チリ地震で観測された表面波の指向性

周期100秒より長い帯域では、大きな地震が起きると、表面波が地球を周回している様子がみてとれます。地震の破壊の特徴的な長さは、観測される表面波より十分に短いので、1カ所で瞬間的に破壊が起こったとみなせます。そのため、パルス状の波が同心円上に広がっていきます。水面に水滴を落とし、同心円上に波が広がっていく様子を思い浮かべてください。

しかし、今回起こったチリ地震のように、断層サイズが500km 破壊の継続時間が100秒を超えると、周期100秒の表面波でも瞬間的に破壊が起こったとは見なせません。このような場合どのような現象が起こるでしょう?

今回のチリ地震では破壊が南から北に進んだと考えられています(図1)。水面をから上に向かって指で押したときに広がる波紋を想像してください(図1右)。上向きには周波数が高く振幅の大きな波が出て、下向きには周波数が低く振幅が小さな波が放出されます。

Fig. 1

図1

実際にチリ地震のデータを見てみましょう(図2)。上2つの波形は、震源からみて北にある観測点で観測された波形で、下の2つの南出観測された波形です。

上2つの波形は先に北向きに進む表面波が到達し、その後に南向きに放出された表面波が裏を回って到達します。北向きに進む波のの方が南向きに進む波よりも振幅が大きい事が分かります。一方、下の2つの波形は、先に南向きに放出された表面波が到達し、その後に北向きに進んだ表面波が到達します。この場合、北向きに進んだ表面波の方が振幅が大きい事が分かります。

このように、地震波の射出される方向によって振幅が変わる現象の事をdirectivity(指向性)と言います。通常の地震ではより高周波数の帯域で顕著な現象です。今回のようにM8.8という巨大な地震ともなると、周期100秒の帯域でも、directivityの効果が現れるのです。

Fig. 2

図2 観測点名, SSB: Saint-Sauveur Badol, France, Geoscope, FFC: Flin Flon, Manitoba, Canada, IRIS IDA, COCO: Cocos (Keeling) Islands, Australia, IRIS IDA, PSI: Prapat, Indonesia, Pacific21

GEOSCOPE, IRIS IDA, Pacific21のデータを使わせていただきました。記して感 謝します。