3.8.1 素粒子検出デバイスの開発研究

(a)  超低雑音ミュオグラフィ検出器 

従来のミューオン検出器では1枚の透視画像を得るのに数週間を要していたが,2014年にカロリメータ方式ミューオン検出器の開発に成功し,現在では時間分解能を3日程度までに劇的に向上させることができた.その結果,2014年度には薩摩硫黄島で,マグマが火道を上下する動きをとらえている(http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/KOHO/Nenpo2013/images/ch2.8/fig17.html).この新型検出器のもう一つの利点は,低雑音であるため数㎞程度の遠方からでも,ミューオン透視画像が得られることである.これにより,実際の噴火時に火口から3~4kmに立ち入り制限区域が設定されたとしても,区域外からの観測で噴火中の火山の透視画像を得ることができるようになった.このような遠距離ミュオグラフィ(VLRM: Very Long Range Muography)の性能は,2014年に霧島山新燃岳火口から南に約5 km離れた位置から行った観測で実証されている(http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/eri_nenpo_static/%e5%9b%b33-8-4/).これを承けて2014年11月以降2015年の全期間にわたり,活発な噴火活動を続ける桜島をターゲットとしたVLRM観測を実施した. 1時間程度の短い分解能では,透視画像を作成するのに十分な数のミューオンを捉えることはできないが,桜島の現在のブルカノ式噴火のように,類似の事象が1年間に数百回以上も繰り返される場合には,噴火時刻を基準にして,多数の画像を重ね合わせたコンポジット画像をつくることで,噴火前後の火道内の密度変化を30分程度の時間分解能で知る手法を開発した.

 (b) ボアホール設置型ラジオグラフィー

 宇宙線ミューオンは上空からのみ飛来する.したがって,断層破砕帯や地滑り面等の地下構造を透視するためには,測定対象を見上げるように,ミューオン検出器を地下深く掘削坑(ボアホール)等に埋設することが必要となる.ボアホールのような狭隘な空間では,センサーの有効面積を大きくとることが困難なであり,ミューオン・フラックスは限られた量しか得られないので,それを有効に活用する観測技術の開発が不可欠となる.

 2014年度までに,跡津川断層(岐阜県飛騨市の山中)近傍に掘削された最大深度350mのボアホールを利用して,深度100mまでのミューオン・フラックスデータを取得した.その解析結果では,断層破砕帯の走行方向に有意なフラックス増加を検出し,それが深度50mから95mにかけて存在する破砕帯沿いに期待される空隙率の増加と整合することが見出されていた.また,断層の傾斜角が従来のモデル(〜90°)とは異なり,約70°であることも判明していた.今年度は検出器の高感度化・高分解能化のため,新型の検出器を製作した(図1).新型検出器は,方位角方向8方向に分割されたシンチレータで構成され,方位角方向に分解能を有する.旧型検出器では全方位角方向のミューオン・フラックスデータを取得するためには,その都度,検出器筐体を回転させてデータを収集する必要があったが,新型検出器では,回転させることなく一度に全方位角方向のデータ収集が可能になった.これによって方位角方向の分解能,及び観測作業効率がともに向上した.更に,ミューオン透過によって発生するシンチレーション光を,波長変換ファイバーを用いて効率良く光電子増倍管に集光させ,検出感度を大きく向上させた.また,観測手法の確立および汎用化を目的として,電源供給を除く全ての装置を検出器筐体中に収め,バッテリーからの給電によって超低消費電力で動作するデータ収集エレクトロニクスを採用した.これにより,観測作業が容易になり,かつ長時間にわたり検出器単独の動作が可能となった.この新型検出器は現在実験室にて運用試験を行っており,2016年度は同ボアホールにてデータ収集を開始し,高分解能なミューオン・フラックスデータを用いて断層破砕帯の三次元密度構造を決定する.

(c)  原子核乾板新型画像読み取り装置

 2015年は,従来の読み取り装置ESSの4倍の飛跡読み取り速度を持つ,新型読み取り装置(QSS)のチューニングを進め,2015年度末までに3台が稼働する見込みである.さらに,イタリア・サレルノ大学と共同で,QSSの読み取り速度をさらに2倍の向上させる研究も進めている.これが実現すれば,ESS 2台が稼働していた時よりも,10倍以上の画像処理能力を持つこととなる.これは今後,新型原子核乾板を10m2オーダーまで大面積に展開を図る上で,必須となる性能である.