2004年新潟県中越地震 の地震波動伝播と
関東平野の強い揺れ
古村孝志 (地震火山災害部門)
地震波の伝わる様子

下図は、17時56分の本震(Mj 6.8)の揺れの伝わる様子を、防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET, KiK-net)の地震波形記録を用いて可視化したものである。この地震では震源から数百km以上の広い範囲の強震計513台で良好な記録が得られた。図は加速度波形を時間積分して速度成分に直し、観測点間の揺れを補間により求めることにより作図された。各時刻の揺れ(地動速度)の大きさを色の濃さと高さで強調して表示している。
地震発生から約30秒後には大きな揺れが関東平野に到達し、その後何分にもわたって数cm/s以上の大な揺れが続いていることがわかる。
関東平野の基盤構造と揺れの関係

このように、200km以上も離れた遠地の地震で関東平野が大きく長く揺列づけるのは、関東平野の下の地下構造に原因がある。

関東平野の下では、硬い岩盤(第三系基盤岩)の上には柔らかい堆積層(三浦層、上総層、下総層など)が厚く覆った盆地構造になっている。盆地の深さは東京湾〜房総半島にかけて場所の最も深い場所で4000m近くにもなることが各種の地下構造探査の結果からわかっている(右図)。

このような堆積盆地に地震波が入射すると、地表では揺れが何倍にも増幅されるうえに、盆地端では表面波と呼ばれる、大振幅の波が生成される。これらの波は盆地の中に留まり、揺れが平野の外に逃げないため、揺れがいつまでも続くのである。

このような深部基盤構造だけでなく、地下数m未満のご浅い表層地質も揺れの大きさに関係している。たとえば、海岸沿いの埋め立て地や、河川の流域付近などのような軟弱地盤では、周囲に比べて揺れが2〜4倍以上大きくなるところもある。

関東平野の基盤構造 
(山田・山中, 2003)をもとに作図
MPEG1ムービ (6MByte)

震度、最大加速度と最大変位

この地震は震源が浅い(h=12km)地殻内地震であった。このため、震源の真上では大きな震度(震度6強)が観測されたが、、震央距離が大きくなると、震度は6−>4と急激に小さくなっている。

震度3の地域は震源距離200km以上の比較的広い範囲に現れている。これは地殻内を広角に全反射しながら伝わるトトラップS波(Lg波)が生じたためである。

Lg波は地殻内を多重反射しながら伝わるため、S波と比べて距離減衰が小さい。このため、Lg波が生成されると広い範囲が有感となる。Lg波は、2000年鳥取県西部地震や1995年兵庫県西部地震などの地殻内地震でも良く観測され、広域に大きな揺れが作られた
ところが、最大変位の分布(図b)を見ると、関東平野の方向に向かって揺れが大きな場所が延びていることがわかる。関東平野では震源から200km以上も離れているにも関わらず、最大で2cmを超える大きな揺れが起きていることがわかる。

関東の大揺れは9月5日の紀伊半島南東沖の地震でも起きていた。

関東平野では2004年紀伊半島南東沖の地震(M7.4)でも同様に、長周期地震動による大きな変位が観測されている(纐纈・三宅、2004)。

この地震は関東平野から400km以上離れていたため、揺れの大きさは新潟県中越地震の半分以下であったが、千葉県の石油タンクで最大30cmを超える液面変動(スロッシング)が起きるなど、周期数秒以上の長周期の揺れによる大きな影響が現れていた(畑山、2004)。

平野での長周期地震動の生成は、最大変位(下図右)の図を見るとよくわかる。最大加速度は震源距離とともに急激に弱まるものの(下図左)、最大変位は長周期地震動が強く生成した関東で最大になっている。

震度は、周波数0.5〜2Hz程度の高周波地震動の強さに敏感であるため、最大加速度の分布を求めると震度とよく似た分布になる(図a)。震源の真上で最大1000cm/s/sを超えた強い加速度も、震央距離100kmでは約50cm/s/sに、200kmでは10cm/s/s以下にまで急激に弱まっている。
関東平野の地震記録

関東平野で大きな揺れが生じた代表的な3地点(新宿、川崎、姉崎)の地動(地震波形)を見よう。以下の波形はK-NETの加速度記録を時間積分し、速度波形に直したものである。上からTransverse(震源と観測点を結ぶ方位に直交する方向)、Radial、上下動の順に並べてある。

まず、新宿(観測点コード:TKY007)では、P波とS波の後に、周期が数秒程度の大きな振幅を持つ表面波が到達し、その震動が2分以上にわたって長く続いていることがわかる。Transverse成分に見られる、4cm/sを超える大きな揺れは、振動の粒子軌跡の解析から、Love波と呼ばれる表面波であることがわかる。
川崎(KNG001)でも同様に周期数秒の表面波が発達していることがわかる。揺れの振幅は、新宿と同程度に大きいが、加速度レベルが低いために記録は途中でとぎれている。
姉崎(CHB014)では、上の2地点よりもやや周期の短い、5秒程度の表面波が卓越しており、揺れの継続時間が長い。
応答スペクトル

3地点で記録された地動波形に対する速度応答スペクトルを求めた。

応答スペクトルとは、地震動に対し、いろいろな固有周期を持つ(つまり、大きさの異なる)構造物の最大の揺れの大きさを表したものである。

右図の横軸が構造物の固有周期(秒)、縦軸が揺れの最大の大きさ(cm/s)を示している。
速度応答スペクトルを求めると、新宿(緑色)で観測された地震動は、固有周期が6秒付近の建物(およそ60階建てのビルに相当)を揺する力が強く、最大20cm/sを超える速度の揺れを作ることがわかる。一方、固有周期が1秒程度に短い構造物(およそ、数階〜十数階建てのビルに相当)の揺れは、この1/10以下(2cm/s以下)であることもわかる。
神奈川や姉崎では、いずれも新宿より建物の揺れのレベルが小さく、固有周期が5〜7秒付近の構造物において最大10cm/s程度になることがわかる。

関東方向に大きな揺れを伝えた波

震源から関東平野への地震波の伝わり方を、地震波形をもとに見てみよう。

左図は水平地動のRadial(震源と観測点を結ぶ方向)方向の揺れ(地動速度)を、震源距離順に並べたものである。

震源距離が150kmを超えると、しだいに波群の長い波が形作られている。この波群は群速度が3.4-2.8km/sの範囲(黄色)にあることから、地殻内を伝わるLg波と呼ばれる波であると考えられる。Lg波はS波よりも距離減衰が小さいため、遠地まで大きな揺れが伝わる。
地震波の距離減衰

左図は全ての観測記録の最大地動速度と震源距離の関係をプロットしたものである。

実線は、日本の内陸地震の揺れの標準的な距離減衰式(司・翠川、1999)を用いて、Mw6.6の地震の距離減衰を求めたものであり、この地震の観測を良く説明している。

Lg波が生成する150km以遠、では震幅の減少(距離減衰)がやや緩やかになっているように見える。

関東平野のある、震源距離150-200kmで堆積層で地震波が強く増幅されるために、標準よりずっと揺れが大きく揺れている地点がある(○で囲んだ部分)。

上に示した3地点(神奈川、新宿、姉崎)の速度応答スペクトルを計算すると、姉崎(CHB014)では11秒付近に20cm/sを超える強い応答が起きていたことがわかる。

このような周期11秒の長周期の応答は、上に示した新潟中越地震の応答スペクトル図には見られない。

これは、中越地震のマグニチュード(Mw6.6)が紀伊半島南東沖の地震(Mw7.4)よりも小さく、震源は周期11秒以上の長周期地震動の放射が弱かったためであろう。

また、関東平野の基盤形状が3次元的に変化しているために、地震波の入射方向(北方または西方)によって、表面波の生成と発達の様子が異なることも原因の一つとして考えられる。

文献 

地震波動場の可視化表示について
Furumura, T., BLN Kennett and K.. Koketu (2003): Visualization of 3D wave propgation from the 2000 Tottori-ken Seibu, Japan, Earthquake: Observation and Numerical Simulation, BSSA, V93, 870-881.

日本列島のLg波の伝わり方と震度に与える影響について
Furumura, T.and BLN Kennett (2001): Variation in regional phase propagation in the area around Japan, BSSA, V91, 667-682.

高密度アレイ観測で見る関東平野の表面波の伝わり方
Koketsu and Kikuchi (2000): Propagation of seismic ground motion in the Kanto basin, Japan, Science, V288, 1237-1239.

関東平野の基盤構造
山中浩明・山田伸之(2002): 微動アレイ観測による関東平野の3次元S波速度構造モデルの構築、物理探査、55巻、53-65.

日本列島の地震波の距離減衰特性
司 宏俊・翠川三郎(1999):断層タイプ及び地盤条件を考慮した最大加速度・最大速度の距離減衰式.、日本建築学会構造系論文集、523巻、63-70.

  
2004年10月26日