3.5.8 房総スロースリップイベント

房総半島沖では,群発地震活動を伴うMw 6.5-6.6程度のスロースリップイベント(SSE)が数年間隔で繰り返し発生してきた.これらのSSEの破壊過程の多様性を明らかにするために,1996,2002,2007,2011,2013-2014年のSSEにおけるすべりの時空間発展をGNSSデータを用いて推定した.2013-2014年のSSEの解析には,地震研究所のGNSS連続観測網と国土地理院GEONETのデータを併せて用い,その他のSSEの解析にはGEONETのデータのみを用いた.これらのGNSS時系列データに対してインバージョン解析を行い,フィリピン海プレート上面におけるすべりとすべり速度の時空間変化を1日毎に推定した.その結果,2013-2014年のSSEでは,地震活動を伴わないゆっくりとしたすべりの加速によりスロースリップが始まり,その後群発地震活動を伴う比較的速いすべりに移行したが,他のSSEでは,すべりの急激な加速によりスロースリップが始まったことが分かった(図3-5-3).また,推定されたすべりの伝播方向,伝播速度,時間発展はイベント毎に異なっていた(図3-5-3).以上の結果は,房総SSEの破壊過程はイベント毎に大きく異なることを示す.これらの5個のSSEはすべて群発地震活動を伴っており,SSEの発生中に震源の移動が見られた.震源の移動とすべりの伝播との関係を調べたところ,これらは時空間的に強い相関を持つことが明らかになった.