銅線電話網を用いた大地震の断層調査‐ニュージーランドでの共同研究‐

上嶋 誠

 地震予知研究センターの上嶋誠教授らのグループは、ニュージーランド地質調査所(GNS)と現地電話会社Chorusとの共同研究で、ニュージーランド北島Gisborne周辺域で銅線電話網を用いたネットワークMT観測を開始しました。ニュージーランド北島に東から沈み込むヒクランギ沈み込み帯では、巨大地震やスロースリップイヴェントが繰り返し発生しています。また北島中央部には世界でも有数の火山地帯が分布しています。
 今回の調査は、銅線を用いた電話網を用いて地中の電気伝導度を調べることで、沈み込み帯の構造を詳細に把握し、他の構造探査データと合わせて大地震やスロースリップイヴェント、火山噴火の発生可能性を探ることを目的としています。

 本共同研究の現地観測のようすは新聞に報道され、またGNS・Chorus・地震研究所によりYouTubeビデオが制作されました。こちらからご覧いただけます。

霧島山新燃岳の噴火と関連した深部低周波地震

栗原亮・小原一成・竹尾 明子・田中優作 東京大学地震研究所

Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 124, 12, https://doi.org/10.1029/2019JB018032

火山の地下深部(20–30 km)では、深部低周波地震と呼ばれる通常の地震に比べて低周波の地震波を放出する地震が発生していることが知られています。この深さは通常の火山性地震が発生する深さ(数km程度)と比べて深く、地下深部から地表までのマグマの供給に関係していると考えられています。日本では気象庁が通常の地震と合わせて深部低周波地震の観測を行い地震カタログに登録されています。しかし、深部低周波地震は一般的にマグニチュードが小さく、検出および震源決定が難しいため、霧島山では深部低周波地震と噴火を含む火山活動との関係は知られていませんでした。

                   我々は深部低周波地震と噴火の関係を調べるため、過去に観測された深部低周波地震の波形と似た波形を探すマッチドフィルタ法という手法を用いて、2004年4月から2018年12月までの期間で深部低周波地震の網羅的な検出を行うとともに、深部低周波地震の震源位置の再決定とグループ分けを行いました。

                   その結果、2011年1月の霧島山新燃岳での準プリニー式噴火の前後の期間に、深部低周波地震の数が増加していることがわかりました。その増加は2009年12月頃に開始し、2011年9月頃に終了しており、地殻変動の推移とよく対応していました(図)。グループ分けの結果、この期間内に増加した深部低周波地震は、別の期間に発生している深部低周波地震と比べて震源位置がやや深く、その波形はより低周波の成分が卓越していることがわかりました。さらに、深部低周波地震の震源位置が噴火の推移と対応して変化していることもわかりました。また、2017年から2018年の霧島山新燃岳および硫黄山で発生した噴火の際にも深部低周波地震が増加していることがわかりました。

                   これらの結果から、2011年の霧島山新燃岳の噴火の約1年前から地下深部よりマグマの供給が行われていたことがわかりました。本研究で明らかになった、噴火前後における深部低周波地震の震源位置は、地下深部からのマグマの供給ルートの解明の手がかりとなることが期待されます。

図(a) 国土地理院GEONETの2観測点間で計算された地殻変動 (b) 気象庁の地震カタログでの霧島山付近での深部低周波地震の累積個数 (c) 本研究で検出した深部低周波地震の累積個数。矢印は深部低周波地震が増加した期間を示す。

北海道・東北地方太平洋沖における、超低周波地震の網羅的検出

馬場慧1・竹尾明子1・小原一成1・松澤孝紀2・前田拓人3・ 1: 東京大学地震研究所、2: 防災科学技術研究所、3: 弘前大学理工学研究科

Journal of Geophysical Research, Solid Earth, https://doi.org/10.1029/2019JB017988

 巨大地震が発生するプレート境界面の固着域の周辺部では、通常の地震のほかに、スロー地震と呼ばれる、通常の地震よりも遅いすべり速度で断層破壊が起こる現象が発生しています。スロー地震は巨大地震と共通の低角逆断層のメカニズム解を持つことから、巨大地震の発生と関連している可能性が指摘されています。スロー地震の中には、低周波微動、スロースリップイベント、超低周波地震(Very Low Frequency Earthquake; VLFE)があり、本研究で解析を行ったVLFEは、0.02-0.05 Hzの周波数帯で観測されています。本研究では、VLFEを用いて北海道〜東北地方の太平洋沖におけるプレート境界面のすべりを明らかにすることを目的にVLEFの検出を行いました。解析では、3次元速度構造モデルを用いた理論波形をテンプレートとし、これとF-net波形データの相関係数を計算するマッチドフィルター法を用いました。この手法は、任意の位置にスロースリップの仮想震源を設定できるという利点があります。

 その結果、十勝沖、及び岩手県沖と茨城県沖では、それぞれ2003年9月26日の十勝沖地震(Mw 8.0)と2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(Mw 9.0;以下、東北地震)の後に、それらの地震のアフタースリップによると考えられるVLFEの発生数の急激な増加が見つかりました。一方、宮城県沖〜福島県沖では東北地震後にVLFEの活動の静穏化が見られました。これは、宮城県沖〜福島県沖が東北地震の断層面の大すべり域の縁にあたり、東北地震によって蓄積していた歪みが解消されたためと考えられます。また、十勝沖地震後の十勝沖〜青森県沖および東北地震前の宮城県沖では、数ヶ月〜1年程度の間隔でVLFEがバースト的に発生する活動が見られ、これはプレート境界面のわずかなすべりを反映している可能性があります。

図1 各グリッド毎の仮想震源(スロー地震)の検出個数の分布。色が濃いほどスロー地震が多数検出されたことを示す。 ○印は大地震、⭐︎印は先行研究で検出されていたVLFEの震源を表す 。
図2 本研究の結果を模式的にまとめた図。巨大地震の大滑り域の内部(図のオレンジ色の部分)では、数ヶ月間隔でバースト的なVLFEの活動が見られた一方、巨大地震発生後は静穏化した。一方、巨大地震の大すべり域の周辺(水色部分)では、巨大地震発生後にVLFEの活発化が見られた。

2018年 M6.7北海道胆振東部地震前後の地震活動の特徴

熊澤貴雄・尾形良彦・鶴岡 弘

1 東京大学地震研究所,統計数理研究所

Earth, Planets and Space (2019) 71:130 https://doi.org/10.1186/s40623-019-1102-y

2018年6月に発生したM6.7北海道胆振東部地震の前震、余震活動の特性を統計モデルで詳細解析した。この地震の余震地域の地震活動は2003年M8.0十勝沖地震を境に統計的に有意に減少していたが、震源分布は余震地域の浅い方に移動しながら、M5.1地震を含む群発地震が胆振東部地震本震(M6.7)の約一年前にその深部で発生した。本震に続く余震活動は、本震の数日後から2019年2月の最大余震(M5.8)まで有意な静穏化を示した。これらの活動変化は十勝沖地震および胆振東部地震による応力変化で説明できる。前述のM5.1地震と本震後の群発地震の期間には地震活動の上昇傾向が検出され(図1)、これらの活動が通常の(ETAS地震活動モデルが想定する)、先行する地震からの誘発の連鎖とは異なる因果関係で発生したことが示唆される。余震活動全体のb値の変化は、余震期間全体を通して経過時間とともに増加傾向を示したが、これは余震が空間的に異なる特性を持つことを意味する。

プレート境界の応力集中域の周囲で発生する浅部超低周波地震

武村俊介1・野田朱美2・久保田達矢2・浅野陽一2・松澤孝紀2・汐見勝彦2

Geophysical Research Letters, 46 (21), 11830-11840, doi:10.1029/2019GL084666

1東京大学地震研究所, 2防災科学技術研究所

南海トラフのプレート境界において巨大地震が繰り返し発生しているが、それより浅部のプレート境界(トラフ軸周辺)では、通常の地震と比べてゆっくりとしたすべり現象(浅部スロー地震) が起きている。スロー地震は、プレート境界の構造的特徴や応力状態と関連があると考えられており、日本を含む世界中の沈み込み帯で精力的に調査が進められている。

本研究では、南海トラフのプレート境界浅部で発生する浅部超低周波地震(スロー地震の一種)について、防災科学技術研究所F-netの連続波形記録を用いたテンプレート解析に基づいて、小さな浅部超低周波地震を検知するとともに、震央位置を再決定することで、それらの活動の時空間変化を明らかにした。

Noda et al. (2018)が求めたプレート境界のすべり欠損速度の分布を利用して、プレート境界のせん断応力変化の空間変化を評価し、浅部超低周波地震の震央位置と比較した(図)。その結果、浅部超低周波地震は、プレート境界の応力集中域の周囲で頻繁に発生していることがわかった。また、せん断応力変化と浅部超低周波地震の発生数の関係(図b)から、浅部スロー地震活動はフィリピン海プレートの沈み込みによるせん断応力変化が大きく強度の強い固着域とせん断応力変化が小さい安定すべり域の間の遷移領域で活発に発生していることを明らかにした。

このような、フィリピン海プレート境界の摩擦強度の不均質性は、巨大地震の発生や破壊過程を考える上で重要である。 本研究で検知した浅部超低周波地震のカタログは、論文のウェブページ(https://doi.org/10.1029/2019GL084666)とスロー地震データベース(http://www-solid.eps.s.u-tokyo.ac.jp/~sloweq/)にて公開されています。

図 (a)南海トラフ沿いで発生する浅部超低周波地震の震央分布とプレート境界のせん断応力変化率の比較、(b)プレート境界のせん断応力変化率と浅部超低周波地震の発生数の関係。せん断応力変化率はNoda et al. (2018)によるフィリピン海プレート上面のすべり欠損速度より計算した。薄い/濃い青○印は浅部超低周波地震の震央で、それぞれテンプレートイベントとの相関係数が0.45または0.60より大きいものを示す。

南海トラフ沿いのスロー地震の発生域の特徴

S. Takemura1*, T. Matsuzawa2, A. Noda2, T. Tonegawa3, Y. Asano2, T. Kimura2 and K. Shiomi2 (2019). 1東京大学地震研究所, 2防災科学技術研究所, 3海洋研究開発機構

Geophysical Research Letters, 46(8), 4192-4201 https://doi.org/10.1029/2019GL082448 *論文投稿時は防災科学技術研究所

南海トラフの巨大地震発生域の浅い側(トラフ軸周辺)では、通常の地震と比べてゆっくりとしたすべり現象(スロー地震) が発生している。スロー地震の発生は、プレート境界の構造的特徴と関連があると考えられ、プレート境界の状態と巨大地震発生域の特徴を知る上で重要な手がかりとなると期待される。

我々はそのようなスロー地震発生域の特徴を調べるため、室戸岬沖から紀伊半島南東沖で発生するスロー地震(浅部超低周波地震)の特徴(空間分布、規模、メカニズム解)を詳細に調査した。本研究では、長期間の活動状況を調査するために防災科学技術研究所F-netの広帯域地震計記録を利用した。陸域の地震波形のみを用いて海域の地震を解析するには、海洋プレートや海洋堆積物などの海域特有の複雑な地下構造の影響の考慮が必要である。そこで、本研究では3次元不均質地下構造を用いたスーパーコンピュータによる地震波伝播シミュレーションに基づいて震源の特徴を推定するTakemura et al. (2018)の手法を適用した。

本研究により推定された2003年6月から2018年5月までに発生した浅部超低周波地震のメカニズム解の分布を図aに示す。プレート境界での断層運動を示唆する低角逆断層のメカニズム解が多く推定されたことから、浅部超低周波地震はプレート境界のすべりの状態をモニタリングする上で重要な現象であることがわかった。また、我々の解析手法ではメカニズム解と位置だけでなく、規模も正確に推定できることから、浅部超低周波数地震の活動度の定量的な評価(図b)が可能となった。

本研究の解析結果を既往の研究結果と比較したところ、スロー地震(浅部超低周波地震)がフィリピン海プレート上面のすべり欠損速度が大きい領域の周囲、かつ地震波速度が遅い領域で活発に発生していることが明らかとなった。

本研究で得られた2003年6月から2018年5月までの浅部超低周波地震のカタログは、論文のウェブページ(https://doi.org/10.1029/2019GL082448)とスロー地震データベース(http://www-solid.eps.s.u-tokyo.ac.jp/~sloweq/)にて公開されています。

図. 浅部超低周波地震の震源メカニズム解の空間分布と活動度の時間変化。浅部超低周波地震の震源球の色と活動度の時間変化のシンボルと線色を対応させてある。

ミュオグラフィ画像がとらえた桜島のマグマの動き

László Oláh1・Hiroyuki K.M. Tanaka1・Takao Ohminato1・Gerg˝o Hamar2・ Dezs˝o Varga2
1東京大学地震研究所, 2ハンガリー・ウィグナー物理学研究センター
Geophysical Research Letters, 46, 10,421-10,424, doi:10.1029/2019GL084784
First Published: 06 September 2019

桜島ミュオグラフィ観測所は、2017年まで活動が活発だった昭和火口直下にプラグ(マグマ流路をふさぐ栓のようなもの)が存在する様子を捉えました。画像の分解能は60メートルであり、プラグの形成時期は昭和火口の活動が低下した2017年からその隣の南岳火口が活発化した2018年の間と推定されます。このプラグはミュオグラフィ画像内の昭和火口直下に現れた物質量(密度)の上昇によるものと解釈され、その確からしさは99.7%以上になります。南岳火口近傍においても非常に高い確率で物質量の上昇が推定されました。これは、活発化した南岳火口から噴出した物質の堆積による効果と考えられています。

桜島昭和火口直下及び南岳火口近傍における密度上昇を示すミュオグラフィ画像。(a)2017年7月~10月にかけて得られたデータ。(b)2018年2月~6月にかけて得られたデータ。

桜島ミュオグラフィ観測所、観測装置の写真

1973年にスロースリップイベントが紀伊半島下で発生していたかもしれない -歴史傾斜記録の活用-

加納将行(東北大学)・加納靖之(東大地震研)
Earth, Planets and Space volume 71, Article number: 95 (2019)
doi:10.1186/s40623-019-1076-9

近年、南海トラフ沿いをはじめとして、世界各地でスロー地震の発生が知られるようになりました。スロー地震とプレート境界で起きる巨大地震との関係が広く議論されており、スロー地震がいつどこで発生しているかを調べることはとても重要です。スロー地震のひとつにスロースリップイベント(SSE)があります。現在は、SSEに伴なう地殻変動をGNSSやボアホール傾斜計によって観測したり、SSEに合わせて発生する微動を地震計で観測したりしてSSEが検出されています。では、これらの観測装置が整備される以前の南海トラフでのSSEの発生状況はどうだったのでしょうか?

私たちはGNSS等の観測網が整備される以前の1970年代の京都大学の紀州観測点の傾斜計記録を用い、SSEを検出することができるかを検討しました。同観測点では、1950年代から振り子を利用した装置による傾斜観測が実施されていました。検出された地面の傾斜はブロマイド紙(感光紙)に記録され、京都大学阿武山観測所で大切に保管されてきました。この記録を写真撮影し数値化して、SSEの分析を用いました。

1973年11月の記録にSSEによる傾斜変化と解釈できる変化を見つけました。1-3日かけて起きた1.4マイクロラジアン程度の傾斜変化でした。この変化を、最近(1996 年から2012年)観測されたSSEの際に同観測点で生じる傾斜変化を計算して比較し、観測点の数十km西側にSSEを仮定することで、傾斜変化の方向が説明できることがわかりました。一方、傾斜変化の大きさは、最近発生したSSEのものより1-2桁大きいものでした。これは、1973年に発生したSSEの規模がより大きかった可能性を示しています。数値シミュレーションにより、地震発生サイクルにおいて次の巨大地震の発生が近づくにつれて、SSEの規模が小さくなっていく結果が示唆されており、そういった傾向を見ているのかもしれません。今後、歴史記録をさらに活用して過去のSSEの規模や発生間隔を知ることにより、南海トラフでの地震発生サイクルのなかでのSSEの役割の理解につながると考えています。

(左上)京都大学阿武山観測所に保管されている傾斜記録紙の例(1973年11月19日から26日)。(右上)1960〜70年代の記録紙。(左下)1973年11月19日から12月10日までの記録を数値化して表示(黒線)。計算から求められた潮汐(青線)と比較している。(右下)記録紙にみられた傾斜変化(緑矢印)と最近発生したSSEから計算された傾斜変化(赤矢印)の比較。

山陰地方の地殻内地震活動の季節変動性

T. Ueda and A. Kato (2019).
Geophysical Research Letters, 46, 3172–3179.
https://doi.org/10.1029/2018GL081789

地震活動は、降雨や灌漑などの地表や地下浅部に応力変化をもたらす現象に伴って季節変動を示すことがあると言われています。地震活動は大地震発生後に活発になる性質があるため、季節変動を含む長期的な地震活動の変動を知るためには、地震によって誘発された地震活動を取り除くことが重要です。我々は時空間ETASモデルと呼ばれる地震活動の数理モデルを用いて地震によって誘発される活動を取り除くことで、山陰地方のM(マグニチュード)3.0以上の地殻内地震の活動に対して季節変動性を評価しました。

その結果、山陰地方の地震活動は春と秋に活発になる傾向があることがわかりました(図1左)。さらに、過去に発生した大地震も春と秋に多く発生している特徴がみられることから、長期間にわたって地震活動に季節変動性があることが示唆されました(図1右)。

今回明らかになった季節変動は、春は雪解けによる地下浅部の応力変化、秋は降水量の増加による断層強度の弱化によって地震活動が活発になったものと解釈しました。今後、様々な領域で同様の検討を行うことで、地震活動の長期的な変動をもたらす原因の理解が深まることが期待されます。

図1(a)1980-2017年の期間における山陰地方のM3.0以上の背景地震活動度(地震によって誘発された地震を取り除いた地震活動)の月別頻度分布。(b)山陰地方で1850年以降に発生したM6.2以上の大地震の月別頻度分布。

スペクトルの評価による安定した応力降下量推定手法の開発

Yoshimitsu, N., Ellsworth, W. L., & Beroza, G. C. (2019). Robust stress drop estimates of potentially induced earthquakes in Oklahoma: Evaluation of empirical Green’s function.

Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 124. https://doi.org/10.1029/2019JB017483

地震の震源の特性を反映した応力降下量は地震発生の物理から強震動予測まで,様々な場面で重要になるパラメタです.これまで世界各地で発生した地震の応力降下量が推定されてきましたが,その値には大きなばらつきがありました.応力降下量の推定では理論モデルと観測波形から計算されたスペクトルを比較し,応力降下量の算出に必要な3つの地震パラメタを求めますが,この際に地震パラメタが含む誤差が応力降下量の値の誤差につながっていると考えられています.このような誤差は,様々な要因でスペクトルに余計な情報が混ざりそのままでは理論モデルと比較できない観測データに対しても無理に理論モデルを当てはめていることが原因で生じます.そこで本研究ではスペクトルの比較を行う前に,そのクオリティを判断するための3つの評価プロセスを導入してスペクトルの選別を実施し,選択した理論モデルで評価可能なスペクトルのみを解析できるようにしました.

解析にはアメリカ合衆国オクラホマ州で2013年から2016年にかけて発生したマグニチュード4.5以下の地震のS波後続部分を用い,震源が近接した地震同士でスペクトル比を計算しました.観測波形から得たスペクトルの形状を評価するための項目として,(1)地震パラメタ間のトレードオフの大きさ,(2)理論スペクトルと観測スペクトルの残差のばらつき,(3)残差の周波数軸方向へのなめらかさ,を取り入れこの3つ全てをクリアしたスペクトルのみを解析に使うことにしました.

ある特定の地震Aと様々な規模の小さい地震との間で複数のスペクトル比を計算した場合,本来は地震Aについては全てのスペクトル比から同じ応力降下量が推定されるはずですが,スペクトルの選別を行う前は大きくばらついていました.しかし,評価プロセスを経た後はばらつきが顕著に小さくなっており,導入した評価プロセスが有効に働いていることが示唆されました.より正確な応力降下量を推定することで,震源の物理の研究がさらに発展することが期待されます.

スペクトル比. (a) (b) 3つの評価条件を満たしたスペクトル比と (c) (d) 満たさなかったスペクトル比.灰色はスタックする前の各観測点で収録されたスペクトル比,黒色はスタックされたスペクトル比.赤色は最もよくフィットする理論スペクトル比.