化を進めた。また,過去の噴火事例に基づいて枝分かれの確率を示した。例えば,上図の赤・黄・青の太線はそれぞれ,天明噴火クラスの大規模軽石噴火,中規模噴火,小規模噴火のたどる推移を示す。火山現象の確率が1.0となっているのは,該当する現象が必ず起きることを示している。

地理空間情報の総合的活用による災害に対する社会的脆弱性克服のための基礎研究
地震・火山研究成果を基盤情報とし,GPS情報の取得により集団避難移動過程を記録できるシステムツールを開発した。このツールにより避難行動をふりかえることで,学習効果と行動変容が期待できる。併せて,積雪寒冷地の地域特性を考慮した災害時の避難や,都市開発が地震・津波災害の災害リスクや社会的脆弱性を増大させる可能性を検討するのに役立つ機能を開発・実装し,高精度な避難ナビゲーションシステムを完成させた。

平成29年度の成果

これらの図は下記の報告書に掲載されているものです。

草津白根山(本白根山)鏡池北火口からの噴火前後の傾斜変動
2018 年1月23 日10 時02 分に本白根山鏡池北火口からの噴火が発生し,新火口列を生じると共に人的な被害が発生した。湯釜火口周辺5 カ所に設置された傾斜計では,噴火の2 分ほど前から湯釜南方が隆起する傾斜変動が観測され,噴火時刻の10:02:10 に収縮に転じた。新火口列から1.1 km のレストハウス付近に設置した地震計には隆起と共に発生した地震が捉えられた。また,空振計では噴火とともに発生した空振による顕著な高周波振動が10:02:13 頃から記録された。観測された傾斜を説明する力源の最適解は,新火口列直下の海抜1000 m(地表面下1000 m)に位置する鉛直クラックが約2 分間で42.5 万m3膨張し,その後約8 分間で30 万m3収縮したことを示した。右下の図には,観測された傾斜と計算された傾斜の方向を示す矢印に加え,地面の上下変動を示す等値線(計算値),湯釜か ら本白根にかけて発生する地震の震源分布を示す。また,平面図の赤線と震源分布の南北断面図中の赤四角は鉛直クラックの投影を示す。

航空機SAR によって捉えられた硫黄山付近の地殻変動
人工衛星を用いた干渉解析手法であるInSAR 解析を航空機SAR に応用するための手法開発を進めている。衛星と異なり,航空機の場合は風などの影響により飛行軌跡を均一に保つことは難しいため,独特の解析手法の開発が不可欠である。今年度までに手法の開発・改良が進み良好な解析結果が得られるようになったことから,火山活動が高まっている霧島の硫黄山で得たデータを用いて,2014 年から2016 年の変化と,2016 年から2017 年の変化を解析したところ,両期間ともに硫黄山付近の膨張を示す地殻変動が明瞭に検出された。航空機SAR は人工衛星による観測と比較して多方向からの観 測が容易であることを利用し,将来的には地殻変動を3 次元的に捉えることを目指している。

最近の新燃岳の活動
新燃岳では,2017 年2 月以降マグマ溜まりの膨張が再び始まり,2017 年10 月11 日に噴火が発生した。噴火の2 日前には,火口直下浅部への流体移動を示す傾斜変動が観測されている。マグマ溜まり は2017 年10 月の噴火直後にわずかに収縮したが,すぐに膨張を再開し,小規模噴火が10 月17 日まで断続的に発生した。3 月1 日からは爆発的な噴火活動が始まり,3 月9 日には火口内へ流出した溶岩が火口北西方向に溢れた。溶岩流出に伴い,3 月6 日から7 日にかけてマグマ溜まりは一旦収縮したが,再び膨張に転じた。
図の一番下には,火口下の微動源の位置を期間毎に色分けして示している。火口直下海抜ゼロメートル付近で発生する微動は,2017 年10 月11 日の噴火後振幅が次第に増加し,発生位置は火口北西の海抜‐1.5 ㎞から新燃岳直下浅部の間で何度か移動した。2018 年3 月1 日噴火以降の微動震源は,溶岩が噴出した火口の北東縁直下に移動した。爆発的噴火が増えた2018 年3 月10 日以降,微動振幅は2017 年10 月の噴火前の水準に戻った。
2018 年3 月中は噴煙中の高さが3000 m を超える噴火が頻発し,4 月以降も月に1 回程度の割合で噴火が発生している。

南海トラフ沿いで発生する地震のb値の空間分布
1944 年東南海地震と1946 年南海地震の震源域(点線で囲んだ領域)で発生した地震の規模別頻度分布を右下に示す。

南海トラフ近傍(熊野灘)の坑内観測システム(C0002 およびC0010 観測点)で計測された,海溝軸近傍で繰り返し起こる「ゆっくり滑り」に伴う間隙水圧の変動イベント
下図には,ゆっくり滑りに伴う間隙水圧の変化の大きさと,その変化がプレート境界での滑りであると仮定した場合の各イベントの滑り量の推定を示した。2016 年4月1日に発生した三重県南東沖の地震(M6.5)後に続発した,浅部超低周波地震の活動に連動した大きな滑りが観測されている。図中には,一例として2014 年3月のゆっくり滑りに伴う両観測点の間隙水圧の変化を示した。
*印:2015 年10 月のイベントではC0010 観測点ではその期間中に圧縮とそれに続く膨張が計測された。

2016 年4 月1 日三重県南東沖の地震(M6.5)の強震動生成域
海域及び陸域の地震観測点(左図)での強震波形記録を併用して求めた強震動生成域(右図)。4.5 km四方の強震動生成域に対して,浅い側(海溝軸側)から深い側(陸側)に向かう北向きに伝播する破壊様式が推定された。この域内での応力降下の値は22 MPa であった。左図中の桃色のコンターは,Kikuchi et al. (2003)による1944 年東南海地震の滑り分布(0.5m 間隔)。

地震発生シミュレーションにより検討した,2016 年三重県南東沖の地震による南海トラフ巨大地震への影響。白色、緑色、赤色となるにつれ、プレート境界での滑りが大きいことを示す。
左図(ケース1):三重県南東沖の地震を模した地震によって余効滑りが浅部にのみ発生した後,再固着するケース。
右図(ケース2):三重県南東沖の地震を模した地震によって余効滑りが浅部・深部ともに発生し,巨大地震につながるケース。

地震リスク評価およびその不確かさに関する検討の概要図
南海トラフ巨大地震による地震リスク評価の全体研究の結果から,各項目のばらつきが被害予測のばらつきに与える影響評価を行った。影響が大きい項目に関わる研究課題を深掘りして推進し,その結果に基づきリスク評価の高度化を行っていく。

日記史料に基づく巨大地震後の有感地震の記録日数の推移
日記史料には地震の被害だけでなく,日々の有感地震についても詳細に記録されている。西南日本で記された複数の日記史料からは,安政元年(1854 年)11 月5 日の南海地震の本震以降,頻発する有感地震を記録した日数の推移がわかる。グラフは,安政元年(1854 年)11 月から安政2 年(1855 年)12月末までの期間について,有感地震の記録日数を月ごとに示したものである。グラフより,西南日本では9 月から再び有感地震の増加している状況がわかる。

2011 年東北地方太平洋沖地震の余効変動
上段:2015 年1 月から2017 年12 月までの平均変位速度。黄星印は東北地方太平洋沖地震の震央。
下段:時系列の例。黒および赤の矢印で速度を示した観測点でのもので,東向きの動きが正。青線は東北地方太平洋沖地震が発生した2011 年3 月11 日。グレーの網掛けをした期間(2015 年1 月~2017 年12 月)のデータから平均変位速度を求めている。海底基準点の赤点線は観測データ(●)から求めた近似曲線。

2016 年熊本地震の断層滑り方向の予測
2016 年熊本地震発生以前の応力場から,熊本地震断層面で期待される滑り方向の予測(下図の黒の直線)を行った。本震時の実際の滑りの方向(下図の白の直線)とよい一致が見られ,地震時滑り方向は応力場に規定されていることが明らかになった.一方で,断層面に関しては,応力場から期待される最適面と実際の断層面のずれが大きい領域があったが,その原因を間隙流体圧が高く岩盤の強度が弱かったためと考え,両断層面のずれの程度から間隙流体圧の相対的な大きさ(相対間隙流体圧)を推定したものを,下図に青~赤の色で示した。暖色系の色は,間隙流体圧が相対的に高いことを表している。

地震のメカニズム解から推定された御嶽山周辺域の間隙流体圧の3次元分布
山麓の地下5~8 km あたりに間隙流体圧が高い断層が存在することが推定された(左図中の矩形A~C)。☆は1984 年長野県西部地震の震央。右図に間隙流体圧が低い(静水圧)断層と高い断層のイメージを示す(水色は間隙流体、茶色は断層)。

相似地震活動の解析から推定された南西諸島海域でのプレート間滑り速度の時間変化
(上図)滑りが加速することで相似地震の活動が活発になると考えられるため,相似地震の活動から滑り速度を推定することができる。滑りが加速すると,大きな地震の震源域での固着をはがそうとする作用が働く可能性がある。(下図)日向灘南部では,2015 年頃以後,滑り速度が加速していることが捉えられた。青線は地震活動度が変化した時期を示す。

阿蘇山における噴火に伴う各種観測量の時間変化、および火口中央部と火口南壁の活動様式の違い
阿蘇山においては地球物理学的多項目観測が行なわれている。2013 年9 月から2017 年6 月までの各種観測量の変化と,2015 年から2017 年に掛けて発生した噴火との対応を調べたところ,噴火時期が近づくにつれて,地下の体積変化量を示す基線長の伸び,熱的活動の活発化,火山性地震の微動振幅増加,熱消磁を反映する地磁気変化等,多くの観測項目に火山活動の活発化を示すシグナルが現われることが明らかになった(図左)。
火口中央部の温度変化は活動変化に対応しているのに対し,火口南壁の総放熱量変化と活動変化との対応は明瞭でない。これは,火口中央部からは火山灰が放出されるが火口南壁は噴火中でも水蒸気放出が卓越する(図右)という活動様式の違いに関係があると考えられる。即ち,火口中央部はマグマの通り道であるために活動変化が直ちに温度変化として現れるのに対し,火口南壁はマグマの通り道になっておらず,放熱量変化が噴火活動と直接は対応しないため,と考えることができる。

都市的土地利用に変化した地点のカーネル密度分布
カーネル密度推定は,点分布が与えられたとき,そこから密度を推定する方法のひとつ。ただし,密度の均一分布を仮定せず,計算地点からの距離減衰効果を考慮に入れて推定する。数値の高いところは,都市的土地利用に変化した地点が空間的に集中していることを表す。

GNSS 搬送波位相データから断層滑りを直接推定する手法 (PTS)により推定された2016 年熊本地震本震の滑り分布
(上段)断層滑りとGNSS 搬送波位相データの模式図。通常の解析と異なりGNSS 観測点の位置を推定しないことで解析が軽量になること,及び,GNSS 衛星の概略位置のみで解析ができることから,解析時の外部情報への依存が少ないことが同手法の利点となる。
(下段)PTS によって推定された断層滑り。黒矢印と棒は,本解析とは独立に,精密単独測位法 (PPP)によって算出された地震に伴う水平および上下変位を示す。同様にPTS によって推定された断層滑りから期待される地表面変位を白抜きの矢印と棒で示す。両者はおおむねよく一致している。

平成28年度の成果

これらの図は下記の報告書に掲載されているものです。

宇宙測地技術により求めた2016 年熊本地震の断層。
(上図)干渉SAR 解析とGNSS 連続観測により捉えた2016 年熊本地震による地殻変動。干渉模様は人工衛星だいち2号から見た2016 年熊本地震前後の平面的な地殻変動量を示す。また黒矢印はGEONET 観測点で観測された熊本地震前後の水平方向の地殻変動量を表す。M6.5 前震とM7.3 本震の震源を星印で,前震と本震で動いた 断層面をそれぞれ異なる色で示している。(下図)観測記録の解析により明らとなった,2016 年熊本地震の断層形状。

2016年熊本地震の地震活動。
(上段)熊本地震合同地震観測グループによる緊急地震観測の結果,明らかとなったM6.5の前震発生から一週間の地震の分布図。M6.5の前震発生から本震発生前までを緑色,本震発生以降を青色で示す。(下段)地震活動の時間変化。地震波形の相関を用いた方法により,数多くの地震を抽出した(右図)。M6.5の前震発生後の地震活動領域は徐々に移動し,本震発生時にはその震源付近を含む領域まで達していた(左図)。

2016年熊本地震による阿蘇山マグマシステムへの影響評価。
干渉SAR解析により求められた2016年熊本地震の断層群の運動により,草千里下6kmに想定されている阿蘇山マグマ溜まりへの影響を有限要素法により求めた。マグマ溜まりは半径1kmの球形を仮定した。断層に最も近い部分では約3.5MPaの差応力が負荷されていることがわかった。

リアルタイムGNSS解析システム(REGARD)による2016年熊本地震の震源断層モデル準リアルタイム推定。
REGARD(REal-time GEONET Analysis system for Rapid Deformation monitoring)は,全国の電子基準点で観測されたGNSSデータをリアルタイムに解析し,地震に伴う地殻変動を求めて震源断層を自動的に推定するシステムである。国土地理院において平成28年度から試験運用を行っている。 図は2016年熊本地震の本震(M7.3)の際にREGARDで得られた地殻変動と震源断層モデルを示している。下段に示された波形は,REGARDでリアルタイムに得られた電子基準点「阿蘇」及び「長陽」の南北成分変位を示す。上段及び右に並べた5枚の図は,周辺の電子基準点での変動から自動的に推定された震源断層モデルを示している。赤矩形が推定された震源断層面で太線は断層上端位置。青矢印は断層の滑り方向とその滑り量を示す。黒矢印が観測された地殻変動,白矢印がモデル計算値である。

考古資料に文献史料を照合した歴史地震の実像解明。
考古資料に基づく地震痕跡は発生場所が明確であるが,詳細な年代の特定が難しい。一方,文献史料に基づく被害地震は発生年月日が明確であるが,被害発生地点の特定が難しい。そこで,考古資料からわかる地震痕跡の場所と,文献史料からわかる歴史地震の発生年を照合し,地震痕跡と歴史地震を組み合わせた被害実態から,歴史地震の実像解明を目指した。

海岸段丘の年代に基づく元禄型関東地震の履歴の再評価。
(a) 房総半島南部千倉低地における完新世海岸段丘の離水年代の再検討による元禄型関東地震の履歴の再評価。(b)堆積性海岸段丘の模式図と稠密ボーリング調査のイメージ。(c)千倉低地における海岸段丘の古海岸線の位置及びその推定離水年代の従来値と再評価された値。

2011年東北地方太平洋沖地震後の地殻変動。
海域の太い矢印で,海底地殻変動観測による変位速度を示す。陸域の細い矢印は陸上のGNSS観測によるもの。2011年東北地方太平洋沖地震時に大きな滑りが観測された宮城県沖から岩手県沖南部においては,粘弾性緩和変形による西向きの水平変位が卓越するが,福島県沖から茨城県沖では,プレート境界面上での余効すべりに起因すると考えられる顕著な東向きの変位が観測されている。

GPS-音響結合方式による海底地殻変動観測によって得られた海底の変動速度から推定された南海トラフ沿いプレート境界のすべり欠損速度分布。
すべり欠損速度の大小はプレート間の固着の強弱を反映していると考えられることから南海トラフ想定震源域内において固着分布に不均質があることが示された。

熱対流モデルを用いた2011年東北地方太平洋沖地震の余効変動の解析。
東北地方の沈み込み帯熱対流モデルに基づく2011年東北地方太平洋沖地震の余効変動のモデル計算と観測値との比較。ウェッジマントルの熱対流モデルから相対粘性率を推定し基準粘性率を与え,沈み込む海洋マントルの粘性構造や蛇紋岩低粘性帯を考慮することで,観測された余効変動をよく再現できた。

岩石の溶解と析出による透水―不透水境界の再現実験。
岩石流体相互作用による透水―不透水層境界の生成実験。実験結果の深さは、実際に相当する深さに換算して与えている。葛根田地区の地下温度構造を想定すると,深さ2km程度の350℃付近では超臨界水となりシリカ(二酸化ケイ素)溶融度が上がるため流体貯留スポットが形成されるが,400℃付近になると溶解度の低下によりシリカの急激な沈殿が生じ不透水境界が形成されることが実験的に明らかにされた。

巨大地震に先行する電離層の電子数密度変化。
2015年にチリ沖で発生したイヤペル地震(Mw8.3)発生直前の電離層の電子数密度異常の空間分布。多数のGNSS衛星と観測点から3次元分布が推定され,震源域近くの低高度に正の異常が,高高度に負の異常が生じていることがわかった。

衛星赤外画像による活火山観測の高度化及び自動化。
衛星を用いた広域観測により,詳細が知られていなかった,インドネシア・ラウン火山の2015年6~8月の噴火の推移を明らかにした。ひまわり8号による超高頻度赤外画像(AHI)によって,熱異常変化を捉え,複数の衛星による高分解能画像から噴火活動状態や溶岩の分布状況を推定した。さらに,噴火前の地形データとの比較から溶岩の堆積状況と噴出率の変化を求めた。平成28年度には,熱異常観測を自動化し,東アジア~西太平洋域の火山のリアルタイム観測を行っている。

避難意向調査を踏まえた避難シミュレーション-大量降灰地域の設定。
最近100年間,我が国において発生していない大規模噴火では,避難の途中において大量の降灰があれば,避難を続けられなくなる可能性がある。事前分析として,火山灰の堆積厚が30㎝以上となる地域に住む80万人の住民全員が避難する時間の予測シミュレーションを行い,50時間となる結果を得た。次に避難意向のアンケート調査を行い,その結果と風向を反映したシミュレーションを行ったところ,避難する住民の数と避難時間は大幅に減少することが確かめられた。

南海トラフ巨大地震による高知県での地震被害リスク。
南海トラフ地震が発生した際の高知県における人的被害について,震源断層モデル,地震動予測式,地盤増幅特性モデル,構造物被害予測式,建物損失モデルの不確実性を考慮して試算した。ここで人的被害とは,木造2階建て建物の被害程度に応じて推定される棟ごとの死亡者数の割合(棟死亡率)である。計算された棟死亡率は各モデルの不確実性によってばらつきを有した量になるが,その平均値は高知平野で特に大きく,室戸岬と足摺岬及び高知平野と室戸岬の間の沿岸部で大きかった。これは,震源からの距離及び堆積層での地盤増幅により地震動が大きく推定されたことによる。また,棟死亡率のばらつき(予測の幅)も同じ地域で大きくなると推定された。

不均質減衰構造の導入による地震動即時予測の精度向上。
(上段)九州地方の地下における地震波の減衰と散乱の構造推定を行った。活火山周辺に加え,一部の活断層周辺においても局所的に散乱及び減衰が大きいことが明らかとなった。(中段)震源とマグニチュードの推定を介さず,リアルタイムの揺れの実況値から直接揺れの伝播を予測する方法に,不均質減衰構造(上段)を導入し,2016年熊本地震の本震に適用した。震度実況から10秒後の震度を予測し,実際の10秒後震度と比較した。(下段)2016年熊本地震本震へ地震動即時予測を適用した際の震度の予測残差。均質な減衰構造を仮定した場合に比べ,不均質な減衰構造を導入した場合は,予測残差が10%程度減少した。

日本海溝海底地震津波観測網(S-net)の整備。
6海域に分けてS-netを整備し,試験運用を開始した。S-netによる水圧計・地震計データは海溝軸外側を除き気象庁への配信が開始されている。津波高・津波浸水域等の即時予測手法の開発等の研究への活用が期待されている。2016年11月22日福島県沖地震発生時のS-net観測点における速度型地震計上下動成分の波形(左図)と水圧計の波形(右図)。地震波形は各波形の最大値,水圧波形は共通の値で振幅を規格化している。水圧波形は,潮汐の影響を除去し,50~3000秒の帯域のバンドパスフィルターをかけている。


平成27年度の成果

平成26年度の成果

平成25年度の成果

前計画までの成果