3.3.1 多結晶体特性からみた地球内部ダイナミックスの素過程

地球上部マントルで観測される地震波異方性は,弾性異方性を持つかんらん石の結晶選択配向(CPO)が主要な原因と考えられている.一般的に,CPOは粒子回転を生む転位クリープによって発達すると説明されるが,我々は,Miyazaki et al. (2013)において,これまでCPOが発達しないと考えられてきた拡散クリープ下におけるCPOの発現を実験的に示し,またそのCPOの発達機構を提案した.それは,結晶学的に制御された粒子の長軸と平行な低指数面粒界において選択的にすべりが生じ,このすべりに従う方向に,剛体的に粒子が回転する.その結果,CPOが発達する.今年度は,変形実験と実験後の試料表面観察を組み合わせ,拡散クリープ条件下における粒子スケールの変形,特に粒子回転について解析を行った.変形実験に用いる円柱状試料の側面の一部を鏡面にし,その鏡面に高温変形実験中に消失しない微細なけがき線を集束イオンビームで作製した.このけがき線を回転マーカーとし,変形前後のマーカーの方向を比較することで,歪に対する回転量を求めた.CPOを発達させた試料内では,変形初期において,回転速度が最大で,歪の増加と共に減少する.最終的に,歪によらない一定の回転速度を示したCPOを発達させない試料の回転速度に収束した.CPOを発達させた試料内には,ある結晶学的な面に平行な粒界(低指数面粒界)が多く存在し,それにかかるせん断応力が,変形初期の粒子回転をうまく説明する.変形と共に減少する粒界へのせん断応力を計算し,低指数面粒界は,低指数面粒界以外の粒界(一般粒界)と比べて4-5倍小さな粘性率を持つことが示された.この“弱い”粒界が岩石流動時に並ぶことで,結晶軸選択配向が生まれる.