3.10.2 速釜石沖繰り返し地震の予測実験

釜石沖のプレート境界では,2011年東北地方太平洋沖地が発生する前はM4.9程度の地震が比較的規則的に発生していたが,東北沖地震後,発生間隔が短くなり,また,マグニチュードが一時的に大きくなってM6クラスの地震も発生した.Uchida et al. (2014)は,このような推移は条件付き安定である大パッチの中に不安定な小パッチが存在するモデルなどで説明できるだろうと推察した.Yoshida, Kato, and Fukuda(2015)はそのようなモデルに基づき,Fukuda et al. (2013)によって求められた釜石沖地震震源域での余効すべりを仮定し,実験室で求められた摩擦則を用いて数値シミュレーションを行った.その結果,本震前には小パッチのみで地震を繰り返すが,本震後は余効滑りにより条件付き安定である大パッチ全体でM6クラスの地震が起こりうることを示した.また,計算された地震の発生時はある程度観測と一致していた.また,摩擦則によっては,小パッチを仮定しなくても,大パッチの一部だけが破壊するようなモデルによって,同様に説明できた.

 大パッチの中に小パッチがあるモデルに基づき,予測実験を試行した.摩擦則としては,従来の摩擦則に比べ実験データをよく再現できるNagata則を用いた.摩擦パラメータをある範囲内で変化させ,多くのシミュレーションを走らせた.1例を図3.10.1に示す.I番目の繰り返し地震を予測するために, (I-1)番目までの地震の発生時をある程度再現できる複数個のシミュレーション結果の平均をとって予測値とする.M9後に現在まで11回繰り返し地震が発生しているが,そのうち最後の5つの地震について予測実験を行い,発生時を40~50日の誤差で事後予測できた.図3.10.2はM9の約4年後に発生した11番目の地震の予測実験の例である.左図では摩擦パラメータのひとつの小パッチの臨界すべりLを0.0021mに,右図では0.0049mに固定してある.小パッチの摩擦パラメータB-Aを様々に変えてシミュレーションを行い,得られた発生時をプロットした.横線は観測値を示す.ハッチされている結果は10番目までの地震の再現性のよかったもの5例とその次によかった5例である.