1999年7月18日共同通信配信


地震はなぜ止まる?根源的問題に答え

地震には根本的なところでまだよく分からないことがある。地震はなぜとまるかという問題もその一つ。
最近、その答えがついに見つかった。地震は自ら止まるメカニズムを内包していたのだ。

▽曲がって止まる

地震は地殻内部にできた亀裂(断層)が秒速二〜三キロメートルの高速で成長する破壊現象だ。 破壊が止まるのはバリア(障壁)のような場所があるためとか、破壊に必要なひずみが十分に たまっていない場所があるためと考えられてきた。

だが、理論的に検討すると大地震を止めるためには非現実的なほど壊れにくいバリアが必要になる。 また、後者の説では、ひずみがたまっている大地震発生前の震源付近で起きる地震のほとんどは 小さいという事実を説明できない。

地震のメカニズム自体に止める仕組みがあるのではないか。そう考えた亀伸樹・九州大学助手と 山下輝夫・東京大学地震研究所教授は断層の成長を記述する計算式を開発しコンピューターで調べた。

すると何と断層は曲がって止まることが分かった。   

▽現実に近い断層モデル

地震学者は普通、平面状の断層モデルを仮定する。地表に露出した部分は直線的だ。 これだと、破壊を起こそうとする力はいつも直線の延長方向で最大になり、破壊はまっすぐ進むだけだ。

一方、亀助手らが作ったのは、周りの状況に応じて断層が曲がる場合も記述できる、より現実に近いモデルだ。

解析結果はこうだ。破壊先端(成長する断層の端)は、その先に集中したひずみを解放するで自ら加速する。 同時に先端からは地震波が次々と放射される。

破壊先端の進む速さが遅いとき、断層は直線的に成長する。だが、先端の速さがS波(横波)の八〜九割に達すると、 先端付近にあるS波の影響を受け、破壊を起こそうとする力が最大になる向きは直線からずれ始め、破壊(断層)の方向が曲がり始める。

そのずれの角度が四五度を超えると、そもそも最初の破壊の引き金となった、 断層周辺にかかる力が今度は破壊にブレーキをかけ始め、たちまち地震は止まってしまう。

つまり、ずれによる破壊はもともとすぐに止まってしまう性質を持っていたわけで、 これならばほとんどの地震は小さいという事実に合う。

▽大地震の条件

大地震になる条件もいくつか分かった。破壊が途中からより壊れにくい場所に入ると、 破壊先端がなかなか速くならず断層が伸びた。また、固い岩石に挟まれた「断層帯」のような 場所では破壊が曲がりにくく断層が成長した。

実際、曲がった断層はいくつも見つかっている。一九四三年に起きた鳥取地震で 、地表の動きを基に推定された地下の断層は両端で緩やかなカーブを描いている。

米カリフォルニア州では断層の端が隣りの断層のわきで曲がって止まった例もあ り、地震が飛び火したとも考えられている。山下教授は「そんなふうに断層が合体 したらどうなるかといった現実的な問題を調べたい」と語る。【辻村達哉、共同通信科学部】