1. はじめに

地震研究所は,関東大震災(1923年)を契機に1925年に設立され,以来,地震や火山噴火現象の解明及び災害の軽減に関する研究を進めています.本年報では,2014年(平成26年)度の研究・教育活動について報告します.東京大学は,2004年度に法人化し,現在,第2期中期計画に基づいて研究・教育活動を進めています.地震研究所は,法人化後の限られた学術研究支援の下,学内の関連部局や大学外の機関と連携して効率よく研究を推進する体制を整えてきました.体制を整えるにあたっては,3回の外部評価(1999年,2003年,2009年)をはじめ学外から広く意見を取り入れてサイエンスプランをまとめ,そのサイエンスプランに基づいて,2010年度に4研究部門・7センター体制に改組し,「共同利用・共同研究拠点」として全国的共同研究を推進する組織となりました.この改組の一環として理学系研究科物理学専攻と連携して革新的学術分野の創出を目指す「高エネルギー素粒子地球物理学研究センター」を,また,2012年度には,東北地方太平洋沖地震を受け,巨大地震・津波の発生からそれが社会に与える影響までを最先端計算科学で繋ぐ学問体系構築を目指す「巨大地震津波災害予測研究センター」を設立しました.これらの所内研究センターに加え, 2008年度に情報学環,生産技術研究所とともに設立した「総合防災情報研究センター」において,学内における理工学および社会科学の連携を強めています.地震研究所は,その設置目的である「地震及び火山噴火現象の解明のための学術研究」を進める中で,全国規模の共同研究プロジェクトの取りまとめ機関としての責務を果たしています.2009年度からは,地震と火山噴火の研究が一体となった研究計画推進体制が確立され,その体制の下,2011年霧島火山(新燃岳)噴火や東北地方太平洋沖地震における全国規模の共同研究を実施しました.また,東北地方太平洋沖地震発生後,巨大地震や巨大カルデラ噴火のような低頻度大規模現象を視野に入れた研究計画(見直し建議),さらに,2014年度からの現行5カ年計画「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(建議)」の策定において中核的な役割を果たしました.現行計画の実施にあたっては,防災学の共同利用・共同研究拠点である京都大学防災研究所との拠点間連携を進め,地震・火山噴火などの自然現象から,それらの自然現象による災害が社会に与える影響までをシームレスに理解し,災害軽減に繋げる研究推進体制を整えつつあります.地震研究所は,このように組織を進化させることによって,既存の学術分野の枠を超えた交流を活性化し,急速に進展する科学技術の中で最先端の研究活動を維持しています.2014年6月には,これらの活動,特に第2期中期計画中に設置した2つのセンターの活動および東北地方太平洋沖地震後に見直したサイエンスプランについて国内外委員による外部評価を行い,高い評価を得ました.

地震研究所では,上に述べた先端的研究を推進するとともに,理学系研究科や工学系研究科などと協力し,東京大学の一部局として,教育活動にも大きく寄与しています.地震研究所における教育の大きな特徴は,野外観測・室内実験・理論研究を統合した先端的研究への大学院生の参加であり,特に大型野外観測や実験研究への参加により座学だけでは得られない貴重な経験を積む場を学生に提供しています.さらに近年では,サマースクールや外国人教員の長期招聘制度を活用することによって,大学院教育の国際化に力を注いでいます.このような多様な教育活動は,本研究所における高度な研究活動を維持し,さらに次世代を担う人材を育成する原動力になるものと信じています.以上の多様な研究・教育活動は,教員・技術職員・事務職員との共同作業によって,初めて効果的に推進されるものです.本年報では,それらの研究・教育活動の全体像を報告したいと考えています.

東京大学地震研究所長

小屋口剛博