3.1.1 地震発生場の研究

(1-1) 不均質構造が作る震源域の不均質応力場

3次元地震波トモグラフィー技法により推定された震源域の詳細な3次元地震波構造を元に3次元弾性体地殻構造モデルを作成し,境界条件として一様な変位を加えると領域内部の応力分布は不均質になる.この方法を2004年中越地震震源域に適用すると,地震断層のアスペリティ部分に応力降下量が高いと予想される領域が生じた.このことは地殻構造の弾性不均質が地震発生・震源過程に重要な役割を担っていることを示唆するものであった.本年度は標準的な3次元構造モデルを用いて2011年,2014年長野県北部地震の検討を行なった.

(1-2) 動的破壊震源モデルの断層近傍強震動への応用

2016年熊本地震(横ずれ断層)において震源域で断層平行成分が卓越していた.横ずれ断層においては1995年兵庫県南部地震の例のように断層直交成分が卓越することが知られている.このように強い振動方向が90度異なっていることについて考察を行なった.横ずれ断層での地表の震動パターンについてはMiyatake(2000)により詳細に研究されており,破壊の指向性が強い影響を与えることが知られている.これを応用すると特に震源は断層下端にある場合には,直上で断層平行成分が卓越することになり説明可能となる.

(1-3)大きなSSE (Slow Slip Event)による地震の誘発について

計測部門の室内岩石摩擦実験グループと連携し,摩擦の速度弱化に上限速度Vcxをもつ摩擦則を用いてプレート境界地震発生域の深部延長で発生するプレスリップ的な大きなSSEのモデル化を行った.このモデルでは遷移域で大きなSSEが地震サイクル中に数回発生するが,地震の側からみると,(1)SSEが成長して地震になる,(2)SSEが地震を誘発する,(3)SSEの誘発なしで地震が発生する,という3つの場合に分かれた.(2)の場合,直近のSSE終了時から地震発生までの時間 tdのヒストグラムは約一ヶ月以内によく集中する.SSEが「脆性域が地震になりそうなとき」に起きやすい傾向があるとすれば非常に興味深い現象であり,理由について今後検証してゆく.

(1-4) 体積震源モーメントテンソル診断ダイアグラムとWEBツールの作成

火山噴火予知研究センターの火山地震モデリンググループと連携し,体積変化を含むモーメントテンソルの震源メカニズム診断ダイアグラムを作成した.これにより観測データから決定されたモーメントテンソルに対して,楕円体空隙間の流体力学的相互作用を考慮した3つの震源モデル(a)単純膨張,(b)流体移動,(c)移動後の圧力回復を簡便に対応させることができる.また,診断後の定量的評価に用いるWEBツールを作成しオンラインで利用できるようにした.

(1-5) 地震活動のフォワードモデル

大地震発生前に震源域周辺の地震活動がしばしば変化することはよく知られているが,大地震は低頻度なので,このような現象を定量的経験則として確立することは容易ではない.地質学的構造に起因する地震の「個性」も問題を困難にする一因である.このような困難を解決するために,地震活動を決定する物理過程を解明することにより,地震活動のフォワードモデルを確立することを目指している.将来的には地震活動のインバージョンによって地震発生場の力学状態の情報が抜き出せるようになるべきである.このような問題意識に基づき,地震活動の背後にある物理過程に関する研究をこの数年行っている.2016年度においては,余震のカスケード過程を平均場近似することによって大森則を導出し,指数とc値の定量的表現を与えた.同時に,平均場近似の範囲内ではサドルノード分岐が大森則に本質的役割を果たしていることを解明した.