3.1.1 地震発生場の研究

(1-1) 不均質構造がアスペリティを生成する可能性について

最近20年以上にわたり地震の詳細な震源過程がインバージョン解析により推定され続けている.一方震源域の詳細な3次元地震波速度構造についても推定されつつある.両者を比較した結果,地震のアスペリティ部が高地震波速度域に対応することがいくつかの地震について明らかになっている.このことを力学的に説明するために,地震研究所により推定された2004年中越地震の詳細な断層破壊過程と同震源域の詳細な3次元地震波構造の関係を力学的に研究した.その結果,震源域の3次元構造に造構応力を加えると,中越地震の震源,特にアスペリティ部分において高応力降下量が期待されることがわかった.

(1-2) 室内岩石摩擦実験と地震サイクルシミュレーションに基づく地震断層強度音波モニタリングの検討

我々は,計測部門の室内岩石摩擦実験グループと連携し,地震サイクルにおけるプレート境界の摩擦強度の変化を,プレート境界面での接触コンプライアンスによる音響反射の観測からモニターしうるかの理論的検討を行った(Kame et al., 2014).接触境界反射が強度を敏感に反映するのは,摩擦強度と摩擦コンタクトの半径に依存して決まる特性周波数の上下一桁程度の周波数の音波を用いた場合である.実験室での測定では,摩擦コンタクトの半径として臨界滑り距離程度の値をとる(Nagata et al., 2008)ことから,プレート境界断層でのコンタクト半径を10cmとし,摩擦強度を100MPaとすれば特性周波数は10Hzとなり,フィールドでの反射法探査等で実現しやすい値であると予想される.一方で,速度・状態依存摩擦則を用いて地震サイクルのシミュレーションを行うと,地震前二年間に滑り速度がプレート運動程度の速度から1mm/sまで加速する間に摩擦強度(Nakatani, 2001)が数十MPa低下することが予想される(Kame et al., 2012).反射率の低下量は,強度変化/初期強度レベルでスケールされるので,この強度低下による反射率の増加は,断層の初期強度を200MPとすれば5%,30MPaとすれば50%程度となり検知を目指せるレベルであると考えられる.また,プレスリップのほとんどが地震のごく直前に集中するが,強度及び反射率は,ほぼプレスリップの滑り速度の対数に応じて変化するので,前述の変化量は地震の数ヶ月前から顕著な変化として見えることが期待される.

(1-3) 地震カタログのインバージョンへ向けて

大地震発生前に震源域周辺の地震活動がしばしば変化することはよく知られている.この ような現象を定量的経験則として確立することは興味深い課題であり,古くから研究され ている.しかし大地震はそもそも低頻度であるので,十分な再現性をもった現象論の構築 は容易でない.地質学的構造に起因する,地震の「個性」も問題を困難にする一因である.このような困難を解決するためには,地震活動を決定する物理過程を解明することが 必要である.たとえば,地震波放射を決定する物理過程が解明されているからこそ,観測 される地震波形からインバージョンによって断層破壊過程の情報が抜き出せるわけである が,同様に地震カタログのインバージョンによって地殻の力学状態の情報が抜き出せるこ とが将来的には可能になるべきであると考える.このような問題意識に基づき,我々は地 震活動のフォーワードモデリング研究を開始している.2014年度においては最初の試みと して,いくつかの簡単なセルオートマトンの解析を行い,興味深い成果を得た.とくに, 各種統計パラメターの剪断応力依存性,および大イベント前の静穏化メカニズムについて 半定量的な説明を与えた.今後はより定量的な力学モデルの解析へ進む予定である.