3.5.9 2014年11月22日長野県北部の地震(Mj6.7)の余震活動と地殻構造

2016年熊本地震に伴って発生した一連の地震活動の震源カタログを、定常地震観測網の連続波形データを用いて高い精度で推定し、その時空間発展を詳細に分析した。その結果、2016年4月14日に発生した前震(Mw 6.2)以降、地震発生域が時間の経過とともに、日奈久断層と布田川断層に沿って徐々に拡大する様子を捉えた。前震域の拡大は、断層の走向方向に加えて傾斜方向(断層面の浅い方向と深い方向)にも起きており、2016年4月16日に発生した本震(Mw 7.0)の破壊開始点へ向かう動きも見られた。前震域の拡大は、前震がきっかけとなって生じたゆっくりすべり(余効すべり)の伝播によるものと考えられる。実際、前震発生域の近傍の地殻変動観測点(国土地理院電子基準点)のデータに基づくと、前震の発生以降、本震が発生するまでの間に、前震時と同じ方向に変位が徐々に進行したことが示唆される。このような非定常な変位が観測された場所は極少数ではあるものの、前震の断層面上ですべりが起きたモデルで変位データを概ね説明できる。この結果は、前震の断層面上においてゆっくりすべりが起きていたという解釈を支持する。前震による地震時の応力載荷に加えて、ゆっくりすべりが伝播することで、本震断層面への応力載荷が進行し、本震の発生が促進されたと考えられる。前震活動中に地震発生域が拡大する現象は、沈み込む海洋プレートと陸側プレートとの境界で発生した2011年東北地方太平洋沖地震Mw 9.0や2014年チリ北部地震Mw 8.2の発生前に起きていたことが報告されているものの、内陸の活断層においても規模は小さいものの類似な現象が起きていたことを明らかにした点はユニークである。

 

熊本地震震源域には日奈久断層帯、布田川断層帯が位置している。熊本地震に伴って発生した一連の地震活動と活断層帯との関係を明らかにすることは、熊本地震の活動様式を考える上で必要である。また、布田川断層帯の東方延長上には、阿蘇山が位置している。熊本地震の地震活動による阿蘇山の火山活動への影響を考える上で、布田川断層帯から阿蘇山に至る地域の地殻構造に関する知見は重要である。そこで、詳細な余震分布や地殻構造解明を目的とし、熊本地震震源域において稠密余震観測を実施した。稠密余震観測測線は、日奈久断層帯の北部から日奈久断層帯・布田川断層帯の接合部を経て阿蘇山北側に至る約65kmの区間に設定し、観測点を250m-500m間隔で225箇所に設置した。また、測線周辺の25箇所にも面的に観測点を配置した。観測は、2016年4月30日~5月29日まで実施した。気象庁一元化震源リストによると、観測期間中に余震域を含む研究対象地域(緯度32.6°-33.2°N:経度130.5°-131.3°E)ではMj1.0以上の地震の震源が920個決定されている。各観測点で得た連続記録から、これら地震の震源時刻に従って、イベント毎へのデータ編集を実施した。作成したイベント記録からは、P波初動やS波初動が明瞭に確認でき、P波初動到達後に、地殻深部からの反射波と考えられる後続波も確認することができる。現在、イベントデータに対してP波・S波の手動検測を行なっている。

また、熊本地震の本震に伴って出現した地表の地震断層と浅部の余震分布との関連性を調べるために、熊本県阿蘇郡西原村に約150点から構成される超稠密な地震観測網を設置し、約45日分の連続波形記録を取得した。連続波形記録を統合し、自動処理による観測網近傍の地震の検出を完了した。