東京大学地震研究所 東京大学

常時地球自由振動


地球自由振動とは

周期200秒より長周期側では,地震が起ると地震波が地球を何周もつたわります。この周期帯では,地球自由振動 の固有周波数に対応する多くのピークを同定することができます。固有周波数はそれぞれに地球の内部構造を反映しているため,さかんに検出が試みられてきました。観測記録から初めて地球自由振動の存在を検出したのは,1960年にチリ地震時の歪み計記録からでした[Benioff et al. (1961)].それ以降地球自由振動の観測例は蓄積され,測定された固有周波数から地球内部構造を推定する研究がさかんに行われるようになりました。

チリ地震での検出以前には,大気擾乱など非地震性の現象が地球自由振動を励起する可能性も検討されていました.Benioff et al. (1959)は,地震活動が静穏な期間の観測記録を周波数解析し,地球自由振動の検出を試みました.しかし当時の観測精度では,励起振幅に対して観測ノイズが大きすぎたために検出は失敗に終りました[Kanamori (1998)].チリ地震での検出以降は,巨大な地震のみが観測可能な地球自由振動を励起できると考えられるようになり,地震活動が静穏な期間のデータは顧みられなくなってしまいました.このBenioffらの試みは約40年後に再び日の目を見ることになります。.

常時地球自由振動の発見

太陽では,表層付近の乱流が周期5分程の音波を励起し続けている事が知られています。地表から,太陽表面の速度場は精度良く観測されており,観測された音波の固有周期から太陽内部の音速構造や,角運動量分布が詳細に調べられています[日震学と呼ばれる.].小林(1996)は太陽の5分振動の励起メカニズムと同様なメカニズムが,地球・火星・金星に対しても有効ではないか考えました。大気擾乱の大きさを理論的に見積り,大気擾乱が観測可能なレベルの振動を引き起こしていると結論付けました。

それを受け1998年に名和らは,南極・昭和基地の超伝導重力計のデータを調べ,地震活動が静穏な期間においても,周期数百秒の帯域で固体地球が振動し続けている現象を発見しました[Nawa et. al (1998)].常時地球自由振動の発見です。この南極の超伝導記録には潮位変動に伴う固有のノイズ[Nawa et al., 2003]が混在していために、検出はまだ確定的とはいえませんでした。しかし,南極のデータによる検出に続き, IDAの観測点に設置されたLacoste重力計[Suda et al. (1998)]や,IRIS,GEOSCOPEの観測点に設置されたSTS1-Z地震計[Kobayashi and Nishida (1998)]など,世界中の観測点で相次いで検出され,その存在は確定的となリました。現在では50以上の観測点で検出されています。

その後の研究から、海洋波浪も励起に深く関わっている事が分かってきました(図1参照)。現在でも励起に関しては分かっていない事も多く、大気-海洋-固体地球の大きな枠組みでの研究が進行中です。

図1: 地動記録のランニングスペクトルの全球的な平均。縦軸が1989年から1997年の年を表しており、横軸が周波数(周期に直すと約300秒)を表している。  縦の筋1つずつが、それぞれ1つのモードに対応する。振幅が季節変動している様子も見て取れる[Nishida et al. 2000]。