宮城県沖地震の地震波の伝わり方と関東の揺れ
東京大学地震研究所 古村孝志
【2005年8月17日 16:00 第2版】
| 1.地震波の伝わる様子 |
2005年8月16日に起きた、宮城県沖地震(Mj7.2)の強い揺れが日本列島を伝わる様子を、防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET,
KiK-net)の地震波形記録を用いてビジュアルに表現しました。この地震では、北海道−東北−関東−中部日本の広い範囲にわたって798カ所の強震計で揺れが記録されました。下図は、強震計で記録された加速度波形を時間積分して速度成分に直し、観測点の間を空間的に補間することにより作成しました。地震発生から30秒、50秒、...、200秒の地面の揺れの強さ(震動の速度)を、オレンジ色の雲の高さと色の濃さで強調して表わしています。
地震の強い揺れは、地震発生から20秒で仙台に到達し、50秒で水戸、八戸を通過しました。東京の都心部では地震後70秒から大きく揺れ始め、その後、6分間以上にわたって長く揺れ続けました。揺れはさらに160秒後には名古屋を通過し、180秒後には京都と大阪へと向かいました。これらの平野でも関東と同様に揺れが長く続きました
地震が起きると平野(盆地)はいつも大きく長く揺れます。これは、平野を作っている柔らかい堆積地盤が地震波を何倍にも強く増幅し、また平野の端で表面波と呼ばれる、周期の長い”ゆっくりとした地震波(長周期地震動)”が生まれるためです。こうして平野で生まれた強い揺れは、平野の中をいったりきたりしながらずっと留まります。これが長い揺れの原因です。
関東平野の大揺れは、2004年10月23日新潟県中越地震(Mj 6.8)や2004年9月5日紀伊半島南東沖の地震(Mj 7.4)でもよく見られました。

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(おわび: Windows MediaPlayer V9, PowerPoint2003等で動作を確認していますが
ムービー再生ソフトとPCの組み合わせによっては映像が正しく表示できないものもあります)
| 2.震度と最大変位の分布 |
震度: この地震では、震源に近い宮城県川崎町で震度6弱の強い揺れが観測されました(図右; Intensity)。日本列島全体の震度の広がりを見ると、太平洋岸に震度の大きい領域が北海道から関東にかけての広い範囲に延びていることがわかります。これのようないびつな震度分布は「異常震域」と呼ばれ、これは北海道−東北−関東の太平洋側から陸のプレートの下に沈み込んでいる太平洋プレートを伝わって、遠くまで地震波が良く届くためです。
硬くて冷えたプレートが地震波を良く伝えるのに対し、日本海側の深部(マントルウエッジ)は温度が高く、ここを通過する地震波はすぐに弱まってしまいます。このため、日本海側に入ると震度が急激に小さくなります。異常震域は、プレートとマントルウエッジの地震波減衰構造の大きな違いにより生まれます。
苫小牧や帯広、埼玉の東部から茨城西部、東京の湾岸部、そして名古屋周辺などでは、震度がまわりよりも1程度大きい「震度の飛び地」が現れています。これらの平野の地盤(およそ地下数十メートルの厚さ)では、周期1秒前後の短周期地震動が強く増幅されたため、震度が大きくなったと考えられます。
最大変位: 次に、地面の揺れの大きさ(最大地動変位量)の分布を見てみます(図左;PGD)。地動変位はおおよそ周期1秒以上の長周期地震動の強さを表します。このため、いっぽう、震度は短周期(<1秒)の地震動によって作られるため、2つの分布は異なった形を示します。
地動の変位量は、震源から離れるにつれ、ほぼ同心円の形で弱くなっています。震度分布で顕著に見られた「異常震域」は見えません。これはプレートが短周期の地震動だけを強く伝える性質を持つためです(Furumura
and Kennett, 2005)。
根釧台地、十勝平野、石狩平野、津軽平野、能代・秋田平野、新潟平野、関東平野など、ほとんどの平野で地動変位が大きくなっていることがわかります。長周期の地震動の生成には、平野の深い(数百〜数千メートル)堆積構造が関係しています。

(注意:震度はK-NET, KiK-netの加速度波形を用いて、計測震度を計算したものです。気象庁発表の正式の震度とは異なります。)
| 3.関東平野の長周期地震動 |
宮城県沖地震による長周期地震動
長周期地震動による超高層ビルの揺れ 関東平野では、大きな地震が起きるとゆっくりとした長い揺れ(長周期地震動)が強く表れ、超高層ビルや石油備蓄タンクが共振により大きく揺すられることが心配されています。
たとえば、2003年新潟県中越地震では、震源から200kmも離れた都心部で70階建ての超高層ビルが大きく揺れ、エレベータが停止したほか、ビルの中にいた人が船酔いのような気分を訴えるなど大きな影響が出ました。
宮城沖地震での長周期地震動はどの程度だったのでしょうか。下図は(a)宮城県沖地震、(b)中越地震、(c)紀伊半島南東沖の地震での、都心部(新宿区)の揺れ(地動速度波形)を比較したものです。いずれの地震でも、地震が起きてから、P波S波が到着し、それから後に長周期地震動(表面波;Surface
Wave)が2分以上にわたって後揺れとして長く続いています。ところが、宮城沖地震の後揺れは、これまでの2つの地震と比較して、震動の周期が短く(およそ、1秒以下)、超高層ビルを大きく揺する周期6〜7秒の揺れは小さいことがわかります。
この地震波形を用いて、いろいろな固有周期を持つビルがどれだけ大きく揺れたかを「速度応答スペクトル」を計算して求めてみました(図右)。これによると、木造家屋や、およそ10階建てより低いビルの揺れは中越地震の2倍以上もあったことがわかります(図右:桜色の部分)。いっぽう、60〜70階建ての超高層ビルの揺れは中越地震の1/5程度しかなかったこともわかります(図右:鶯色の部分)。このように、宮城県沖地震の都心の揺れは、人や低層建築を大きく揺すったものの、超高層ビルを揺する力はこれまでのM7クラスの大地震よりずっと小さかったようです。
おまけ: 私は地震研究所(文京区)の2階で揺れを感じましたが、6階建ての庁舎がギシギシと音をたてて長く揺れ続け、これまで体験したこともない恐怖を感じました。すぐに長周期地震動が強く表れたと感じたのですが、後で地震波形を解析したとこと長周期成分は意外と小さかったことに驚きました。そもそも人は周期が6〜7秒にもなる長周期の揺れははほとんど感じることができないことを忘れていたのでした。私が長周期地震動だと勘違いした長い揺れは、せいぜい周期が1〜2秒程度のものだったのでしょう。

長周期地震動が小さかった理由
今回の宮城県沖地震はMj7.2にもなる大地震であり、関東平野では長周期地震動が強く生まれる原因は十分に備わっていました。しかし、周期2秒以上の長周期地震動がこれまでのM7クラスの地震よりもずっと小さかったのは、宮城県沖地震の震源が深かった(h=42km)ことが最大の理由ではないかと考えています。
2003年7月26日に、今回の地震に比較的近い内陸で、宮城県北部の地震(Mj 6.2;h=12km)が起きました。この地震はマグニチュードが小さかったにもかかわらず、都心部では周期7秒の長周期地震動が5倍以上も強く現れました。また、同年5月26日には宮城県沖でプレート内の地震(Mj7.0; h=72km)も起きましたが、この時の都心の揺れも今回の宮城県沖地震と同様に長周期の揺れはあまり強くありませんでした。
下図は、この3つの地震による江東区の揺れ(地動速度)を比較したものです。マグニチュードの小さな、浅い宮城県北部の地震(緑色)は、宮城県沖地震(赤色)に比べてP波とS波がずっと小さい(1/5程度以下)のに、後揺れとして現れている長周期地震動はずっと強いことがわかります。2003年の宮城県沖のプレート内地震(ピンク)も浅い地震と比べると長周期成分が含まれる割合が相対的に少ないようです。
関東平野で長周期地震動が強く生成されるためには、1)マグニチュードが大きい(およそM6.2〜6.5以上)ことに加えて、2)震源が浅い(およそh<20km)ことが必要であることが、今回の地震で再確認できました。このほかにも、3)関東平野の地下構造の3次元形状、4)震源から関東平野までの地震波の道筋の違い、4)震源から放射される地震波の周波数特性、などについても大きく影響することが考えられるため、今後詳しく調べる予定です。

| 4.関東直下の地震との揺れの違い |
関東では2005年7月23日の千葉県北西部で起きた深い地震(Mj 6.0l h=73km)の強い揺れが記憶に新しいところです。このような直下の地震の揺れと、遠く離れた場所で起きた大地震(宮城県沖地震)との揺れの違いを比べてみましょう(下図)。
千葉県北西部の地震(紫色)では、震源からあまり離れていない(D=42km)新宿区ではP波の到着の10秒後に、S波が突き上げるような強い揺れとして観測されています。後揺れは続きますが、震幅は小さくすぐに弱まっています。
これに対し、震源が遠い(D=357km)宮城県沖沖地震では、地震波が関東までの長い距離を伝わる間に、短周期のP波とS波は小さくなっています。しかし、周期の長い揺れは遠くまでほとんど弱まらずに伝わるため、大きく長い後揺れが作られていきます。
このように、直下の地震の揺れは震度が大きいが揺れの時間は短かい、遠くで起きる大地震は震度はさほどではないが、後揺れが長く続く特徴があります。

文献
地震波動場の可視化表示について
Furumura, T.,
BLN Kennett and K.. Koketu (2003): Visualization of 3D wave propgation from the
2000 Tottori-ken Seibu, Japan, Earthquake: Observation and Numerical Simulation,
BSSA, V93, 870-881.
異常震域の成因について
Utsu, T. (1967): Regional difference of seismic waves in the upper mantle
as inferred from anomal distribution of seismic inensities, J. Fac. Sci.
Hokkaido Univ., Ser. VII, 2, 359-374.
Furumura, T.and BLN Kennett (2005): Subduction zone guided waves and the
heterogeneity structure of the subducted plate -intensity anomalies in
northern Japan, JGR, in press.
過去の地震解析HPへ
・2005年福岡県西方沖の地震による表面波の伝播
・2004年 新潟県中越地震の地震波動伝播と関東平野の強い揺れ