長期観測型海底地震計を用いた伊豆小笠原西之島火山の連続地震モニタリング観測

Masanao Shinohara1 , Mie Ichihara1, Shin’ichi Sakai1, Tomoaki Yamada1, Minoru Takeo1, Hiroko Sugioka2,
Yutaka Nagaoka3, Akimichi Takagi3, Taisei Morishita4, Tomozo Ono4 and Azusa Nishizawa4

1 Earthquake Research Institute, The University of Tokyo. 2 Department of Planetology, Graduate School of Science, Kobe University. 3 Meteorological Research Institute, Japan Meteorological Agency. 4 Hydrographic and Oceanographic Department, Japan Coast Guard.

Earth Planets Space 69:159, DOI;10.1186/s40623-017-0747-7 , 2017.

伊豆小笠原島弧に位置する西之島は2013年11月に噴火活動を開始し島の面積が拡大した。火山の形成過程の研究には連続したモニタリング観測が重要であるが、このような遠方の無人島では連続観測の実施は難しい。そのため、我々は2015年2月から西之島近傍において長期観測型海底地震計(LT-OBS)を用いた観測を開始した。使用したLT-OBSは1年程度連続観測が可能であり、回収・再設置を繰り返すことにより連続観測を実施した。LT-OBSは西之島火山火口から13km以内に設置した。噴火が発生している期間では特徴的な波形をもつイベントが多数記録されていた。西之島近傍の観測船上におけるビデオカメラと空振計の記録と比較したところ、この特徴的なイベントは火口からの噴煙上昇と関係していることがわかった。火山活動を把握するためにSTA/LTA法によるイベント検出を行った。その結果、2015年2月から7月にかけては1日あたり1800個程度のイベントが発生していることがわかった。イベント数は同年7月から減少を始め、11月には1日あたり100個以下となった。表面活動の観察では噴火活動は11月に停止したと推定されている。特徴的なイベントは、2017年4月中旬に再び発生し始め同年5月下旬には1日あたり約1400個に達した。このように、海底地震計を用いた海底地震観測は島嶼火山活動の連続モニタリングに有益であることがわかった。

大規模シミュレーションモデルのための4次元変分法データ同化に基づく予測不確実性評価法

伊藤伸一(1),長尾大道(1,2),糟谷正(3),井上純哉(3,4)

(1)東京大学地震研究所 (2)東京大学大学院情報理工学系研究科 (3)東京大学大学院工学系研究科 (4)東京大学先端科学技術研究センター

Science and Technology of Advanced Materials (2017), 18:1, 857-869, http://dx.doi.org/10.1080/14686996.2017.1378921

 データ同化は、限られた観測データとシミュレーションモデルをベイズ統計学に基づいて融合することで、モデルのパラメータや観測できない内部の状態などの推定や、その推定値の不確実性の評価を可能にする計算技術であり、特に台風の進路予測および予報円の評価など、近年の天気予報では無くてはならないものとなっています。データ同化は原理的には、天気予報のシミュレーションモデルだけではなく、さまざまなシミュレーションモデルに利用できるため、近年その有用性が認知され、断層パラメータの推定や岩石成長過程の推定などの固体地球分野に応用され始めています。

データ同化によるモデルパラメータの推定およびその不確実性の評価はシミュレーションモデルの規模が大きくなるほどに困難になる傾向がありますが、我々は先行研究[Ito et al., Physical Review E (2016), http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/2016/11/18/data-assimilation-for-massive-autonomous-systems-based-on-a-second-order-adjoint-method/]の中で、モデルの規模が大きくなっても高精度な推定および不確実性評価を行えるアルゴリズムを開発しました。

しかしながら、パラメータの推定値の不確実性を得るだけでは、将来予測がどれくらい変わり得るか(予測不確実性)を調べることができません。予測不確実性を調べることは台風の進路予測の例で言えば予報円を計算することに相当しますが、既存のデータ同化手法では予測不確実性を正しく調べるためには一般に膨大な計算コストが必要となり現実的な時間での計算が難しくなるので、精度を犠牲にする代わりにさまざまなアドホックな工夫を凝らしていました。そこで本論文では、上記のアルゴリムを応用することで、大規模シミュレーションモデルにも適用ができる新しい予測不確実性の評価方法を開発しました(図1)。これにより既存の方法よりも計算コストを大きく軽減しつつ高精度に予測不確実性を調べることができるようになりました。論文中では提案手法を検証するために、曲率駆動型の粒成長モデルに適用し、本手法が正しく粒成長を予測できること、データの量・データの質・データ取得のタイミングに対応した予測不確実性の計算ができることを確認しました。

本提案手法は一般の問題に対して適用が可能であるため、断層運動の予測や津波の到達予測などの時間発展を予測することが重要になる地震に関連した様々な固体地球分野へ応用できます。さらに、それらの得られた予測が不確実性付きで評価できるようになるため、予測精度の向上や観測点配置の問題などに広く展開できると期待されます。

レシーバ関数解析から求められたフィリピン海プレートと地殻の接触部の描像:1891年濃尾地震(Mj8.0)の発生原因

飯高隆、五十嵐俊博、橋間昭徳、加藤愛太郎、岩崎貴哉、濃尾地震断層域合同地震観測グループ

Tectonophysics 717 (2017) 41–50

日本では、活断層が活動することによって引き起こされる被害地震が多く発生します。例えば、1995年兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災の原因となった地震)(Mj7.3)、2004年新潟県中越地震(Mj6.8)、2016年熊本地震(Mj7.3)は活断層による地震です。このように日本で発生する大きな被害を引き起こす内陸地震はマグニチュード7クラスの地震が多くみられます。しかし、歴史的に見るともっと大きな地震も発生しています。それは、1891年に発生した濃尾地震です。気象庁によって決められたこの地震のマグニチュードは8.0です。マグニチュードが1違うとエネルギーは約30倍違います。このことからみても、1891年の濃尾地震がいかに大きな地震であったかがわかります。この地震は、日本の活断層で発生した内陸地震としては、観測史上最大規模の地震といえます。この地震の発生原因を調べるために、この研究所では、全国の大学や関係機関と共同で臨時の観測点を展開し、様々な手法を用いて研究をおこないました。この研究では、この地震がどのような場所で発生したかを知るために、レシーバ関数解析という手法を用いて解析を行ったものです。地震波は、伝播する途中で速度の境界面があるとP波からS波へ、S波からP波へ変換することがあります。この性質を用いて観測された波を調べることにより地下の構造境界を調べようとするのがレシーバ関数解析という手法です。

レシーバ関数解析によって、濃尾地震断層域の地殻構造について詳細な構造がわかりました。また、この地域においては人工震源を用いた構造探査が行われています。これらの結果からこの地域の構造を考えてみますと、沈み込むフィリピン海プレートは変形しており、伊勢湾から若狭湾にかけて尾根のように張り出した構造をしています。この張り出したフィリピン海プレートは、周囲の地殻と接触していることがわかりました。また、1891年の濃尾地震を引き起こした断層は、湾曲したフィリピン海プレートと地殻の接触部分にそって存在していることもわかりました。この地域ではフィリピン海プレートが北西方向に沈み込んでおり、地殻においても北西方向に力が加わっているものと考えられます。そのため、地殻と張り出したフィリピン海プレートの接触部分では、応力が集中することが十分考えられます。この研究では、このような特異な構造がMj8.0という大きな濃尾地震の原因の一因となった可能性を示唆しています(図1)。

図1 濃尾地震発生域の地殻・マントル構造の概念図。レシーバ関数解析から求められた沈み込むフィリピン海プレートの等深度線から、湾曲したフィリピン海プレートは周囲の地殻と接触していることがわかりました。1891年にMj8.0の地震を引き起こした濃尾地震の断層は、その接触部に位置しており、このような特異な構造が巨大地震の原因となった可能性が考えられます。

 

首都圏地震動イメージング

加納将行(1)、長尾大道(1,2)、永田賢二(3,4)、伊藤伸一(1)、酒井慎一(1)、中川茂樹(1)、堀宗朗(1)、平田直(1)
(1)東京大学地震研究所 (2)東京大学大学院情報理工学系研究科
(3)産業総合技術研究所 人工知能研究センター (4)科学技術振興機構 さきがけ研究者

Journal of Geophysical Research (2017), 122(7), 5435–5451, doi:10.1002/2017JB014276

図:2014/9/16に発生した茨城県南部地震(マグニチュード5.5)の周期5-10秒の地震動イメージング結果。丸印は観測点を表し、そこでの観測波形の振幅を表示している。観測点以外の場所では推定した地震動イメージング結果を示している。

 巨大地震発生時に、都市部における構造物の揺れを即時的に評価することは、構造物の被害の推定だけでなく、地震後の迅速な復旧活動や二次的な災害の軽減につながります。構造物の揺れを計算するためには、構造物直下における地震動を与える必要がありますが、すべての構造物において地震動を直接観測することは現実的ではありません。しかしながら、関東地方では、首都圏における地震像の解明を目的として、2007年度以降、首都圏地震観測網(MeSO-net)が整備されています。都心部を中心に数kmの観測点間隔でおよそ300点の地震計が設置されており、稠密な観測網の一つといえます。先行研究(Kano et al., 2017, GJI, http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/2016/12/28/seismic-wavefield-imaging-based-on-the-replica-exchangemonte-carlo-method/)では、限られた地震観測記録から、レプリカ交換モンテカルロ(REMC)法により観測機器のない場所での地震動を推定する「地震動イメージング手法」を開発しました。

本論文では、この手法を実際にMeSO-netで得られた観測記録に適用して首都圏の地震動イメージングを行った上、構造物の揺れの簡易評価に用いられる速度応答スペクトルを計算しました。その結果、高層建築物で卓越する周期5-10秒の長周期地震動に対して、観測波形の大部分を説明可能な地震波動場のイメージングに成功しました(図)。観測波形が再現されている上、推定された応答スペクトルも観測から得られる応答スペクトルと良い一致を示しました。一方、中小規模の建物を含む一般的な構造物は0.2-0.5 秒程度の周期帯が卓越します。しかしながら、被害を受けた構造物の卓越周期は長くなることから、一般的な構造物の大規模被害のみを想定する場合は周期1秒以上の地震動を評価すれば十分であるという報告がなされています(境, 2012)。そこで、様々な規模の構造物の揺れの評価に向けて、周期1-10秒の地震動イメージングを行ったところ、振幅の大きな成分の直達波の地震動がある程度再構築でき、また応答スペクトルを再現することに成功しました。この結果は、構造物の応答評価という観点において、地震動イメージング手法が1秒程度の短周期帯まで適用可能であることを示しています。今後の地震動イメージング手法の更なる高度化や高速化により、将来的に地震発生時の即時的な被害推定や二次災害の軽減に貢献することが期待されます。

本研究は文部科学省受託研究費「都市の脆弱性が引き起こす激甚災害の軽減化プロジェクト」および国立研究開発法人防災科学技術研究所「首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト」の一環として行われました。

本震断層面上の余震生成効率の不均一性

Yicun Guo(1), Jiancang Zhuang(2), Naoshi Hirata(1), Shiyong Zhou(3)

(1)Earthquake Research Institute, the University of Tokyo (2) Institute of Statistical Mathematics (3) Peking University

Journal of Geophysical Research(2017), 122, 5288-5305, doi:10.1002/2017JB014064

ETASモデルは、地震活動のクラスタリングパターンを説明・分析するのに広く用いられている。有限断層のETASモデルは、大地震を点震源とする代わりに、それを空間に広がる破壊として扱う。断層破壊は複数のパッチから構成され、各パッチではETASモデルに従って余震が発生するものとする。未知の断層形状を推定するために、確率的手法に基づく反復アルゴリズムを考案し、1964年から2014年までの気象庁カタログに適用した。

1980年以降に起きたマグニチュード7.5以上の6つの大地震に対し有限断層モデル解析を行い、断層面上の余震の生成パターンを再現した。得られた結果を点震源ETASモデルと比較し、以下のことが分かった:(1)有限断層モデルは、余震発生系列の観測データをより良く説明する;(2)断層面上の余震生成効率は不均一である;(3)M5.4以上の地震の誘発率は高い;(4)東北地震においては、背景地震発生レートは主断層面外では高く、主断層面上では低いが、改良されたモデルでは断層面全域で余震発生率が高い;(5)5つの地震に対しては、断層面の形状を考慮に入れると、誘発率は2~6倍に高まった;(6)累積背景地震発生レートのは2つのモデルでよく似ており、地震活動異常の検出感度はほぼ同じである。

また、余震生成効率と本震の滑り分布には相関が見られ、断層面上の余震は地震時のすべり不均質性による応力によって発生することを示唆している。

マントルの異方性と上昇する流体:1891年濃尾地震発生原因との関係

飯高隆(1),平松良浩(2),濃尾地震断層域合同地震観測グループ
(1)東大地震研,(2)金沢大学

Earth, Planets and Space (2016)68:164
DOI 10.1186/s40623-016-0540-z

 1891年に発生した濃尾地震は,マグニチュード8というひじょうに大きな地震でした。日本の活断層で発生した内陸地震としては,観測史上最大規模の地震といえます。この発生原因を調べるために地震研究所は,全国の大学や関係機関と共同で臨時の観測点を展開し,様々手法を用いて解析をおこないました。この研究では,S波偏向異方性解析という手法を用いて,この地域の地殻やマントルの構造を調べることを行いました。

異方性というのは,地震波の伝播速度が伝播方向によって異なる現象を言います。S波偏向異方性解析は1つの振動方向の波が異方性媒質を伝播することにより,直交する2つの方向の波に分離する原理を用いて異方性構造を検出するものです。マントルの異方性構造を調べることによって,マントル内の対流の方向や不均質構造を知ることができます。日本列島の下には,太平洋プレートが東から西に向かって沈み込み,西日本においてはフィリピン海プレートが沈み込んでいます。これらのプレートが沈み込むことによってマントル対流がおこることが知られています。濃尾地震断層域下のマントルの異方性を調べると,フィリピン海プレートが沈み込んでいる北東側では,北東-南西方向の異方性が観測され,太平洋プレートの沈み込みが卓越している南側では東北東-西南西方向の異方性が観測されました。これらの異方性は,フィリピン海プレートや太平洋プレートの沈み込みに関係するマントルの対流によって説明できました。しかしながら,濃尾地震断層域では東南東-西北西方向の異方性が観測され,沈み込む海洋プレートが引き起こすマントルの流れでは説明できませんでした。この地域では,他の研究グループの研究により,地殻やマントルに地震波の伝播速度のひじょうに遅い領域や電流が流れやすい低比抵抗域が検出されています。今回観測された異方性の領域と,低比抵抗である領域が存在する場所がよく一致します。これらのことから,この異方性がマントルを上昇する流体によって作り出された不均質構造によるものとすると,観測結果を説明することができました。このようなマントルを上昇するマグマや流体によって引き起こされる異方性構造については,これまでに他の地域においても観測されています。今回の観測結果も,沈み込むプレートから脱水した水によって不均質構造が形成され,そのために異方性構造をもつようになったと考えると観測データをよく説明できます。

これまでに発生した内陸地震の解析から,活断層によって引き起こされる内陸地震は断層域近傍に存在する水によって引き起こされるという説が提唱されており,多くの地震発生域において地殻下部に存在する流体の証拠が示されてきています。この研究は,これらの成果と調和的で,1891年の濃尾地震の発生もマントルから排出した水が断層下部に到達し,その水が地震発生に大きく関係していることが考えられます。

1891年濃尾地震の震源域下の構造とS波偏向の概念図
1891年濃尾地震の震源域下の構造とS波偏向の概念図

レプリカ交換モンテカルロ法による地震動イメージング手法の開発

加納将行(1)、長尾大道(1,2)、石川大智(2)、伊藤伸一(1)、酒井慎一(1)、中川茂樹(1)、堀宗朗(1)、平田直(1)

(1)東京大学地震研究所 (2)東京大学大学院情報理工学系研究科

Geophysical Journal International (2017), 208 (1), 529-545, doi: 10.1093/gji/ggw410

 巨大地震が発生した際に、都市部における構造物の揺れを即時的に評価することは、構造物の被害の推定だけでなく、地震後の迅速な復旧活動や二次的な災害の軽減につながります。構造物の揺れの計算には、基盤面における地震動が入力となりますが、都市部において密集しているすべての構造物において地震動を観測することは困難です。しかしながら、関東地方では、首都圏における地震像の解明を目的として、2007年度以降、首都圏地震観測網(MeSO-net)が整備されています。都心部を中心に数kmの観測点間隔でおよそ300点の地震計が設置されており、稠密な観測網の一つといえます。本論文では、今後MeSO-netで得られた観測記録を利用することを念頭に、限られた地震観測記録から、レプリカ交換モンテカルロ(REMC)法により観測機器のない場所での地震動を推定する手法(「地震動イメージング」手法)を開発しました。さらに、数値計算に基づいて提案手法の有効性を検証しました。

本論文では、地震波伝播の数値シミュレーションに必要となる地下構造と震源に関する情報を未知のパラメータとし、REMC法を用いて観測波形を定量的に説明可能なパラメータを推定しました。推定したパラメータを用いて地震波伝播の数値シミュレーションを行うことで、任意の場所における地震動を計算することが可能になります。

REMC法は、未知のパラメータの確率密度関数から実現値を得るマルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法の一手法です。MCMC法の中でも一般的に使用されているメトロポリス法に比べて、効率的に広範囲のパラメータ探索を行うことが可能な手法のため、パラメータが複数の局所的な解を持つ場合に、強力な手法です。本論文で行う地震動イメージングは、複数の局所的な解を持つ例であり、REMC法が有効であると考えられます。REMC法を用いた地震動イメージング(中央左図)により、メトロポリス法(中央右図)による結果に比べて、より真の波動場(左図)に近い地震動が得られることが分かりました。また、従来用いられた観測データのみを用いた補間法(クリギング法、右図)と異なり、波動方程式や地下構造・震源情報といった物理的な拘束条件を加えることが可能になり、REMCを用いて、より現実的な波動場のイメージングを行うことが可能になりました。今後、本手法をMeSO-net観測波形に適用することで、首都圏における将来の地震発生時の応急的な被害評価や二次災害の軽減につながることが期待されます。

本研究は文部科学省受託研究費「都市の脆弱性が引き起こす激甚災害の軽減化プロジェクト」の一環として行われました。

図:地震動イメージング結果の比較。左図は真のパラメータで計算した波動場で、三角印で示した観測点における波形のみを観測波形として使用し地震動イメージングを行う。中央左、中央右、右にそれぞれREMC法、メトロポリス法、クリギング法で推定した地震動イメージング結果を示す。

大規模シミュレーションモデルに基づくデータ同化のための不確実性評価が可能な新しい4次元変分法の開発

伊藤伸一(1)、長尾大道(1,2)、山中晃徳(3)、塚田祐貴(4)、小山敏幸(4)、加納将行(1)、井上純哉(5)

(1)東京大学地震研究所 (2)東京大学大学院情報理工学系研究科 (3)東京農工大学大学院工学府 (4)名古屋大学大学院工学研究科 (5)東京大学 先端科学技術研究センター

Physical Review E 94, 043307 (2016), https://doi.org/10.1103/PhysRevE.94.043307

 データ同化は、ベイズ統計学に基づいてシミュレーションモデルと観測データを融合する計算技術であり、定量的な将来予測を可能にします。もともとは気象・海洋分野で発展したものでしたが、原理的に広く一般の科学分野に用いることができるため、近年その有用性が認知されはじめており、固体地球科学分野では、地震の理解に重要な断層の摩擦力の推定や、マグマなどの液状物質が冷え固まっていく際の成長過程の推定などに利用されてきています。さらにデータ同化は、ただ推定を行なうだけでなく、その推定値の不確実性を評価することもできます。推定値の不確実性を端的にあらわす身近な例として、台風の進路予測図があげられ、推定値は台風の中心で、そのまわりの予報円が不確実性をあらわします。定量的な将来予測のためには、推定を行なうだけでは不十分で、不確実性の評価を行うことにより、より多くの情報をもたらすことができます。

しかし、従来のデータ同化では、シミュレーションモデルが大規模になるにつれて計算量が極端に増大し、現実的な時間内での不確実性の計算が不可能になるという問題がありました。不確実性の評価を行う際には、その精度を犠牲にする代わりに、さまざまなアドホックな工夫を凝らしていました。そこで私たちは、その問題を解決するために2nd-order adjoint法という計算法を利用し、大規模なシミュレーションモデルに対しても高精度な不確実性の評価を可能にするアルゴリズムを開発しました。図は、提案手法を検証するために、液体中の固体核形成の問題に適用した結果です。提案手法により、固体核の成長速度および成長過程の推定と、その不確実性の評価に成功しています。

私たちの構築した手法は、これまでシミュレーションモデルが大規模であるために難しかった物理現象に対しても定量的な将来予測を可能にします。それによって、例えば、地震波伝播の時空間推定、津波の波高・波速の高精度予測、地球内部の岩石の成長にともなう地殻構造変化の履歴評価・将来予測など、さまざまな分野での応用が期待されます。

図1:液体相中で固体の核が成長するモデルの時間発展。黒色の部分が液体相、黄色の部分が固体相。
図1:液体相中で固体の核が成長するモデルの時間発展。黒色の部分が液体相、黄色の部分が固体相。
図2:提案手法で評価した固体相体積分率の将来予測とその不確実性。
図2:提案手法で評価した固体相体積分率の将来予測とその不確実性。

地震波勾配法による2次元地震波動場の再構築

前田 拓人(1),西田 究(1),高木 涼太(2),小原 一成(1)

(1) 東京大学地震研究所 (2) 東北大学大学院理学研究科

Progress in Earth and Planetary Science, DOI:10.1186/s40645-016-0107-4, 2016

 日本列島には,防災科学技術研究所の高感度地震観測網Hi-netに代表されるほぼ一様かつ稠密な地震観測網が整備されており,地震波形の連続記録が日々蓄積されています.この論文では,稠密な地震波観測記録から地震波の伝播特性をより効果的に抽出するために,地震波勾配法(Seismic Gradiometry)という手法を用いて地震波を空間的に連続な「場」として扱う方法を提案しました.さらに,数値計算に基づく地震波動伝播シミュレーション結果とHi-netの記録解析の両面から,その有効性を検証しました.

地震波勾配法は,地震波振幅の空間方向へのTaylor展開に基づき,周辺観測点の記録から振幅と地震波の空間微分とを推定する手法です.この方法によって,個々の離散的な観測点における地震波形を,空間的に連続な波動場として取り扱うことができるようになります.さらにその空間微分を用いることで,波の伝播方向やスローネスといった情報も抽出することができます.図に,実記録の解析に基づく観測点の上下動変位とそこから推定されたスローネスベクトルの空間分布を示します.推定された連続波動場からは西南日本の長波長のP波と遅れてくる東北日本の短波長の表面波とがはっきりと分離している様子が確認でき,またそれらはスローネスベクトルの違いにも明瞭に現れています.この方法は波長が平均観測点間隔よりも十分に長い場合にのみ適用できます.3次元地震波数値シミュレーションによる仮想地震波形記録に基づく検討から,Hi-netの場合には周期約25秒より長い表面波にもっともよく適用できることが確認されました.さらに論文中では,地震波勾配法の推定結果をもとに,3成分の地震波動場を発散と回転ベクトル成分に分解することも提案しています.この方法によって,複雑な地震波動をP波とS波,あるいはRayleigh波とLove波に分離することができるようになりました.

地震波解析を個々の観測点から波動場としての面に拡張することにより,観測記録からより多くの情報を抽出することができるようになりました.今後この地震波勾配法を活用することによって,複雑な地震波動場や,ひいてはそれをもたらす日本列島下の不均質構造の理解がさらに深まることが期待されます.

 

図: 地震波勾配法によって解析された地震波動場の例.左図に地震発生時からの経過時間130秒における各観測点の周期25-50秒の上下動方向変位を,中央図には地震波勾配法によって再構築された連続波動場を,右図には推定された空間勾配を用いて推定されたスローネスベクトルの空間分布をそれぞれ示す.スローネスベクトルは,矢印の向きが波動伝播方向を,長さがスローネスの大きさをそれぞれ示す.震央位置は右図に星印で示されている.
図:
地震波勾配法によって解析された地震波動場の例.左図に地震発生時からの経過時間130秒における各観測点の周期25-50秒の上下動方向変位を,中央図には地震波勾配法によって再構築された連続波動場を,右図には推定された空間勾配を用いて推定されたスローネスベクトルの空間分布をそれぞれ示す.スローネスベクトルは,矢印の向きが波動伝播方向を,長さがスローネスの大きさをそれぞれ示す.震央位置は右図に星印で示されている.

温故知新

黒川愛香・武尾実・栗田敬

Journal of Geophysical Research doi:10.1002/2015JB012500

 本論文は1986年11月に起きた伊豆大島三原山の噴火の火山性微動の解析結果の報告である.三原山は近年30~40年間隔で噴火を繰り返しており、1986年の噴火はもっとも最近の噴火である.この噴火では中央火口での噴火後2日ほどの休止期間を経て規模の大きな割れ目噴火が生じた.この噴火の拡大は予想外の出来事で、その後1ヶ月に及ぶ全島民避難を余儀なくされ、当時火山学の未熟さが痛感された.30年前の事象ではあるが、その後の地震学・火山学の進展による新たな知識をもとに再度見直しておくことは今後の噴火を考える上で有益であろう.

1986年噴火には幾つかの未解明な謎が残されている.マグマ種の異なる2種の噴火はどのように準備されたのか、地下のマグマ供給系はどうなっていたのか、と言う問題.長期的には電気伝導度の変化など顕著な予兆現象から噴火は予想されていたが、中央火口噴火から割れ目噴火と言う噴火の推移は全く予測されていなかった.これはなぜか? その後多くの研究から火山性微動がマグマの活動の有効な指標である点が明らかにされてきた.本研究では当時のアナログ収録の地震記録のデジタル化を試み、火山性微動の解析を行った.残念ながらデータの劣化が激しく記録の完全なデジタル修復は出来なかったが、ノイズの多いデータながら幾つかの極めて興味深い結果が得られた.まず微動は中央火口噴火に対応した連続型微動と割れ目噴火に対応した断続型微動に分けられた(図1).その震源はAkiらによる震幅法に基づいて決定され、連続微動はほぼ中央火口下に集中したのに対し、断続微動は割れ目噴火と平行な北西−南東の方向に拡がった(図2).興味深い点は中央火口の噴火・連続微動が停止した11月19日から割れ目噴火の開始(11月21日)までの間割れ目噴火の位置で断続微動が発生し続けていた点である.このことは地表で割れ目噴火が生じる少なくとも一日前には割れ目下部へのマグマの供給が始まっていたと解釈できる.更に連続微動の中に埋もれていた断続微動を抽出し、その震源を決めると例えば11月17日の段階で既に割れ目へのマグマ注入が起きていたことが明らかになった(図3).このことは微動の連続的なモニターにより噴火推移の予測は十分に可能であることを示している.

図1:2種類の微動.上:連続微動、下:断続的微動
図1:2種類の微動.上:連続微動、下:断続的微動
図2:微動源の分布.薄い点は地震の震央を表す.
図2:微動源の分布.薄い点は地震の震央を表す.
図3:11月17日に起きた断続的微動の位置.B、Cは割れ目の位置、Aは中央火口の位置
図3:11月17日に起きた断続的微動の位置.B、Cは割れ目の位置、Aは中央火口の位置