期間限定 東京大学地震研究所 「日本沈没」と地球科学に関するQ&Aコーナー


Q82.前にも質問したことです。九州島は、大きな台風が来るたびにやや回転しながら全体が3cmほど、本州島を基準として動く、ということが、阿蘇観測所でわかっており、パニックを防ぐため、地球物理関係の学会等では外部へは丸秘となっている、ということを知っています。是非、この質問に答えてください。上記の観測事実はどのように説明できるのですか?
 (同じ方の以前のご質問です)阿蘇山での地殻観測によると、非常に強い台風が九州島を横切る度に、九州島が本州に対して3.1 cm程、回転を伴って本州島に対して移動する(過渡的シフトする)ことがわかっています。勿論、海に対して浮いている訳ではありませんが、下部プレートに対して上部が、あるいはマントル層上辺に対して、「浮いている」といっても良いほど接続が毀弱で、弱い摂動で捩れ弾性変形すると聞いています。これはどういうことですか。どこが捩れのエネルギーを補償しているのですか。気圧または強風で動くのですか。

A82.「丸秘」であるためか私も知りませんでしたので、阿蘇の火山観測所(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設火山研究センター)の大倉先生に尋ねてみました。大倉先生は阿蘇の火山観測所で地震や地殻変動の研究をされている方です。「もしそれが本当だったら九州に何かとてつもないことが起きることになる」とは言いませんでしたが「ほんまかいな」と言いながら実際に計算してくれました。

 ちょうど今年の9月17日ころに九州の西側を台風13号が通過しましたので、その時に阿蘇の本堂観測所におけるGPS観測結果を解析してくれました。GPSとはカーナビゲーションシステムにも用いられていて、GPS衛星の電波から自分の位置を割り出すためのシステムです。この信号を精密に解析するとミリメートル程度の移動でも分かります。RTDという方法をつかって台風が通過する前後の本堂観測所の位置を計算してもらいました。



 図は30秒ごとに緯度および経度の計測結果を示したものです。30秒ごとですとばらつきが大きくなるので、9月16日、17日、18日の平均値を計算してもらいました。その結果

9月16日 北緯 32度52分46.858518秒

      東経131度 4分33.654927秒

9月17日 北緯 32度52分46.858181秒

      東経131度 4分33.655708秒

9月18日 北緯 32度52分46.857937秒

      東経131度 4分33.654866秒

この数字を見ると、経度については台風が通過した9月17日には1000分の1秒ほど東に移動し9月18日には元に戻っています。緯度については9月16日から18日にかけてやはり1000分の1秒近く南に移動しています。ちなみに1000分の1秒というのは約3センチメートルになりますので、ご質問のとおり、九州は台風が来ると動くように見えます。

 しかし、これは次のように説明が出来ています。GPSに用いている電波は湿度の高い空気の中では伝わる速度が遅くなります。観測点付近の大気が一様に湿度が高くなれば問題はないのですが、どちらか片側の大気だけ湿度が高くなると、その方向のGPS衛星から来る電波に遅れが出て、湿度の高い方向にあるGPS衛星からの距離が見かけ上遠くなったように見えます(電波の伝わるのに時間がかかるようになる)。その結果、観測点は湿度の低い方向に移動したような結果が出てしまうのです。

 今回の台風13号は九州の西側を南から北に通過しました。通過している最中に観測点が東にずれたように見えるのは、西側に台風がいたからです。また台風が来る前には南側に湿度の高い雲があるため観測点は北に移動したように見え、台風が通り過ぎると北側に湿度の高い雲があるため観測点は南に移動したように見えます。そのため、16日から18日にかけて観測点は南に動いたように見えます。

 なお、GPSが設置されている本堂観測所は、映画「日本沈没」で富士山観測所として富士山を背景に登場しています。背景の富士山はもちろん合成映像です。また富士山観測所は東都大学地震研究所附属となっていました。京都大学の皆さんごめんなさい。