3.5.9 房総スロースリップの観測

(1)東北地方太平洋沖地震に誘発された房総スロースリップ

東北沖地震の応力変化により誘発された房総スロースリップの検出を目指して、2011年3月の連続波形記録に対する波形相関解析に基づき、既知のスロースリップイベント時に発生した群発地震に類似するイベントの検出を行った。その結果、2011年3月12日から群発的な地震活動が房総半島沖で始まり、13~14日にかけて活動の活発化が見られた。この際、地震活動の移動と小繰り返し地震も検出されたことから、フィリピン海プレート上面付近では非地震性すべりが発生し、さらにすべり域が移動していたと考えられる。2007年、2011年11月、2014年に発生した3つのスロースリップ発生期間中に発生した地震活動についても同様の手法で再解析を行ったところ、いずれも同様の移動パターンを示したとともに、地震活動度やすべり量を比較した結果、2011年3月の房総スロースリップの規模は、2014年のイベントと同程度、もしくはそれよりも小さいことが予想された。

(2)2013-2014年房総スロースリップイベントと群発地震活動

房総半島東方沖では,群発地震活動を伴うスロースリップイベント(SSE)が繰り返し発生してきた.2013年12月から2014年1月にかけて新たなSSEによる地殻変動と群発地震活動が観測された.このSSEの時間発展を明らかにするために,東京大学地震研究所と国土地理院GEONETのGPS観測点におけるGPS時系列データを用いて,フィリピン海プレート上面におけるすべり・すべり速度の時空間変化を時間依存インバージョン解析により推定した.また,SSEと群発地震活動の関係を明らかにするために,matched filter解析により地震の検出を行った.

インバージョン解析から,すべりは2013年12月上旬から中旬頃に房総半島東方沖でゆっくりと始まり,12月下旬にかけて徐々に加速したことが分かった.この期間のすべりの西方への伝播速度は1 km/day程度あるいはそれ以下だった.その後,12月30日頃からすべりが急激に加速すると同時にすべりの伝播も加速し,西方への伝播速度は約10 km/dayに達した.すべり速度は2014年1月3日に最大に達し,1月9日にかけて急激に減速した.

matched filter解析から,2013年12月上旬から下旬にかけてのすべり速度が比較的遅い期間には顕著な地震活動はなかったが,12月30日頃に起きたすべり速度と伝播速度の急激な増加に同期して地震活動も活発化したことが分かった.12月30日以降の地震活動はスロースリップ域の深部に隣接した領域で発生し,すべり速度と地震の発生個数及びすべりの伝播と震源の移動の間には強い相関が見られた.これらの結果は,群発地震活動がスロースリップによる応力変化によってトリガーされたことを示唆する.