2008年6月14日 岩手・宮城内陸地震(M7.2) − 揺れの広がり方 -


                                        東大地震研 強震グループ Ver. 1.1d

V1.0: 2008/6/14, 13:20
V1.1d: 6/16, 8:25


1.震源近傍の強震動 

2008年6月14日8時43分頃、岩手県南部を震源とするM7.2の地震が発生しました。

震源の浅い(h=8km)地震であったことから、震源直上では強い揺れに見まわれ、
地動加速度の強さは、防災科学技術研究所のKiK-net岩手県一関東観測点で
1055.5cm/s/s、 K-NET宮城県築館で812cm/s/s、宮城県鳴子で676cm/s/s、
秋田県椿台で437cm/s/sを記録しました(下図)。

築館では、周期0.2秒(周波数5Hz)の短周期成分が強く含まれており、短周期の強い
揺れが15秒以上長く続いています。K-NETによると、この地点では堅い岩盤の上に1m
程度の柔らかい粘土層が覆っていることが示されており、薄い表層地盤で短周期地震動
が強く増幅された可能性があります。

鳴子では、短周期の揺れに加えて、S波の後から周期2〜3秒の表面波も見られます。
震源が浅いこと、そして地震の規模が大きかったことにより、表面波が強く生成したと
考えられます(付記:K-NET鳴子観測点はカルデラ内にあり、表面波が発生しやすい特別
な地質状況にあるという指摘をいただきました)。
地震波形をよく見ると、築館の短周期の揺れに隠れて、周期2〜3秒の長周期S波成分
も認められます。

3つの地点の観測データを用いて速度応答スペクトルを求めると、3地点の地震動の
特性の違いと、築館の記録に短周期の地震動と長周期の表面波の両方が強く含ま
れていることがよくわかります。



図1 震源近傍強震動と速度応答スペクトル

2.揺れが広がる様子

地震による揺れが、時間経過とともに日本列島を広がるようすを、防災科学技術研究所のK-NETとKiK-net
強震観測記録を用いて映像化しました。

以下の図は、地震発生から、10、30、60、90、120、150秒後の地面の揺れの強さ(速度)を、日本
列島に高い密度に配置されている強震計のデータを空間的に補間し、揺れの大きさを高さと色で強
調表現したものです。

浅い(h=10km程度)震源から放射された強い揺れは、地震後10秒で仙台に到着、30〜40秒で
東北全域に広がり、60秒後には、新潟から北関東へと広がっています。

関東平野ではその後、3分以上にわたって長く揺れ続けています。これは、平野を厚く覆う柔らかい
堆積層において、揺れが何倍にも強く増幅されるとともに、表面波とよばれる周期の長い地震動
(長周期地震動)が平野内に閉じ込められるように長く揺れ続けたためです。

同様の現象は、仙台平野や新潟平野、秋田平野など、他の平野(盆地)でも確認できます。


図2 岩手・宮城内陸地震の揺れの伝わる様子(地震後、10, 30, 60, 90, 120, 150秒後。
防災科学技術研究所のK-NET,KiKn-et強震観測データ653点分)を使用しました。

<<<<MPEG アニメーション(10MB)>>>> はこちららからダウンロードできます
 (Windows Media Player と PowerPoint2003で動作を確認していますが、他の再生ソフトではコマ飛びを起こしたり、
    画像がブラックアウトするなど正しく再生できない場合があります)。


下図は、震源から南方位に向けて地震計記録(地動速度、東西成分)を並べたものです。

まずP波(縦波)が、秒速約6kmの速い速度で伝わり、その後大きな震幅を持つS波(横波)が
秒速3.5kmの速度で広がっています。

S波の後からは、周期の長い大きな表面波が伝わっていきます。P波とS波は距離とともに
急速に弱まりますが、表面波は遠距離を伝わってもあまり弱まらず、関東平野に入ると強く
増幅され、大きな揺れを作っていることがわかります。


図3 震源から関東に向けて並べた地震波形(地動速度、東西方向;観測点の位置は
図中の地図を参照)。各波形記録には、震源距離を乗じて距離減衰の影響を補整してあります。


3.揺れの強さ分布


強い加速度を作り出す、周期1秒以下の小刻みな揺れ(短周期地震動)は、伝播とともに急激に弱まります。
最大加速度分布を見ると、震源を中心する、同心円状の加速度分布が確認できます。

栃木県から埼玉県/茨城県境にかけて加速度の大きな(>20cm/s/s)飛び地が見られます。
直下の柔らかい表層地盤により、短周期の地震動が強く増幅されたことが考えられます。

いっぽう、揺れの周期が2秒を越えるようなゆっくりとした揺れ(長周期地震動)は、遠距離を伝わっても
あまり弱まりません。そして、平野の地下を覆う厚い堆積層に入ると、共鳴(共振)を起こして強い増幅が
起きます。揺れは内部に閉じ込められるため、平野ではゆったりとした揺れが長く続いたことが考えれます。

長周期地震動が作り出す加速度レベルは小さいものの、地表に大きな揺れ幅(地動震幅)が生まれます。
最大変位分布を見ると、震源から300〜400km離れた新潟平野や関東平野が、最大2cmの揺れ幅で大きく
揺れたことがわかります。


図4 最大加速度(PGA)と最大地動変位(PGV)分布。図中の小さな□印は、作図に用いたK-NET観測点の
位置を示しています


4. 関東平野における長周期地震動の生成

今回の地震は、規模が大きく(M7.0)、かつ震源が浅かった(h=10km)ために、関東平野ではやや強い
長周期地震動が生成しました。地震計記録を解析すると、およそ5〜8秒の周期を持つ、長周期地震動の
生成が確認できました。



図5 都心(江東区)における地震計記録(地動速度、南北成分)。2008年岩手・宮城内陸地震と、
2004年新潟県中越地震、2003年宮城県北部の揺れを比較しています。。

関東平野で生成した長周期地震動のレベルは、震源が近かった(D=200km程度)2004年
新潟県中越地震(M6.8)や、2007年新潟県中越中越沖地震(M6.8)のものの1/2〜1/3ですが、
M7クラスの浅い地震が発生すると、関東平野では周期6〜8秒の長周期地震動が必ず生成する
ことが確認できました。

今回の地震の震源にやや近い、2003年宮城県北部の地震(M6.4)では、関東平野では
長周期地震動はほとんど観測されませんでした。この地震も震源が浅い、内陸地震でしたが、
Mが小さかったために、周期6秒を越えるような長周期の地震波が強く放出されなかったたです。

この揺れによる、都心の建物の振動(応答)の様子を調べるために、応答スペクトルを
求めました(下図)。固有周期が5〜8秒前後の建物に最大5cm/s程度の速度応答(減衰定数が
h=5%の場合)が確認できました。

すなわち、このような固有周期を持つ長大構造物(およそ50階建て以上の超高層ビルや、
大型の石油備蓄タンクなど)では、長周期地震動に共振を起こして最大5cm/sの速度で、
また4cm以上(片振幅)の大きさで揺れた可能性があります。




図6 江東区での速度応答スペクトル(水平動、減衰定数h=0.05%で計算)


文責 古村孝志・三宅(総合防災情報研究センター/地震研究所)・三宅弘恵(地震研究所)
波形処理・作図:武村俊介・小林雅裕・竹本帝人(地震研究所)