3.5.4 比抵抗構造探査

電気比抵抗は,温度,水・メルトなど間隙高電気伝導度物質の存在とそのつながり方,化学組成に敏感な物理量である.これらの岩石の物理的性質は,すべて,その変形・流動特性を規定する重要なファクターであり,比抵抗構造と地震学的諸情報をあわせることで,より詳細かつ正確な情報を抽出し得る.従って,当センターは内外の研究者と協力して,震源域や火山地域スケールおよび列島スケールや周辺大陸縁辺域の比抵抗構造を解明するプロジェクトにおいて,観測法やインヴァージョン手法の開発を含め,中心的な役割を担ってきた(火山噴火予知研究センター,海半球研究センター,観測開発基盤センターとの共同研究).

2016年には,2015年に観測を実施したいわき地方から新潟平野に至る測線での広帯域MT観測データを用いて予察的な2次元解析を実施した.また,従来用いられてこなかった観測点間の磁場水平成分同士の周波数応答解析を試み,2次元解析結果をあわせて,その応答関数の構造決定における有用性を調べた.また,2016年4月に発生した熊本地震震源域を取り囲む九州中部の広い領域での広帯域MT観測データのコンパイルを進め,予察的な1次元解析から地域の3次元的構造の特徴の抽出を図った.地殻内の地震活動域と得られた構造との比較から,両地域とも,従来から指摘されてきたように,地震発生域は相対的に高比抵抗域に分布し,その下部や側方に低比抵抗域が分布する様子が捉えられた.次に,この数年で開発を進めてきた,室内実験結果のコンパイルを通して,比抵抗構造から温度や水の含有量,メルト生成量を推定する手法に関して,トレードオフ関係をなくすべく,プレート沈み込みに伴って熱モデルによって計算される温度構造を既知としたうえで,水の含有量やメルト生成量を推定する研究を開始した.現時点では,九州地方全域でのネットワークMT観測から得られた広域深部3次元比抵抗構造の一部に同法の適用を試みている.

一方,九州地方において各大学で共同して実施してきた3成分磁場観測データをコンパイルし,磁場変換関数から3次元比抵抗構造を推定した.より短周期で決定された3成分磁場観測データを解析することで,上中部地殻の構造決定精度が向上した.次に2002年から2012年にかけて数度にわたるキャンペーン観測を実施した富士山周辺域でのMT観測データや地球化学的観測データ,2003年から2004年にかけて日高地方で実施した超長周期MT観測,広帯域MT観測データ,2008年から2010年に実施した石狩低地帯周辺域でのMT観測データをとりまとめ,それぞれの地域で3次元比抵抗構造を推定した.富士山周辺域では,2011年3月15日に発生した富士宮誘発地震の発生メカニズムを示唆する構造が推定され,日高地域ではクリル弧衝突や同地域の深発地震発生に関連する構造,石狩低地帯周辺域では石狩低地東縁断層帯の深部や支笏カルデラ下の中下部地殻に低比抵抗域が見いだされた.

2016年に新たに実施した観測として,2015年に観測を開始した,新潟県阿賀野市から福島県鮫川村に至る地域において,さらに15観測点からなる広帯域MT法観測を2016年11月から12月にかけて実施した.2015年に実施した測線の北側に測線を設定し,島弧方向の構造の変化を検証しようとした.一方,豊後水道スロースリップ域やその北側に東西に分布する深部低周波微動域を含んだ広い領域での深部比抵抗構造を決定する目的と,スローイヴェント時の電磁気的シグナルの有無を検証するため,四国西部においてネットワークMT法連続観測を開始した(3.5.12「スロー地震学プロジェクト:スロー地震学発生領域周辺の地震学的・電磁気学的構造の解明」,および観測開発基盤センター 3.11.8「スロー地震学」プロジェクトを参照).2015年6月から愛媛県御荘町,城川町の2観測点に3成分磁力計を設置して磁場3成分観測を開始し,2016年3月より,愛媛県西部から高知県西部に至る17エリアでの長基線地電位差観測を開始した.また,2016年4月には顕著な隆起が観測されたえびの硫黄山周辺域で広帯域MT法観測を実施し,その観測を実施している間に起きた熊本地震の発生をうけて,9月から10月にかけて熊本地震震源域周辺での広帯域MT観測を実施した.