3.2.1 GNSS観測と地殻ダイナミクス

プレート運動や地殻変動を計測する手段として,GNSS (全地球測位衛星システム) は最有力の武器である.地震研究所のGNSS 研究グループは,全国の大学の地殻変動研究者で組織する「GPS 大学連合」の本部・事務局をつとめるほか,各種の国内・国際共同研究の企画・調整・推進を行っている.ここでは,地震研のGNSS グループが中心となって実施した観測・研究のうち,主なものを紹介する.

 (a) 国内におけるGNSS 観測研究

東海地方直下で発生するスロースリップの実態解明のため,静岡大・東海大等とも協力しつつ,東海地方に稠密GNSSアレイを構築して2004 年から連続観測を行っている.2015年度には,静岡県,愛知県に設置した合計60のGNSS観測点での観測を継続した.2008 年度からは監視機能を高度化するため, 1Hz の高頻度サンプリングも実施している.これらのデータを用いて,スローイベントや固着域の時空間分布とひずみ分布の関係などを継続的に調査している.東海地方だけでなく,西南日本においてGNSSデータからスローイベントを検出する手法を開発している.また,東北大学や本所地震予知研究センターと共同で房総から福島県の太平洋沿岸地域でGNSS観測を実施している.さらに,2012年より静岡大,福島県いわき市及び茨城県鹿嶋市において50HzのGNSS観測を行っており,このような高頻度サンプリングによるGNSS 観測により,GNSS が地震計として活用できるかどうかの調査も行っている.今年度にはGNSSデータに基づいて断層面の破壊過程の推移の推定を行うソフトウェアを開発したほか,2013年頃から始まったとみられる浜名湖付近の長期スローイベントについて時空間すべり変化についての研究を行った.

(b)GNSS を利用した新技術の開発

GNSS研究グループは1996 年頃より日立造船(株) 等との共同研究によってGNSS ブイを用いた津波計の開発を行ってきた. しかしながら,現在の方式では沿岸から20㎞以内程度での設置が限度であることから,より沖合での観測を目指して開発研究を進めている.これには,科研費に加えて文科省宇宙科学技術推進調整委託費を活用して,高知高専,JAXA,NICT,日立造船と東大地震研の5者による共同研究として推進し,精密単独測位法(PPP-AR)と衛星通信の導入によって技術的な目処をつけた.今年度は,衛星通信におけるブイの動揺に起因するデータ通信率の低下を改善する方法としてアンテナ設置台座に水平維持機構(ジンバル)を採用し,機械的にアンテナの動揺を抑えてデータ伝送率の向上を得ることを目的とした実験を行った.実験には,弓削商船高専の所有する練習船弓削丸に図1に示すように衛星通信アンテナを設置して瀬戸内海を航行し,アンテナ水平維持機構(ジンバル)の有無による効果の確認を行った.結果を図2に示す.データ伝送率を示すFER(Frame Error Rate)値はジンバル機構を有する場合は変動幅が小さく,その効果を確認することが出来た.また,将来GNSS ブイアレイを配置する際に必要となる多数のブイとの即時通信ができる通信方式を検討するための基礎データ収集を行い,このデータを用いた1:N通信のシュミュレーション解析により,新たな通信衛星への要求仕様を明らかにする検討を開始した.