粉体のジャミング転移を記述する普遍法則
地面を形作っている岩石や土砂などは一見堅固に見えるが、あるとき突然流体のように動き始めることがある。地震などに伴う地滑り、火山噴火に伴う山体崩壊などはその代表例であろう。このようなマクロ粒子多体系(粉体)の流動状態と停止状態の明確な違いは熱力学的な液・固転移を思い出させる。最近、東大地震研の波多野恭弘は、これらの現象をある種の相転移(臨界現象)として物理的に記述できることを見出した。この研究は、日本物理学会が発行する英文誌「Journal of Physical Society of
Japan」2008年12月号に掲載された。(J. Phys. Soc. Jpn. 77 (2008) 123002: http://jpsj.ipap.jp/link?JPSJ/77/123002/)
本研究の核心は、「ジャミング転移」として現在急速に研究が進んでいる概念にある。これは一言で表すなら、「マクロ粒子系がある閾値密度(φJ)より上で剛性を獲得する」転移である。ただしジャミング転移では結晶化は起こらずランダムな構造がそのまま凍結されるため、液・固転移よりもむしろガラス転移と密接に関連していることが推測される。それを裏付けるように、過冷却液体における分子の動的な協同運動(動的不均一性)と同様の現象が、ジャミング転移点近傍の粉体系においても観察されている(図1)。さらに重要なことに、それら協同運動の相関距離と特性時間は、ジャミング転移点で発散するように見える。このことはジャミング転移点が臨界点であることを示唆している。
図1. 粉体の遅い流れにおける、粒子の協同的な動き方を図示したもの。速い粒子を青く、遅い粒子を赤く表示している。速度揺らぎの空間分布が臨界揺らぎの様相を呈していることが分かる。この相関距離は流動速度ゼロ極限(ジャミング転移点)で発散する。

実際にこの臨界性を反映して、臨界現象的なスケーリング則が流動する粉体において成立することが本研究において見出された(図2)。ここでオーダーパラメターはせん断応力(S)であり、有意な変数は密度(Φ = φ-φJ)と流動速度勾配(せん断率γ)である。臨界密度(Φ= 0)を境にして流動速度勾配ゼロ(=静止状態)でも非ゼロの応力が残るさまは、強磁性転移において臨界温度を境にして外部磁場ゼロでも非ゼロ磁化が発生することによく似ている。さらにこのスケーリング則に現れる指数は、相関距離の発散を記述する臨界指数に関連付けられる。このことはジャミング転移点(Φ= 0, γ= 0)が臨界点であることをより強く証拠づけるものである。他方、それらの臨界指数が粉体粒子間の相互作用に依存することも本研究において発見された。このことはジャミング転移の臨界指数が(通常の臨界現象の意味では)普遍的でないことを意味し、ジャミング臨界点の何らかの意味での異常性を示すものである。
図2.(左)様々な密度における粉体のレオロジーカーブ(せん断応力Sとせん断率γの関係)。凡例の数字は粉体の体積密度φ (本粉体模型ではφJ = 0.646)。(右)臨界現象的なスケーリング則によってレオロジーがマスターカーブにのる。

もちろん、粉体レオロジーは本質的に非平衡の問題であり、強磁性転移などの平衡相転移との対応は現在のところあくまで表面的なものであるが、本研究で見出されたジャミング転移点に伴われるスケーリング則は大変興味深いものであり、多くの研究者の注目を集めている。ジャミング転移の臨界特性に関して、臨界指数の理論的導出や有限温度のガラス転移との関連など、今後さらなる研究の発展が期待される。