3.1.1 地震発生場の研究

(1-1) 不均質構造が作る震源域の不均質応力場

3次元地震波トモグラフィー技法により推定された震源域の詳細な3次元地震波構造を元に3次元弾性体地殻構造モデルを作成し,境界条件として一様な変位を加えると領域内部の応力分布は不均質になる.この方法を2004年中越地震震源域に適用すると,地震断層のアスペリティ部分に応力降下量が高いと予想される領域が生じた.このことは地殻構造の弾性不均質が地震発生・震源過程に重要な役割を担っていることを示唆する.

(1-2) 地震の動的破壊計算法定式化における数学的根拠の提示

近年,地表面や2層媒質境界面など不連続面で区切られた不均質媒質を考慮した断層破壊計算手法の定式化が提案され実現している.我々は,これらの破壊計算法定式化の理論的基礎となる「全無限グリーン関数を用いた任意の有限領域の変形場の表現」の数学的根拠を示した.この変形場の表現は,提案されている断層破壊計算法が,媒質境界の任意の形状に対して有効であることを保証する.

(1-3)楕円体空隙震源モデルのモーメントテンソル表現の導出

我々は,火山噴火予知研究センターの火山地震モデリンググループと連携して,楕円体空隙間の流体力学的相互作用を考慮した震源モデルの理論的考察を行った.(a)単純膨張,(b)流体移動,(c)移動後圧力回復の3つのモデルに対してモーメントテンソルの解析的表現を得た.

(1-4) 地震活動のフォワードモデル

大地震発生前に震源域周辺の地震活動がしばしば変化することはよく知られている.このような現象を定量的経験則として確立することは興味深い課題であり,古くから研究されているが,大地震は低頻度なので経験則の確立は容易ではない.地質学的構造に起因する地震の「個性」も問題を困難にする一因である.このような困難を解決するために,地震活動を決定する物理過程を解明し,地震活動のフォワードモデルを確立することを目指す.将来的には地震活動のインバージョンによって地震発生場の力学状態の情報が抜き出せるようになるべきである.このような問題意識に基づき,Gutenberg-Richter則のb値および大森・宇津則のc値の応力依存性の物理過程に関する研究をこの数年行っている.これまで,いくつかのセルオートマトンモデルの解析を行い,各種統計パラメターの剪断応力依存性,および大イベント前の静穏化メカニズムについて 半定量的な説明を与えた.今後はより定量的な力学モデルの解析へ進む予定である.