3.2.4 観測や室内実験と理論を結びつける研究

(a) 地球のグローバルな変形・重力変動の理論の高度化

球対称な粘弾性体地球モデルについて,コサイスミックな地球内部変形の理論的な定式化を行い,点震源が励起するグリーン関数の計算を完成させた.他のこれまでの研究では,非圧縮性を仮定したり,自己重力を無視したりなど不十分な仮定にもとづいて定式化されていたが,本研究によりこれらの仮定を外した一般的な取り扱いが可能となった.

 この理論を用いて,地表のみならず,地球「内部」の体積歪分布や,応力分布の計算が可能となる.また,3次元的な粘性構造を考慮した球体モデルにおいて,粘弾性緩和によるポストサイスミックな重力場変化を正確に見積もる手法を開発した.曲率,自己重力,圧縮性の3者を支配方程式に沿って厳密に取り入れたものは初めてである.このモデルを2004年スマトラ島沖地震に適用し,GRACE衛星重力データを余効すべりと粘弾性緩和の重ね合わせによって説明できることを示した.現在,地震研究所のWEB上でこの計算を行うソフトウェアの開発を進めている.

(b) 微動・スロースリップイベントのトリガリングの研究

微動やスロースリップイベントの発生頻度がdecadalに変動することを短周期の潮汐の振幅が18.6年等の周期で長期的に変調することで定量的に説明できることを世界で初めて示した.長期的な地震活動にもこの潮汐との一致が見られ,地震発生予測を高度化し得る一つの新しい結果が得られた.

 (c) 不均質な断層での動的破壊の進行

室内実験にもとづく速度状態依存摩擦則のパラメータを空間的に不均質に分布させることで,粘りのある大きなアスペリティの中に脆い小領域があるときの地震発生プロセスをシミュレートする研究をJAMSTECと協力して行ってきた.そのなかで,大きなアスペリティの準備が十分進まないうちに小さな破壊がおこり,一気に大地震まで成長することで,準静的な震源核が大きく成長する前に大地震がおこってしまう場合がある一方,大アスペリティ内部のかなり広い部分で固着が相当程度剥れた状態に至らないと,小地震がおこっても大地震まで進行できないことも見いだした.シミュレーションでは,このような固着の剥れは,SSEのような一過性のゆっくりとした滑りの伝播が地震サイクルの中で時々おこることで進んでゆく.これは,SSEのようなイベントが地震発生域の端部の中立安定域に限らないことを意味し,また,サイクルの中盤以降でみられる現象であることから,大地震の切迫度に対して弱いながらも情報をもつことになる.また,摩擦法則の詳細によっては大きな震源核の時間的進行に長期的な載荷レートが影響し,載荷レートの低い断層では,震源核のモーメントレートが小さくなることを見いだし,さらに次元解析によって,この現象がおこるための一般的な条件を見いだした.また,不均質断層での破壊過程と,動的破壊初期の地震波形の関係を,シミュレーションにより調べた.

(d) 固着度のリモートセンシングの研究

我々は,室内実験によって,断層面を透過する弾性波の透過率を測ることで,断層の摩擦強度の変化をリアルタイムでモニターできることを示したが,数理部門と共同して,実際の地震サイクルでの弾性波透過率の変化量をみつもった.結果は数理部門の項に紹介した.また,USGSと共同でおこなった,光学的な接触面積との同時測定データの検討をさらに進め,弾性波透過率を接触弾性率に変換することで,断層を通過する弾性波の走時の変化量をみつもったが,接触状態の変化によって物性の変化する可能性のある部分は非常に薄いため,透過振幅のような顕著な変化はおこらないであろうと結論された.