プレート運動や地殻変動を計測する手段として，GNSS (全地球測位衛星システム) は最有力の武器である．地震研究所のGNSS 研究グループは，全国の大学の地殻変動研究者で組織する「GPS 大学連合」の本部・事務局をつとめるほか，各種の国内・国際共同研究の企画・調整・推進を行っている．ここでは，地震研のGNSS グループが中心となって実施した観測・研究のうち，主なものを紹介する．

 (a) 国内におけるGNSS 観測研究

東海地方直下で発生するスロースリップの実態解明のため，静岡大・東海大等とも協力しつつ，東海地方に稠密GNSSアレイを構築して2004 年から連続観測を行っている．2014年度には観測の強化のため，新たに愛知県内に5点のGNSS観測点を設置した．2008 年度からは監視機能を高度化するため，9 点についてテレメータ化すると共に，1Hz の高頻度サンプリングを実施している．これらのデータを用いて，スローイベントや固着域の時空間分布とひずみ分布の関係などを継続的に調査している．東海地方だけでなく，西南日本においてGNSSデータからスローイベントを検出する手法を開発している．また，東北大学や本所地震予知研究センターと共同で房総から福島県の太平洋沿岸地域でGNSS観測を実施している．福島県いわき市で発生した2011年4月11日福島県浜通り地震の余効変動の検出とそのメカニズムについて調査を行った．さらに，2012年より静岡大，福島県いわき市及び茨城県鹿嶋市において50HzのGPS観測を行っている．このような高頻度サンプリングによるGNSS 観測により，GNSS が地震計として活用できるかどうかの調査も行っており，GNSSデータに基づいて断層面の破壊過程の推移の推定を行うソフトウェアを開発した．

(b)GNSS を利用した新技術の開発

GNSS研究グループは1996 年頃より日立造船(株) 等との共同研究によってGNSS ブイを用いた津波計の開発を行ってきた．このGNSS ブイにより2011 年東北地方太平洋沖地震による津波記録を取得することに成功した． しかしながら，現在の方式では沿岸から20㎞以内程度での設置が限度であることから，より沖合での観測を目指して開発研究を進めている．2014年度には文部科学省宇宙科学技術推進調整委託費「「みちびき」と「きく８号」を用いたGNSS津波計による早期津波警戒システム」により，高知県黒潮牧場のブイを利用した遠洋での海面高変位計測と衛星を用いたデータ伝送実験を実施した．今年度の実験は2014年6月に実施した．図3.2.1にシステム図を，また，図3.2.2に取得したデータを示す．遠洋での測位解析には新たに開発されたPPP-ARと呼ばれる方式を用い，データの伝送には，陸からブイへの補正データの伝送に準天頂衛星「みちびき」を，また，ブイから陸へのデータ伝送に技術試験衛星「きく8号」を用いた．海面高変化がよく捉えられていることがわかる．この実験により遠洋での津波観測の実用化の可能性を示すことができた．なお，この研究は高知高専，JAXA，NICT，日立造船と東大地震研の5者による共同研究として実施されている．