スペクトルの評価による安定した応力降下量推定手法の開発

Yoshimitsu, N., Ellsworth, W. L., & Beroza, G. C. (2019). Robust stress drop estimates of potentially induced earthquakes in Oklahoma: Evaluation of empirical Green’s function.

Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 124. https://doi.org/10.1029/2019JB017483

地震の震源の特性を反映した応力降下量は地震発生の物理から強震動予測まで,様々な場面で重要になるパラメタです.これまで世界各地で発生した地震の応力降下量が推定されてきましたが,その値には大きなばらつきがありました.応力降下量の推定では理論モデルと観測波形から計算されたスペクトルを比較し,応力降下量の算出に必要な3つの地震パラメタを求めますが,この際に地震パラメタが含む誤差が応力降下量の値の誤差につながっていると考えられています.このような誤差は,様々な要因でスペクトルに余計な情報が混ざりそのままでは理論モデルと比較できない観測データに対しても無理に理論モデルを当てはめていることが原因で生じます.そこで本研究ではスペクトルの比較を行う前に,そのクオリティを判断するための3つの評価プロセスを導入してスペクトルの選別を実施し,選択した理論モデルで評価可能なスペクトルのみを解析できるようにしました.

解析にはアメリカ合衆国オクラホマ州で2013年から2016年にかけて発生したマグニチュード4.5以下の地震のS波後続部分を用い,震源が近接した地震同士でスペクトル比を計算しました.観測波形から得たスペクトルの形状を評価するための項目として,(1)地震パラメタ間のトレードオフの大きさ,(2)理論スペクトルと観測スペクトルの残差のばらつき,(3)残差の周波数軸方向へのなめらかさ,を取り入れこの3つ全てをクリアしたスペクトルのみを解析に使うことにしました.

ある特定の地震Aと様々な規模の小さい地震との間で複数のスペクトル比を計算した場合,本来は地震Aについては全てのスペクトル比から同じ応力降下量が推定されるはずですが,スペクトルの選別を行う前は大きくばらついていました.しかし,評価プロセスを経た後はばらつきが顕著に小さくなっており,導入した評価プロセスが有効に働いていることが示唆されました.より正確な応力降下量を推定することで,震源の物理の研究がさらに発展することが期待されます.

スペクトル比. (a) (b) 3つの評価条件を満たしたスペクトル比と (c) (d) 満たさなかったスペクトル比.灰色はスタックする前の各観測点で収録されたスペクトル比,黒色はスタックされたスペクトル比.赤色は最もよくフィットする理論スペクトル比.

2015年ネパール・ゴルカ地震: 自然地震反射法による震源断層のイメージング,構造と断層すべり挙動との関係

蔵下 英司1, 佐藤 比呂志1, 酒井 慎一1, 平田 直1, Ananta Prasad Gajurel2, Danda Pani Adhikari2, Krishna Prasad Subedi 3, 八木 浩司4, and Bishal Nath Upreti3,5

1)東京大学地震研究所, 2)トリブバン大学, 3)ネパール科学技術院, 4)山形大学, 5)ザンビア大学

Kurashimo, E., Sato, H., Sakai, S., Hirata, N., Gajurel, A. P., Adhikari,D. P., et al. (2019). The 2015 Gorkha earthquake: Earthquake reflection imaging of the source fault and connecting seismic structure with fault slip behavior. Geophysical Research Letters, 46, 3206–3215. https://doi.org/10.1029/2018GL081197

 2015年4月25日に発生したネパール・ゴルカ地震(Mw7.8)は,カトマンズをはじめとして約9000人の死者を伴う甚大な被害を発生させました.この地震は,インドプレートとユーラシアプレートの境界で発生した地震です.ヒマラヤ地震発生帯は,典型的な大陸衝突型のプレート境界に位置していますが,衝突帯のテクトニクスを理解し,そして本地震の発生原因を検討する上で重要となる詳細な震源分布や速度構造に関する知見は十分ではありませんでした.そこで,震源域中央部を横切る測線で稠密余震観測を実施し,取得データにトモグラフィ解析・自然地震反射法解析・初動メカニズム解析を適応しました.得られた構造と地震時の断層面上のすべり量(Elliott et al., 2016)との比較を図に示します.すべり量が大きかった領域(図cの青色領域)では,断層面の傾斜角が変化し,断層面近傍では地震波のP波速度が高速度な特長が分かりました.すべり量が大きかった領域の浅部側における断層面近傍は,低速度な特長が示されましたが,さらに浅部側の,すべり量が浅部に向かって減少する領域でアフタースリップが推定されている領域(Mencin et al, 2016; 図cの紫色領域)には,断層面近傍に高速度な領域が認められれました.これらの結果は,断層面近傍における物質構造の変化が,地震断層のすべり挙動に影響を与えている可能性を示唆しています.

図: ゴルカ地震震源域中央部を横切る測線下の構造と地震時すべり量(Elliott et al., 2016)との比較. (a)インド‐ユーラシアプレート衝突帯の断面図 (b)測線下の構造と本観測データで決定した測線近傍(±5 km)の震源分布.黒実線は,反射法断面図から確認できる反射帯を示し,反射帯の上面を主ヒマラヤ衝上断層に対応すると解釈しました. P波速度を,カラースケールで示しています.震源は丸印で示し,メカニズムが決定できた地震の断層タイプを,輪郭の色で示します.断層タイプの分類方法は,Frohlich (1992) によります. (c)地震時すべり量と主ヒマラヤ衝上断層から1km下方の面に沿うP波速度分布.青色の領域は,すべり量が600㎝より大きな領域を示し,紫色の領域は,Mencin et al. (2016)によるアフタ-スリップが推定された領域を示します.縦の破線は,主ヒマラヤ衝上断層の沈み込み角度が変化する位置を示します.

【参考文献】
Elliott, J. R., Jolivet, R., González, P. J., Avouac, J. P., Hollingsworth, J., Searle, M. P., & Stevens, V. L. (2016). Himalayan megathrust geometry and relation to topography revealed by the Gorkha earthquake. Nature Geoscience, 9(2), 174–180.

Frohlich, C. (1992). Triangle diagrams: Ternary graphs to display similarity and diversity of earthquake focal mechanism. Physics of the Earth and Planetary Interiors, 75(1‐3), 193–198.

Mencin, D., Bendick, R., Upreti, B. N., Adhikari, D. P., Gajurel, A. P., Bhattarai, R. R., et al. (2016). Himalayan strain reservoir inferred from limited after slip following the Gorkha earthquake. Nature Geoscience, 9(7), 533–537.

2011年東北沖地震の地震波到達前に観測された重力変化

木村将也・亀伸樹・綿田辰吾(東大地震研)・大谷真紀子(産総研)・新谷昌人・今西祐一(東大地震研)・安東正樹(東大物理)・功刀卓(防災科研)

Earthquake-induced prompt gravity signals identified in dense array data in Japan.

Earth, Planets and Space, 71:27, https://doi.org/10.1186/s40623-019-1006-x, 2019.

地震の断層運動によって放射される地震波は地殻中を6—8 km/sの速さで広がります。一方この地震波は地殻の岩石の密度変化を引き起こし、これに伴い重力が変化します。重力変化は地震波より速く光速 (~300,000 km/s) で空間全体に伝わるので、この性質を利用することで、地震発生を地震波到達前に検知することが可能となります。

我々は2011年Mw 9.0東北沖地震の際の広帯域地震計アレイ (F-net) 記録中の重力成分を調べ、地震波到達より前に重力が変化していることを示す信号を7シグマの有意性で見つけました(図1)。これは従来の検出報告に比べはるかに確度が高く、地震発生が重力変化で捉えられることを確実にしました。

現在、重力で地震を検知するための新型の計測装置 (TOBA) の開発が東大物理で進められています。この装置が地震計のように日本列島全体に設置されれば、緊急地震速報をこれまでより早く出せると期待されます。

図1 (a) 2011年東北沖地震による揺れが到達する前の地震計記録の一例。波形を一本ずつ見ても、背景ノイズを超える信号はほとんど見られません。
(b) 左図で用いた観測点(F-net広帯域地震計アレイ)。
(c) 27観測点での波形をスタッキング解析(波形同士を足し合わせて背景ノイズを低減する手法)することで発見された、地震波到達時刻 (t=0) 前の重力変化。

【本研究は英文プレスリリースされました】
UTokyo Focus – “Sensing shakes”
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/en/press/z0508_00032.html

2011年東北沖地震の前後に発生した応力異常

T. W. Becker1・橋間昭徳2・A. M. Freed3・佐藤比呂志2

1テキサス大学オースティン校, 2東京大学地震研究所, 3パーデュー大学

Earth and Planetary Science Letters, 504, 174-184, doi:10.1016/j.epsl.2018.09.035

Published: 15 December 2018

Key Points
・    2011年東北沖地震の4年ほど前から、東北地方の応力パターンが変化
・    2011年東北沖地震後も応力パターンの変化が続くが、3〜4年後以降は回復傾向
・    応力パターン変化のモニタリングは、超巨大地震の発生プロセスの推定に有用

2011年東北地方太平洋沖地震(以下、東北沖地震と表記)のようなマグニチュード9以上の超巨大地震にともなう上盤プレート内の地殻活動の解明は、プレート沈み込み運動の研究や、巨大地震前後における内陸地震の発生ポテンシャル評価のために大変重要です。GNSS観測網による東北地方の地殻変動データより、東北沖地震の10年ほど前から変動速度がそれ以前の通常状態から有意に変化していたことが、すでに示されています。

本研究では、日本列島下の応力場に注目し、東北沖地震の前後に通常時からの変化が見られるのかどうかを調べました。地下の応力状態は、そこで起こる地震のメカニズム解から推定することができます。そこで、防災科学技術研究所のF-net観測網による地震メカニズム解のカタログを用い、東北沖地震の地震前と地震後の応力場を、カタログの各地震の発生と調和的になるよう推定しました。

図1aに、通常時(2007年以前)と比べた東北沖地震直前の応力パターン変化を示します(応力を表す震源球については図1aの説明参照)。特に震源域直上の東北沖(紫四角の周辺)で、緑〜青色の震源球で表される相対的な水平伸張が見られます。これは、通常時の太平洋プレートの固着による東西圧縮応力が、地震直前には弱まっていることを示しています。これは地殻変動研究により指摘されている地震前の固着のゆるみと調和的です。

図1bは東北沖の水平応力の時間変化を示します。最も目立つのは東北沖地震直後の急激な変化ですが、地震前にも3~4年前(2007~2008年)から圧縮のゆるみが見られ、通常時から応力パターンがずれていったことを示しています。地震後には、伸張的な応力場が持続しますが、興味深いことに4年後(2015年)くらいから、伸張応力が弱まり、地震発生前の状態に戻ろうとしているように見えます。

地震後の応力パターン変化については、変動の支配メカニズムが余効すべりから粘弾性緩和へと変わっていくために起こると考えられ、モデル計算により再現することができます。今後、地震前の応力変化も合わせて、地殻変動など他のデータとともにモデル化し、解明を進めていくことが、巨大地震災害を理解するのに必要であるといえます。

図の説明
図1 (a) 東北沖地震直前の応力場の通常(1997–2007年)からのずれ。震源球は、地下の各点が受ける圧縮応力(白面)と伸張応力(色付き面)の3次元的パターンを示す。震源球の色は規格化した応力の水平成分(σm)。背景色(θ)は通常時と地震前の応力パターンの一致度。θ = 1は完全な一致、θ = -1は反転(圧縮⇔伸張)。東北地方のほとんどで0.75以下であり、通常時と比べて一定の違いを示す。(b) 東北沖地震の震源域直上の規格化水平応力(σm)の時間変化(図1aの紫四角の位置)。上下の点線は、それぞれ期間1 ≤ t ≤ 3 year、t < -4 yearのσmの時間平均。東北沖地震に伴う急激な変化の他にも、地震の3〜4年前からの変化や、地震4年後以降にもゆっくりとした変化が見られる。

新しい地震波形解析手法の開発

Takeshi Akuhara1 , Michael G. Bostock2 , Alexandre P. Plourde2, and Masanao Shinohara1

1Earthquake Research Institute, The University of Tokyo, Tokyo, Japan, 2Earth, Ocean and Atmospheric Sciences, The
University of British Columbia, Vancouver, British Columbia, Canada

JGR: Solid Earth First published: 24 January 2019 https://doi.org/10.1029/2018JB016499

地震波を用いて地球内部の構造を調査する手法のひとつに、レシーバ関数解析と呼ばれる手法があります。簡単な計算で地震波形から地下構造の情報を引き出すことができるため、1970年代に開発されて以来、多くの研究で使われています。しかし、レシーバ関数の計算方法は不安定であり、高周波帯域の地震波形や、堆積層や海水内の反射波がノイズとして混入する海底地震計のデータでは、期待通りの結果にならないことがわかっています。

そこで、レシーバ関数解析の次世代型ともいえるような、新しい手法を開発しました。コンピュータの計算能力を活用した現代的な統計手法を用いて、先に述べた問題点の解決を図ります。コンピュータ上でシミュレーションを行ったところ、新しい手法は、従来の手法が通用しないような挑戦的なデータ――すなわち、海底で計測された高周波帯域の地震波形――に対しても、期待通りの結果を出せる可能性があることが分かりました(図1)。

実際に海底地震計で観測されたデータでも、新手法が機能するかどうかを調べるために、日本海に設置された海底地震計のデータに対して同手法を適用してみました。その結果、やはり新手法は従来の手法よりも明瞭に、地下構造のシグナルを抽出できることが確かめられました。また、得られた高周波かつ推定誤差の小さいレシーバ関数波形を利用することで、海底に降り積もった堆積物の詳細な成層構造を明らかにできることを示しました。より深い地殻内の構造についても、高解像度で調査できる可能性があります。今後、新手法を各地の観測データに適用することで、地球内部構造に関する様々な発見が期待されます。

※新手法を動かすためのコンピュータプログラムは、ウェブ上で公開されています(https://github.com/akuhara/MC3deconv:研究者向け、英語サイト)

図1:従来のレシーバ関数手法(上・中段)と新手法(下段)の比較。計算された波形(黒線)が正解の波形(赤線)に近いほど、優れた手法であるということが言えます。

2004年スマトラ地震(Mw9.2)と2012年インド洋地震(Mw8.6)が引き起こした長期的な重力やジオイド高の変化と海水面の高度変化

Yusaku Tanaka1, Yao Yu2, 3, and Benjamin Fong Chao3
1. Earthquake Research Institute, The University of Tokyo, Tokyo, Japan
2. School of Geodesy and Geomatics, Wuhan University, Wuhan, China
3. Institute of Earth Science, Academia Sinica, Taipei, Taiwan

Terrestrial, Atmospheric and Oceanic Sciences, Vol. 30, No. 2, 1-10

 地球の重力場は、地球上の質量の移動に伴い、わずかに変化します。地震も質量の移動を伴う自然現象ですから、地震に伴って重力が変化します。したがって重力の観測で地震による地殻変動量などを推定することができます。

地震に伴う重力変化の研究では、重力観測衛星GRACEのデータが大いに役立ちます。GRACEのデータを利用した超巨大地震に関する研究の成果は既に多くあり(参考:田中・日置『GRACE地震学—衛星重力観測による地震研究のこれまでとこれから—』, 地震・第2輯, 2017)、主に本震の断層運動に起因する地震時の重力変化や、地震後の「余効変動」に起因する重力変化について調査が進められています。なお、地震後の重力変化を引き起こす「余効変動」としては、本震の断層すべりの「すべり残り」が地震後に時間を掛けて解放される(ゆっくりすべる)「アフタースリップ」と、本震の断層すべりによって生じた地下の岩石に掛かっている負担が、岩石の変形や移動によってじわじわ緩和される「粘弾性緩和」という二つの現象が考えられています。地震時の重力変化は、本震時にどのくらいの大きさの断層が、どのように動いて、その結果として地面がどうなったのかを調査するのに役立ちますし、地震後の重力変化は余震の発生とも関連が疑われるアフタースリップや粘弾性緩和に起因するものだと考えられており、現在は統計学的な根拠に基づいて計算されている余震発生確率に、物理学的な根拠に基づいた推定を加えることで確度の高い余震発生予測に繋がる可能性を秘めています。また、地震時・地震後の重力変化は共に地震の全体像を解明するためにも重要です。しかしながら、それらのトータルの重力変化についての観測報告はこれまでありませんでした。その理由の一つは、2002年にGRACEが打ち上げられた後に発生した最初の超巨大地震である2004年スマトラ地震による重力変化が続いていたからです。(ちなみに、東北地方太平洋沖地震の重力変化は現在も進行中です)

本研究では、まず2004年スマトラ地震による地震後の重力変化は、2016年には大部分が終息したことを明らかにしました。そして2004年スマトラ地震に伴う地震時・地震後の重力変化と、その近傍で発生した2012年インド洋地震に伴う地震時・地震後の重力変化、さらに、それらのトータルの重力変化を調査し、その時空間分布を明らかにしました(図1)。

重力変化の空間分布と時系列(図1c, f, g, h)からは、海域で重力が「不可逆的に」変化して、地震前より強くなったり弱くなったりしていることも読み取れます。理論的には、これを反映した海水面の高度変化が存在するはずです。例えば、海域で重力が強まれば、そこに水が引き寄せられるので、この重力変化により海水面が上昇することが考えられます。本研究では、海面高度計のデータを利用して海水面の高度変化を検出できるかどうかも調べました。その結果、地震に伴う重力変化が引き起こす海水面の高度変化は、潮汐の補正を施してもエルニーニョ等による海水温変化による海水面の高度変化(熱膨張)に埋もれてしまい、検出が非常に困難だということが分かりました。これは一見「失敗」だと思われるかもしれません。しかし、見方を変えると、今回の研究とは逆に、熱膨張による海水の動態を調査する際には(現在の技術では)地震に伴う重力の変化はほとんど考慮する必要が無いということが分かったと言えます。

図1 (a)2004年スマトラ地震に伴う地震時の重力変化、(b) 2004年スマトラ地震に伴う地震後の重力変化(2016年7月まで)、(c) 2004年スマトラ地震に伴うトータルの重力変化、(d)2012年インド洋地震に伴う地震時の重力変化、(e) 2012年インド洋地震に伴う地震後の重力変化(2016年7月まで)、(f) 2012年インド洋地震に伴うトータルの重力変化、(g)二つの地震による重力変化の合算(実際の重力変化の観測値)、(h)地図中の赤い丸で示した地点の重力変化の時系列(季節変化は補正済み)。重力変化の空間分解能は数百km程度(球関数の次数と位数が80次まで)。等値線の間隔は、(a)-(c)が10μGal, (d)-(f)が2μGalである。地図中の黒い四角は断層の模式図。震源球は震央に置いた。尚、1 μGal = 10^(-8) m/s2である。

2014年阿蘇山マグマ噴火に伴う地下電気伝導度構造の時間変化

南拓人(1)、宇津木充(2)、歌田久司(1)、鍵山恒臣(3)、井上寛之(2)

(1) 東大地震研、(2)京大火山研究センター、(3)阿蘇火山博物館

Minami, T., Utsugi, M., Utada, H., Kagiyama, T., and Inoue, H. (2018).

Temporal variation in the resistivity structure of the first Nakadake crater, Aso volcano, Japan, during the magmatic eruptions from November 2014 to May 2015, as inferred by the ACTIVE electromagnetic monitoring system. Earth, Planets and Space, 70(1), 138. https://doi.org/10.1186/s40623-018-0909-2

(本論文は、EPS Highlighted Papers 2018に選出されました。)

 近年、噴火の危険性が高い火山では、火山防災の目的から様々な連続観測が行われていますが、地下の温度、圧力、地下水量など、噴火に関わる地下の状態を監視することは、依然として難しいのが現状です。そのような中で、電磁気学的な探査で得られる地下の電気伝導度の値は、火山ガスの溶け込んだ地下水や、マグマが存在する領域で高くなるため、噴火に直接関わる地下の状態を知ることができます。しかしながら、火山の地下電気伝導度の値が噴火の際にどのように変化するかについては、これまで研究例がほとんどありませんでした。

本研究では、 2014年11月25日から2015年5月の期間に発生した阿蘇山マグマ噴火の前後で、 人工電流を用いる電磁気学的な探査を複数回実施し、噴火に伴う電気伝導度の時間変化を推定しました。図では、2014年8月と2015年8月の間の電気伝導度の時間変化を示しており、青色の領域が電気伝導度の低下を、また、赤色領域が電気伝導度の上昇を表しています。地下電気伝導度の推定に関わる数値計算では、 地表面は三角形で、また、地下構造は異なる電気伝導度を持つ四面体の集合として表現しました。図のように、噴火に伴う顕著な変化として、地下約400mの深さで、水平に広く電気伝導度が低下したことが明らかになりました(図の青色領域)。さらに、本研究で得られた複数回の観測による電気伝導度の時間変化を細かく調べると、図に示した電気伝導度変化の大部分は、噴火開始日翌日の観測(2014年11月26日)以前に起きたことがわかりました。つまり、マグマ噴火開始前に、火口直下の広い範囲で電気伝導度変化が低下した可能性が高く、得られた結果は、噴火前にマグマが上昇して地下水の沸騰を進め、広い範囲で火山ガスの溶け込んだ地下水の量が減少したことを示唆しています。

噴火の際の地下電気伝導度の変化が三次元的に明らかにされた例は、本研究の成果が初めてです。今後、他の火山観測の結果と詳細に比較することで、より具体的な地下の物理量(地下水の温度・圧力・溶存火山ガスの成分など)の変化を特定できる可能性があります。さらに今回の結果は、マグマの上昇に伴う地下水量の変化(沸騰を通した水蒸気への変化)を捉えた可能性が 非常に高いものです。 そのため、同様の観測によって噴火前の水蒸気量の変化を捉えることで、現状予測が困難な水蒸気噴火についても、噴火の危険性を評価できる可能性があると考えています 。

第144回地球電磁気・地球惑星圏学会総会・講演会プレスリリース資料 (2018)より一部改変

余震活動解析に基づく2018年大阪府北部地震の震源断層モデル

加藤愛太郎・上田拓(東大地震研)
Source fault model of the 2018 Mw 5.6 northern Osaka earthquake, Japan, inferred from the aftershock sequence
Earth Planets Space, 77:11, https://doi.org/10.1186/s40623-019-0995-9, 2019.

2018年大阪府北部地震に伴う余震活動に関して,震源の再決定,余震の追加検出及び活動解析を実施した。その結果,大阪府北部地震に際して,北北西-南南東走向の東側傾斜(約45度)の逆断層が最初にずれ,約0.3秒後に東北東-西南西走向の高角傾斜の横ずれ断層に破壊が伝播し,その後は同時に断層運動が起きていたことが推察された。これらの断層面と上町断層帯の深部延長との詳細な関係は不明ではあるが,大阪府北部地震が上町断層帯などの東側傾斜の逆断層に与える応力変化を計算したところ,断層運動を促進する方向に約0.1MPaの応力変化を引き起こしたことがわかった。本研究により,水平圧縮応力場が卓越する近畿圏においては,逆断層と横ずれ断層が同時に活動することで1つの地震になる場合があることが明示された。逆断層と横ずれ断層の活断層が共存する近畿圏では,地震ハザード評価において両断層の連鎖的破壊も考慮することが今後必要である。また,震源域の北部延長では,地震活動が遅れて活発化しており,その領域の背景地震活動度は時間とともに徐々に増加する傾向を示した。このことは,本震によって震源域の北部延長(地殻内)で非地震的な変形が引き起こされた結果だと解釈できる。

紀伊半島沖南海トラフ地震発生断層の形状が,その断層面上に作用する応力とSlip Tendencyに及ぼす影響

Masataka Kinoshita, Kazuya Shiraishi, Evi Demetriou, Yoshitaka Hashimoto and Weiren Lin
Geometrical dependence on the stress and slip tendency acting on the subduction megathrust of the Nankai seismogenic zone off Kumano
Progress in Earth and Planetary Science, 6:7, 2019
https://doi.org/10.1186/s40645-018-0253-y

概要
海溝型巨大地震は,プレート境界断層面に働くせん断応力が,断層強度を超えるた時に発生する.すなわち地震が発生するかどうかは,「応力」と「強度」の両方を知ることが必要である.この両者を統一した,「Slip Tendency(Ts)」が断層の滑りやすさの尺度として利用されている.
本論文では,M8~M9の巨大地震を繰り返し起こしている南海トラフ地震発生帯の形状が3次元構造探査でよくわかっていること,また大深度掘削が進行中であることを利用して,断層の「形状」がその応力やTs分布にどの程度影響を与えるかどうか検討した.
断層形状として,今回はその傾斜角度と傾斜方位に注目した.構造探査の結果から,断層面の傾斜角度が10°程度から30°程度までばらつくことが分かった.それはTs値として2~3倍もの差となることが判明した.南海トラフ地震断層といっても,実際には断層形状により滑りやすさが大きく異なる可能性が示唆された.断層面上の摩擦強度が不明なので,実際に破壊発生条件は推定できないが,既往研究からの摩擦強度を適用すると,Ts値が低い場所であっても破壊発生条件に極めて近いことが示される.

紀伊半島沖南海トラフ地震発生帯周辺の地形図。★は1944年東南海地震および1946年南海地震の震源、コンターは1944年地震の破壊域。「ちきゅう」による掘削地点を○で示した。
上の図の黄色い四角の範囲内における,南海トラフ地震発生帯断層(図で「プレート境界」として示された面)上のSlip tendency(Ts,地震滑りを起こしやすいかどうかの尺度の一つ)の分布.背景の垂直断面は3次元地震探査で得られた速度構造.C0002は現在掘削中のIODP孔(星印がこれまでの掘削が終了した深度).図の左方向が北になる.

 

 

 

自立型無人潜水機に搭載した海中重力計測システムの開発と実海域における高分解能測定

Shinohara, M., T. Kanazawa, H. Fujimoto, T. Ishihara, T. Yamada, A. Araya, S. Tsukioka, S. Omika, T. Yoshiume, M. Mochizuki, K. Uehira, and K. Iizasa
Development of a high-resolution underwater gravity measurement system installed on an autonomous underwater vehicle
IEEE Geoscience and Remote Sensing Letters, 15, 12, 1937 – 1941, doi:10.1109/LGRS.2018.2863261, 2018.

Ishihara, T., M. Shinohara, H. Fujimoto, T. Kanazawa, A. Araya, T. Yamada, K. Iizasa, S. Tsukioka, S. Omika, T. Yoshiume, M Mochizuki and K. Uehira
High-resolution gravity measurement aboard an autonomous underwater vehicle
Geophysics, 83, 6, G119 – G135, doi:10.1190/GEO2018-0090.1, 2018.

日本周辺海域には海底熱水鉱床が存在しており、その分布や規模の詳細を明らかにすることが期待されている。また、活断層などの海底下の活構造を明らかにすることも重要である。海底近傍での分解能が高い重力異常のマッピングは、これらの目的のための地下構造の解析に有益である。そこで、重力異常を高精度で探査できる海中移動体搭載型の重力探査システムを開発した。

重力探査システムのうち、海中重力計システムには海中測定用に改良した海上重力計を採用し、重力計は高精度ジャイロを用いたレベリング機構に搭載して鉛直を保持する。レベリング機構とそれを制御するエレクトロニクスは、直径約50 cm のチタン合金製耐圧球に収納した。また、海中移動体には、海洋研究開発機構が運用している深海巡航探査機「うらしま」を採用し、電源供給や音響による支援母船との通信などの各種機能の強化と共に、重力測定に適した安定した航行が可能な技術の開発も行った。さらにデータ解析方法についても、海中測定のための開発・改良を行った。2012年に相模湾において実海域実証試験を実施し、探査に必要である0.1mGalの精度が得られた。2015年に、鉱床の存在が推定されている中部沖縄トラフ伊是名海穴にて、「うらしま」による実証観測を実施した。その結果、高重力異常を検出し、これらの異常が周囲との密度差1.5g/cm3の鉱床に起因するとすれば、直径300m程度、厚さ数十mの鉱床の存在が推定される。また、ベヨネーズ海丘においても実海域実証試験を実施して、高精度な重力異常分布が得られた。

開発した海中重力計システムにより得られた沖縄トラフ伊是名海穴南部の高分解能ブーゲー重力異常図。点線円は高密度体の推定位置。
開発した移動体搭載型海中重力計システムの内部