2008年7月24日 岩手県沿岸北部の地震(M6.8) − 揺れの広がり方 -


                    東大地震研 強震動グループ Ver. 1.2

V1.0: 2008/7/24, 07:00
 1.1 09:30 (図2と説明を修正しました。)
 1.2 11:00 (図4、5を追加しました)


0.はじめに

2008年7月24日0時26分頃、岩手県沿岸北部の深さ108kmでM6.8の地震が発生し
ました。岩手県洋野町で震度6強、青森県八戸市、五戸町、階上町、岩手県野田
村で震度6弱の強い揺れを観測したほか、北海道〜東北〜関東〜近畿地方の一
部にかけて有感の範囲が広がりました。

この地震は、日本列島下に沈み込む太平洋プレート内部で発生した「プレート内地震」
でした。

大きな震度が広範囲に広がった原因として、1)プレート内地震のため、応力降下量
が(プレート境界地震よりも)大きく、震源から短周期の地震波が強く放射された。
2)堅いプレートに沿って地震波が遠地まで良く伝わった(「異常震域」)ことが考えら
れます

*異常震域の説明については、日本地震学会広報誌「なゐふる」の記事をご覧ください。

1.震源付近の強い揺れ

この地震により、震源に近い地震観測点では最大1000cm/s/sを越える強い揺れを
記録しました。図2は、防災科学技術研究所のKiK-net強震観測点で記録した加速度
波形(地面の南北方向の動き)の一例です。

地震波形をよく見ると、最初のP波(P0印)は小さく、これから5秒ほど遅れて、大きな
P波(P1)さらに2秒ほど遅れて、もうひとつのP波(P2)らしきものが認められます。おそ
らく、この地震は3回大きな断層破壊が起きた(3つの地震が続けて起きた)「マルチ
プルショック」の可能性があります。

気象庁の資料によると、今回の地震の直後の4.1秒後に出された緊急地震速報の
「第1報」で最初に予想されたMは5.8、そして最大震度は4程度でした。その後、地震
の断層破壊が進むにつれて緊急地震速報のMと予想震度が大きくなり、地震発生
から20.8秒後の「第6報」ではM6.9と震度5弱程度の予想に修正されたとのことです。


図1 震源近傍で記録された強い揺れ。KiK-net玉山、九戸、岩泉観測点(加速度波形、
南北成分)。

地震波形は0.1〜0.2秒程度の短周期地震動を多く含んでおり、強い揺れが10〜20秒
以上も長く続いていることがわかります。これは、深いプレート内地震であったために
短周期の地震波が強く放射され、またプレートを伝わって地表に到着する間にプレート
内で地震波が強い散乱を起こし、長時間続く揺れが発生したことが考えられます。

震源に近い岩手、宮城、青森でこの揺れを感じた人は、カタカタとした小刻みな揺れが
とても長く続いた印象をお持ちのことと思います。

いっぽう、木造家屋の被害に強く影響する周期1〜2秒程度のやや長周期の地震動
はほとんど含まれていないこともわかります。

速度応答スペクトルを求めると、たとえば「玉山」観測点の揺れは、周期0.2秒の固有
周期を持つ小型構造物(石灯籠や工場の配管など)を大きく揺する力を持っていたこと
がわかります。

いっぽう、兵庫県南部地震の神戸大の地震動には周期1〜1.5秒程度の成分が強く
含まれており、木造家屋の被害に大きな影響を与えた原因と考えられています。


図2 3観測点(図1)での地震動の速度応答スペクトルと、兵庫県南部地震での神戸大
での記録との比較。

2.揺れの広がり方

地震による揺れが、時間経過とともに日本列島を広がるようすを、防災科学技術研究所
のK-NETとKiK-net強震観測記録を用いて映像化しました。

以下の図は、地震発生から、30、60、90、120、150、180秒後の地面の揺れの強さ(速度)
を、日本列島に配置されている地震計(強震計)データ補間て求めたものです。図では揺れ
の強さを色の濃さ(黄色〜赤)と高さで強調して表現しています。

深い震源から放射された強い揺れは、地震発生から30秒後には仙台に到着し、60秒後
には福島を通過して、90秒後に関東へと到達しています。

地震波が平野に入ると堆積層で強い増幅が起き、周期が数秒以上になる長周期地震動
が強く生まれます。長周期地震動は、2008年岩手宮城内陸地震(M6.8)のように、浅い
(深さが十数km以下)大地震が起きると、特に強く発生します。

ただし、今回の地震は震源が深く(108km)かったために、同じMの地震と比較しても長周
期地震動の発生は小さかったと考えられます。

150秒後の図を見ると、北海道の勇払平野や根釧台地、関東平野で長周期地震動による
揺れが続いていますが、240秒を越えると急激に弱まり長くは続きません。


図3 揺れの伝わる様子(地震後、30, 60, 90, 120, 150, 180秒後。

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はコマ飛びを起こしたり、画像がブラックアウトするなど正しく再生できない場合があります)。

3.揺れの強さ分布と異常震域

この地震による日本列島の揺れの強さ分布を、最大加速度(図4左)と最大変位(右)
の2つの指標で比べました。

最大加速度分布を見ると、太平洋側の加速度値が大きく、北海道から東北、関東
に至る広い範囲に弱まらずに広がっています。いっぽう、日本海側では震源から
距離が離れると加速度が急激に弱まっていることがわかります。

これは、太平洋プレート内で起きた地震の短周期の揺れが、プレート内を伝わって
太平洋岸に弱まらずに伝えられたためです。震度分布も同様の広がりかたをしています。

このように、太平洋岸の広範囲にわたて震度が大きくなる現象は「異常震域」と
呼ばれ、プレート境界地震やプレート内地震で良く見られますが、特にプレート内
地震では震源から短周期の地震動が強く放射されますので、その影響が強く表
れます。

いっぽう、最大変位分布は震央を中心とした同心円状に弱まっており、異常震域は
見られません。これは、最大変位の大きさを決定する周期1秒以上の長周期の
地震動はプレートを良く伝わらないためです。

図4 最大加速度分布(左)と最大変位分布(右)。K-NETとKiK-net強震観測データ
を用いて作図。

図5 日本海側と太平洋側の地震波形の比較(地動速度南北成分)。
同じ震源距離でも日本海側の観測点(オレンジ)の揺れは、太平洋側
(緑)より数分の1以下と小さい。また、短周期成分を含んでいない。


文責 古村孝志(東京大学総合防災情報研究センター/地震研究所)
作図 武村俊介・小林雅裕(地震研究所)