3.11.3 活動的火山における多項目観測研究

 本センターでは,火山噴火予知研究センターと協力しながら,火山噴火予測の研究を進めるために,浅間山・伊豆大島・富士山・霧島山・三宅島の 5火山において,地震・地殻変動・全磁力変化・空振観測・熱映像・可視画像等の多項目観測を行っている.また,その他の火山においても,他機関との協力により様々な観測を実施している.ここでは観測作業の詳細を報告し,観測の狙いや成果に関する詳細については火山噴火予知研究センター,地震火山噴火予知研究推進センターからの報告に譲る.

(1) 浅間山

広帯域地震,短周期地震, GPS,傾斜,全磁力,空振,熱映像,可視画像の定常/臨時観測を行い,浅間火山観測所と小諸火山観測所を拠点として観測網の維持管理を行っている.観測データは,山頂付近では無線 LANの中継あるいは光ファイバーを経て浅間火山観測所に集約され,地震研まで光ファイバーを利用した高速回線を用いて伝送されている.山頂観測点は光ファイバーに直結している.また,観測点の通信状況などに応じて VSATやフレッツ回線,携帯データ通信を利用したデータ転送も行われている.

今年度も,山頂付近の観測点は雷による故障が相次いだ.昨年度から故障していたKAE(火口東),KAW(火口西),KME(釜山東),KMS(釜山南)の各観測点を,雪解けを待って2015年5月中旬に修理した.その甲斐があって,その1ヵ月後の6月16日に発生した微噴火の前後の活動は記録できた.火口近傍の観測点で観測できる超長周期地震(VLP)が微噴火の10日頃前より徐々に増加し,噴火直前にはその積算振幅が大きくなっていたという貴重な記録が取得できた.噴火後の6月下旬には再び雷により火口周辺の観測点の機器が故障して観測が中断したが,噴火による立ち入り規制のため,すぐには復旧できなかった.噴火活動の低下が見られた10月上旬に,ようやく観測点を訪れることができ,機器を復旧させることができた.

今年度は,KAN(火口北)にプロトン磁力計を新たに設置した.また,KAWは火口縁にあり,侵食が進んで安全の確保が困難になってきたため,近い将来移設する予定である.

(2) 伊豆大島

24点の地震観測点と 14点の GPS観測網による観測を行っている.内 4点は広帯域地震観測を行っている.また,プロトン磁力による全磁力の連続観測に加え,能動的な比抵抗構造探査手法である ACTIVE観測を行っている.これらの各観測点のデータは,三原山山頂付近では無線 LANを通じて伊豆大島観測所にデータを集約し,その後フレッツ回線を用いて当研究所まで伝送している.山麓の観測点の多くはフレッツ回線を通じて直接当研究所までデータ転送を行っている.

来るべき活動に備えて,山頂火口周辺での広帯域地震観測網の増強,火山ガス連続観測,空振観測網の整備も検討され,そのうち広帯域地震計観測点,火山ガス観測点各1点の候補地を選定した.また,大深度の観測井を再利用し,マグマに先行して上昇してくる揮発性成分を捉える新たな観測装置を設置する目的で,三原西(MHW)1000m井戸の老朽化して故障している観測機器の引き上げを試みたが,途中でケーブルが引き上げられなくなり,作業を中断した.

 今年度も雷による障害が多少発生し,磁場観測に影響が出た.また,漁業無線局の新設の際に,東京都の委託を受けた建設業者が,当研究所の三原西(MHW)観測点へつながる光ファイバーケーブルを誤って切断し,MHW観測点との通信が約2ヶ月にわたって通信が途絶し,各種観測データが欠測した.

ACTIVEは,測定装置のファームウエアーの改修とソーラーパネルの交換により,ようやく安定して測定できる状況になってきた.

伊豆大島では,上記のような観測網を設置することにより,地震活動度と地殻変動にきわめて良い相関があることがわかってきた.特に,カルデラ浅部で発生する地震は,山体膨張の際に活動度が高まり,収縮時に低下する.この現象は,山体膨張によって地下浅部では張力場が卓越し,方線応力が低下することにより,地震が発生しやすくなるというモデルで説明できる.特に,伊豆大島はフィリピン海プレートの北端近くで,相模トラフにも近いことから,大きなテクトニック応力にある.そのため,地震活動度と地殻変動との相関が現れやすいと考えられる.このような解析をすることにより,火山噴火予測にもっとも有効とされる地震活動度を定量的に評価する手法の開発が見込める.

(3) 富士山

 10点の常設地震観測網を主体とした地震活動観測を行っている.内 5か所は地表設置型広帯域地震計, 3点はボアホール型広帯域地震計である.ボアホール観測点には 3成分歪計,高感度温度計,傾斜計も設置されている.また全磁力観測も継続している.他の火山同様,富士山に於いても観測点の条件に応じて様々なテレメータ方式が用いられている.

 ほとんどの観測点に置いて携帯データ通信網によるデータ伝送の切り替えが終わっており,HSO(細尾野)でやや不安定が残るものの他の観測点は概ね安定した通信が行われている.富士山周辺で,唯一VSATによる伝送を行っている観測点NHOW(日本ランド)において厳冬期に欠測が見られたが,リップルの少ない電源に交換することで解決できることがわかり,交換予定である.

 OSWA(大沢崩れ)観測点は2013年3月の雪崩により観測点が流失し,代替観測点の再設置に向けて現地調査を進めている.

(4) 霧島山

2011年1月の霧島・新燃岳噴火を受けて周辺の観測点が強化された.2014年度も霧島山の活動は継続しており,観測網の維持を行っている.これらの観測は,火山噴火予知研究センター・海半球センター・鹿児島大学などとの協力のもとに進められている.

2014年8月にえびの高原付近の硫黄山から韓国岳に掛けて地震活動が活発化し,傾斜計の変動も観測されたため,2014年10月より気象庁は硫黄山周辺に立ち入り禁止区域を設定した.震源決定精度向上のため,震源域のほぼ直上に当たる韓国岳山頂に広帯域地震観測点を新設し,観測を開始した.その後,この地域の活動は一旦低下し,立ち入り禁止の措置も解除された.しかし,2015年8月頃より,硫黄山周辺で傾斜変動を伴う火山性微動が度々発生するようになり,2016年1月には顕著な地表高温域の拡大,噴気の増大が見られるようになった.地元の山岳ガイドの方と協力し,噴気温度を測定する態勢を作りつつあったが,更に噴気活動が活発になり,1km以内立ち入り規制が設定され,測定が中断している.

(5) 三宅島

三宅島では,2000年噴火後は2010年頃まで山体収縮が続いていたが,それ以降山体膨張に転じた.これは,次の噴火に向けて,マグマ溜まりでの蓄積が開始したことを示している.2000年噴火直後と最近の地下の電気伝導度の時間変化を研究するために,中腹の周回道路内側全域にわたってMT観測を実施した.これは,地下の温度変化に着目して,今後の火山活動の推移を評価し,その推移を解明するための基準となるデータである.

 九州大学との共同研究によりGNSSのキャンペーン観測を実施している.これも次の噴火の際の基準として不可欠な観測データである.

(6) その他の火山

桜島は活動が活発化しており,近い将来の大規模噴火発生の可能性もある,要注意火山である.桜島において,無人ヘリを用いて火口近傍に地震計,GPSを設置し,観測を継続している.今年度は,山頂付近の地震計とGPSの回収および再設置を行うとともに,桜島南斜面の安永火口内に初めて空振計を設置し,火口近傍での空振観測に成功した.これらの観測は,火山噴火予知研究センターとの協力の下に実施されている.

 2014年8月3日に水蒸気噴火を発生した口永良部島では,その時に山頂近くの観測点がすべて利用できなくなると同時に,火口周辺への立ち入り規制されたため,著しく観測体制が弱体化した.これまで,当研究所が開発してきた無人ヘリによる地震計の設置技術を用いて,京都大学防災研究所と共同で2015年4月に無人ヘリを用いて,山頂近傍に4点の観測点を設置した.この地震計は,5月29日のマグマ噴火前に他の観測点では検知できない微小な地震が,噴火の3日前から明瞭に増加していたことを捉えた(地震火山噴火予知研究推進センター報告参照).これらの地震計は5月29日の噴火ですべて被災し,利用できなくなったので,2015年9月に再度5点の地震観測点を設置した.