3.11.7 スロー地震学プロジェクト

 スロー地震とは,普通の地震に比べてゆっくりした断層すべり現象の総称であり,揺れを生じない,または揺れ方がゆっくりで振幅が小さい.このような奇妙な地震が,2000年前後に日本全国に展開された地震・GNSS観測網によって発見され,その後,環太平洋の各沈み込み帯でも次々と見つかってきた.スロー地震は巨大地震震源域を取り囲むように分布し,種類の異なるスロー地震がしばしば同時に同じ場所,あるいは隣の場所で起こる.つまり,スロー地震同士には,強い相互作用が働いている.したがって,巨大地震震源域の周囲でスロー地震が頻発すると,地震発生の場が次第に変化し,地震発生に繋がるかもしれない.そのため,スロー地震に対する理解を深めることは非常に重要である.そこで,スロー地震による低速変形と普通の地震つまり高速すべりとの関係性を含め,これらの地震現象を統一的に理解することを目指す目的で,科学研究費新学術領域研究「スロー地震学」プロジェクトが2016年より5年計画で開始した.スロー地震研究は,まだ20年にも満たない.基本的な発生様式も分から無いことが多い.地下深部にある発生場所の物質・物理条件はまだ不明である.さらに,その支配物理法則は定性的にも分からないことばかりである.そのようなスロー地震の謎を解き明かすため,旧来の地震学・測地学だけではなく,地質学,物理学などのアプローチを結合し,スロー地震の発生様式,発生環境,発生原理の解明に向けて,6つの計画研究,A01「海陸機動的観測に基づくスロー地震発生様式の解明」,A02「測地観測によるスロー地震の物理像の解明」,B01「スロー地震発生領域周辺の地震学的・電磁気学的構造の解明」,B02「スロー地震の地質学的描像と摩擦・水理特性の解明」,C01「低速変形から高速すべりまでの地球科学的モデル構築」,C02「非平衡物理学に基づくスロー地震と通常の地震の統一的理解」において研究を進め,さらに,総括班と国際活動支援班を置いて,プロジェクト全体のマネジメントと国際的な研究推進活動を行なう.地震研究所では,観測開発基盤センターの他,地震予知研究センター,地震火山情報センター,数理系研究部門,地球計測系研究部門など複数の部門・センターにおいて横断的にプロジェクトを推進するとともに,東大理学系研究科,神戸大学,筑波大学などを含む全国の多くの研究機関と共同で研究を実施している.

 観測開発基盤センターでは,今年度,超低周波地震の検出精度を向上させるため,四国西部・九州東部において広帯域地震計の設置のための地点調査を行なったとともに,南海トラフ近傍で発生する浅部スロー地震を様々な帯域で捉えるため,海底圧力計・地震計を日向灘に展開した.