3.2.2 精密な重力観測に基づく研究

(a) 長野県松代における精密重力観測

  長野県松代において,超伝導重力計を用いた重力連続観測を行っている.重力計の記録から,2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震のあと,年間およそ10マイクロガルという大きなレートで重力が減少を続けていることが明らかになった.この観測点は,地震の震源域からは400km以上離れており,GEONETによるGNSSデータから推定される上下変動は比較的小さいにもかかわらず,このように大きな重力変化が見られるのは,地震のあと継続しているアフタースリップあるいは粘弾性緩和による地下の密度変化をとらえていると考えられる.2019年に,TT70型超伝導重力計の冷凍機に重大なトラブルが発生し,1995年以来の連続観測が途絶えた.現在は小型重力計iGravが稼働している.

(b) 東日本における長期的重力変化

  前項で述べたような,東北地方太平洋沖地震後の長期的重力変化は,東日本の広い範囲で継続している.この現象を詳しく調べるため,北海道から中部地方にいたる数カ所において,絶対重力測定を実施している.2019年における測定地点は,弟子屈,水沢,浅間,松代,神岡,富山であった.

(c) 伊豆大島における重力測定

  近年の伊豆大島は約1~2年周期の短期的な膨張・収縮を繰り返しながら,長期的には膨張傾向にある.この長期的膨張がマグマ蓄積によるものであるならば,長期的な重力測定によってその質量変動を測定できるはずである.地震研は,1998年頃から断続的(2005,2006,2007,2009,2012,2017,2018年)に絶対重力計と相対重力計を組み合わせたハイブリッド観測を行ってきた.そこで直近の3回(2012,2017,2018年)に行われた重力測定データを解析した.6年間で島の南部で約70 マイクロgalの重力減少,島頂部のカルデラ近辺で約90 マイクロgalの増加が検出された.相対重力計の測定精度は悲観的に見積もっても20マイクロgal程度であるため,これらの変動は有意である.ただし,これらの重力変化を直ちにマグマ蓄積によるものと解釈することはできない.なぜなら,(1)地殻の上下変動に伴う見かけの重力変化,(2)降水がもたらす重力変化があるためである.そこで,2019年11月の観測では,大島に4カ所あるGEONET点でも相対重力測定を行い,重力変動と地殻変動の関係を追随できるようにした.また,降水に伴う重力変動を抑えるために,伊豆大島観測所内での連続絶対重力測定を実施した(2019年11月~2020年3月).

(d) 桜島における重力測定

  地震研は,絶対重力計を用いた桜島での連続測定を2008年頃から続けてきた.絶対重力計は,京都大学防災研究所と国土交通省大隅河川国道事務所の協力の下,桜島南麓にある有村観測坑道の入り口付近に設置されてきた.2019年は年初から,装置の不調が生じた7月末まで測定を行った.

(e) 沖縄県石垣島における精密重力観測

  沖縄県石垣島において,2012年から超伝導重力計による重力連続観測を行なっている.この地域の地下では,約半年に一度,スロースリップが発生していることがわかっている.この観測では,地下の高圧流体がスロースリップの発生にどのように関わっているかを,重力をとおして解明することを目的としている.この場所では,大気・海洋・地下水が相互作用を及ぼしあい,重力に複雑な影響を及ぼしていることがわかってきた.それを効果的に補正するため,周辺地域において水文観測や重力サーベイを繰り返し実施している.