3.3.2 地震波帯域における岩石の非弾性特性の研究

地球内部の3次元速度構造から地球内部の温度分布や流体分布を定量的に推定するためには、岩石の非弾性特性の解明が不可欠であるが、実験データが十分でなく未知の部分が多い.我々は,有機物多結晶体を岩石アナログ物質として用い,試料のヤング率Eと減衰Q-1を6桁の広周波数帯域(100-0.1 mHz) で精密に測定できる強制振動型の変形実験装置を開発した(図3.3.1).旧装置で行った実験から,減衰スペクトルQ(f)の温度、粒径、メルト量依存性には,マックスウエル周波数fMを用いて Q(f/fM) と表される相似則が存在することが明らかになったが、実験データの規格化周波数が地震波の帯域(f/fM = 106 – 109)に届いておらず,この相似則の地震波への適用可能性は分からなかった.新しい装置は、f/fM = 108位 までの規格化周波数でヤング率Eと減衰を非常に正確に測定できる.この装置を用いて実験を行い、地震波帯域のような高規格化周波数では,マックスウエル周 波数による単純な相似則が成り立たないことを明らかにした.さらにこの「ずれ」には、温度が融点に近づくほど、あるいは粒径が大きいほど減衰が大きくなる 方向にずれが拡大するという系統性があることも分かった.そこでさらに部分溶融する温度までの実験を行い、温度によるずれの増大は、融点を超えるまで連続 的に続き、融点を超えてメルトが出来ても非弾性特性には不連続な変化が生じないことを明らかにした.この結果は、融点に近い温度ではメルトが無くても地震 波が低速度・高減衰になり得ることを示唆するもので,上部マントルの地震波速度構造を解釈する上で重要であるため、さらに詳しい研究を行う.