1995年1月17日未明に明石海峡を震源として発生した兵庫県南部地震では、淡路島と神戸市街地の周辺に死者6000名を超える甚大な被害がもたらされた。
この地震の最大の特徴は、神戸市須磨区から西宮市にかけての幅1〜2km、長さ40km以上の狭い帯状の範囲に被害が集中したこと(震災の帯)である(図1)。「震災の帯」では木造家屋の全潰率が3割を超え、後に気象庁によって震度7が初めて認定されることになった。
当時は強震観測点が少なく、残念ながら震災の帯を形成した強震動の特性を知ることはできない。幸いに周辺には民間の団体(関西地震協議会)によって運用されていた強震観測点が存在し、それによって断層近傍での強震動を日本で初めて記録することができた。この強震波形を見ると、周期1〜2秒の2つのパルス波から構成される、継続時間がせいぜい10秒程度の短い地震動で上記の被害が起きたことがわかる(図1b)。

震災の帯と地下構造
地震断層の真上に強い強震域が生成され、被害が集中することは容易に予測がつく。しかし、震災の帯は活断層から離れた神戸市街地に現れたことが謎であった。地震直後には、神戸の地下に未知の伏在断層が存在し、大地震で断層運動が誘発されたと考えた研究者も多かった。しかし、震源解析や余震分布の調査が進むにつれ、神戸―阪神市街地の特異な地下構造が震災の帯に関与しているらしいことがわかってきた。神戸−阪神地域の地下では、六甲山から大阪湾にかけて基盤岩の深さが2000m以上の段差で急激に落ち込んでおり、その上には軟弱な堆積層が厚く被っている(図1a)。そして、地震断層は盆地境界のちょうど真下に位置しているためである。
兵庫県南部地震の強震動シミュレーション
震災の帯の成因を確認するために、神戸−阪神地域の3次元地下構造モデルと震源断層モデル(Yoshida et al., 1996)を組み込んだ3次元数値シミュレーションを実施した。計算領域(50km*25km*25km)を100mの格子間隔で離散化し、各格子点には人工地震探査や重力異常解析などから求められた地下の物性値(Vp,Vs,r,Q)を置いた。表層の最小S波速度にはVs=0.3km/sの値を置いた。
不均質媒質中の地震動の伝播は、運動方程式の数値計算から求められる。方程式の計算には差分法(FDM)が一般に用いられるが、ここではより精度の高い「Fourierスペクトル法」を用いて計算を行った(Furumura and Koketsu, 2000)。計算では最大周波数1.5Hzまでの地震動を評価することができる。
図2は数値シミュレーションから求められた地震波動伝播のスナップショット(地震発生から7.6, 10秒後の地動の様子)である。シミュレーションから、1)断層面上の二つの大きな滑り域(アスペリティ)から放射されたS波が断層の破壊先端に集中し強いパルス波(ディレクティビティ・パルス)を生成し、2)このパルス波が柔らかい堆積層で強く増幅されるとともに、3)盆地境で生成された表面波や回折波と増幅干渉効果を起すことにより、堆積層の狭い範囲に強震域が生成される、という一連の過程を時間を追って確認することができた。
計算から再現された強震域の分布は兵庫県南部地震で現れた「震災の帯」をよく説明する(図3a)。また、計算から再現された強震動には、周期1〜2秒の2波のパルスが再現された。

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兵庫県南部地震からの教訓
兵庫県南部地震の強震被害には、地下2,000〜3,000mの基盤形状が大きく関与したことが明らかである。このことを詳しく調査するために、異なる地下構造モデルを用いた数値シミュレーションも合わせて行った。
もし神戸市街地の地下が六甲山側と同様に基盤岩で被われていた場合には、地震動は数分の1に弱まり、大きな被害は生じなかったと考えられる(図3b)。これとは逆に、堆積層が神戸全域を厚く被っていた場合には、断層の真上の数km以上の広い範囲に強震被害が広がった可能性も推測される(図3c)。
兵庫県南部地震から得られた教訓として次の点が挙げられよう:
1)被害が集中した木造家屋に強い破壊力を与えた周期1〜2秒の強震動を評価するためには地下2,000〜3,000mの深部基盤構造の詳しい調査が必要である。
2)強震動被害との対応を調べるために、大地震の揺れを確実に記録することのできる、高密度の強震観測網の整備が必要である。
3)詳細な地下構造モデルを用いたコンピュータシミュレーションにより、将来起きる地震動の予測が可能である。

1.1995年兵庫県南部地震と震災の帯