3.10.6 歴史地震

地震研究所の設立以来,歴史地震の研究は継続して行われており,『新収日本地震史料』といった地震史料集の編集・刊行などが実施されてきた.これらの既刊地震史料集を活用して歴史地震の地球物理学的な分析が行われ,機器観測による記録のない歴史時代の被害地震に関する研究が進展した.しかし,歴史地震の研究の基礎となっている既刊地震史料集は,主として地震学者の手によって編集されたため,歴史学者が研究の材料とする史料の他に,近代以降の自治体史や報告書の叙述など様々な資料も多く所収されている.資料の記述内容は信憑性に問題のある場合が多く,資料のみに依拠して歴史地震の分析が行われたならば結果の信頼性は必然的に低くなる.

 このような問題を解決するために,原典史料や良質の刊本に基づいて史料本文の訂正・補完を行う校訂作業が部分的に実施されており,種々の資料を除外した史料のテキストデータベースが作成されている.だが実際,校訂作業を施した信憑性の高い史料がデータベース化されているのは既刊地震史料集の約8.9%であり,これ以外は史料と資料が入り混じった玉石混淆の状態である.

 そこで,2014年度から開始された「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」では,地震研究所と東京大学史料編纂所が連携して,既刊地震史料集の史料本文の校訂作業及び全文テキストデータベース化が実施されている.また,この研究計画では,史料に基づく歴史地震の研究だけでなく,奈良文化財研究所が主体となって,考古遺跡から発見される地震痕跡の調査及び考古資料のデータベース化が実施されている.今後は,地震史料データベースと考古資料データベースの統合を目指していく必要がある.