3.2.3 地震,地殻変動等の最先端観測や新しい観測の試み

(a) 南アフリカ鉱山における半制御地震発生実験

南アフリカの金鉱山の地下深部の採掘域周辺に多数の高感度微小破壊センサボアホール設置し,半径100m以上の範囲にわたってM-4以下という数cm程度の微小破壊までを検出・位置標定する,世界でも例をみない観測を行ってきた.これまで既存の地質断層に強く集中した活動について, その多くが断層面自体での滑りであり,b値が非常に高いこと,また,b値を低下させつつ,さしわたし30m程度の大きさにまで準静的に成長したケースがあることなどが見いだされてきた.さらに,東北大学等との共同研究によって,M2の地震がおこった既存弱面(ドリリング試料の分析から熱水変成したジョイント面と判断された)において,その半年前くらいから,将来のM2破壊面に強く集中した微小破壊活動がおこっていたことが見いだされていたが,その活動の時空間推移を詳細に調べたところ,さしわたし40m程度の活動域全体の活動度は,周辺で採掘空洞が拡大してゆくことによる活動面への剪断載荷の増加速度でコントロールされており,本震にむかって加速する様子はなかったが,活動域の中の最大のクラスタにだけ着目すると,本震直前の6日間に活動レートの加速的増加があったことがわかった.この期間は鉱山がクリスマス休暇で,周囲からの載荷増加はなかったので,加速は自発的なものである.ただし,この加速活動は,たった7個のイベントから得られたもので,統計的に有意と認められる明瞭な加速ではあったものの,本震がおこる前にそれと認識できるほどの目立った活動ではない.

 また,京都大学・東北大学と共同して,採掘前線の前方のインタクトな岩盤中に発生する大量の微小破壊の精密な解析を行ったところ,厚み2-3mで60度程度に傾斜し,採掘前線に平行な走向をもつ板状の微小破壊のクラスタを発見した.傾斜方向のさしわたしが20m程度の大きなもので,このようなクラスタが,厚味4-5m程度の非活発な領域で隔てられて,複数みいだされた.それぞれのクラスタは,採掘前線が10m程度にまで迫ったときに活動がはじまり,前線がクラスタに達するころに活動を停止する.しかし,個々のクラスタの位置は移動しないことから,このクラスタは,岩盤内に形成された物理的損傷の密集ゾーンであると考えられる.ほぼ同じような位置にたまたまあった既存地質断層の活動は,震源決定精度の限界である30cm程度の厚みしかもたなかったので,今回発見された2-3m厚の板状活動ゾーンの厚みは本物である.また,その中に特段に密度の高い薄い面状集中があるわけではないので,岩盤には巨視的な破壊面はできていないと推察される.一方,活動ゾーンの姿勢や大きさは,採掘前線前方のインタクト岩盤中で一気におこる巨視的な剪断破壊であると考えられているオルトレップ・シアーという構造とよく似ているので,今後さらに詳細な分析と現場での岩盤観察を組み合わせて,両者の関係を追求してゆく.