東京大学地震研究所 阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)10周年事業

特別公開講座「これまでの10年 これからの10年」

−阪神・淡路大震災後 地震研究所は何を明らかにしてきたか−

 

強震動−地震災害の軽減のための基礎的な情報

地震火山災害部門 纐纈(こうけつ) 一起(かずき)

 

 

1. はじめに(1)

地震という言葉を文字通り解釈すれば地面の震え(ふるえ)(揺れ)ですが,研究者の間では揺れの原因となった地中の急激な変動の方を地震と呼び,揺れは区別して地震動と呼びます.この地震動のうち,被害を及ぼすような強い揺れが強震動です.強震動は被害に直結しますから,地震災害を軽減するためには基礎的な情報として強震動を深く研究・理解し,それを予測につなげることが欠かせません.阪神・淡路大震災を引き起こした兵庫県南部地震は,強震動を研究する者にとっても衝撃であり,その考え方に大きな影響を与えました.この意味で,震災と地震を合わせて象徴的に最大被災地の名前で呼び,「神戸」以前あるいは「神戸」以降という言い方がよくされます.

1. 兵庫県南部地震と釧路沖地震の強震記録.神戸大学(上,関西地震観測研究協議会),神戸海洋気象台(中,気象庁)および釧路気象台(下,気象庁)で観測された.

 

「神戸」以前は,強震動は非常に複雑で,物理法則に基づいて理論的に再現することがむずかしいという固定観念が,日本人研究者の間では支配的でした.図1下段に示した釧路沖地震(1993年)の釧路気象台における強震記録に見られるように,それまで国内で観測された強震記録は全体に短周期成分を多く含み,継続時間が長くて複雑な波形をしているものがほとんどでした.ところが,上中段の兵庫県南部地震の記録では様相が一変し,周期12秒前後の長周期成分が主体となって継続時間も短く,単純と言っていい波形をしています.神戸大の記録などは周期2秒程度のパルス波ふたつで構成されていると言っても過言ではありません.こうした単純な波形ならば地震学の理論に基づいて再現可能であろうことが予想され,実際にその後の強震動地震学はこの流れに沿って展開していきました.

2. カリフォルニアの地震の強震記録を,震源断層近くの記録を断層に直交する成分(左)と平行な成分(右)に分けて示す.1999年トルコの地震の記録も併せて示した.

 

「神戸」の強震記録が特別な印象を与えた理由は,戦後の日本列島の地震活動度が低く,兵庫県南部地震以前のいわゆる都市直下地震が福井地震(1948年)まで遡ってしまう点にあります.国内で強震計が開発・配備されたのが1950年代以降ですから,福井地震の強震記録は存在しません.その後の大きな地震は大部分が海域で発生しており,小数の内陸地震も強震計が多数設置されている都市域から離れて起こっているので,震源近くの強震動が記録されることは皆無でした.つまり「神戸」において,日本で初めて震源近傍の強震記録が観測されたことになります.

長周期の単純なパルス波形は後段で示すように,震源近傍の強震記録に特有な特徴ですが,複雑な地下構造を伝播するうちに散乱などにより乱されるので,遠方ではこの特徴は不明瞭となり,釧路のような記録になってしまいます.実は,プレート境界がサンアンドレアス断層として陸地に乗り上げていて内陸地震が頻発しているカリフォルニアでは,図2のような長周期パルス波がすでに観測されていました.しかし,地下構造が単純な大陸であるからこうした波形が得られるのだろうなどと考えられて,それが日本でも共通な性質であるとは,釧路のような記録ばかり見せられてきた日本人研究者には想像力が及ばなかったのです.なお,19998月に起こったトルコの大地震(コジャエリ地震)でも同様の強震動が得られています(図2最下段).

 

2. 指向性(ディレクティビティ)(2)

「神戸」以前に震源近傍のパルス波が受け入れられなかったもうひとつの理由に,なぜパルス波が長周期になるかについて明確な説明がなされなかった点が挙げられます.この説明は,強震動が地震学の理論に基づいて再現可能という点で典型的な例であるので詳しく解説しましょう.研究者が地震と呼ぶ地中の急激な変動が断層運動であることは,主に日本人地震学者の努力により1960年代前半に確立されていますが,「神戸」以前は長周期パルス波が,この断層運動の時間関数の反映であるという議論が主に行われていました.しかし,そうなると長周期パルスは断層がゆっくりすべる地震だけの特殊な現象ということになり,一般論として理解されることはむずかしくなります.

断層運動と等価な力源は,向き合う岩盤のずれ方向に一致する偶力と,そのモーメントを打ち消す逆向きの偶力で構成されています.もし震源断層が点ならば,これら偶力の力の向きに一致して四象限型の地震動が発生します(図3左上).一方,断層が大きさを持っていて,その運動が左から右へ伝播するとき(図3右上),強震動の主要部であるS波の速度と,断層運動の伝播速度の差は小さいので,伝播の進行方向では断層各部で発生した地震波が重なりあい,全体として振幅の大きな長周期のパルス波が形作られます(図3左下).方向に依存して地震動の強さに違いが出ることから,この現象は指向性(ディレクティビティ)と呼ばれました.

3. 点震源(左上)と断層震源(右上)の強震動パターンおよび長周期パルス波の形成(左下).

 

「神戸」以降,強震動における断層運動の影響という面では,もっぱら指向性が議論されるようになりました.図3左下の絵解きから明らかなように,地震の規模が大きく断層が広いほどパルス波は長周期になり,この傾向は図2に指摘できます.また,兵庫県南部地震のような横ずれ断層では,4象限のうち断層に直交する方向の地震動の象限で指向性が起こりますから,断層の近くではこの方向に地震動が大きくなるはずです.実際に神戸の強震動は断層直交方向に偏った軌跡を示していました(図4)

4. 兵庫県南部地震の震源断層に相当する活断層系(点線)と水平方向強震動の軌跡,および気象庁震度VIIの領域.

3. 震災の帯(1)

強震動のおおもとは地震の震源断層で放射されますが,それが地下を伝わって私たちの住む場所に届きます(図5).したがって,強震動は震源の影響と地下構造の影響の組み合わせと考えられます.「神戸」における震源の影響の一例が前節の指向性ですが,地下構造の影響の典型的な例が「震災の帯」です.

 

5. 強震動を構成する要素.

 

多くの地震学や測地学データは,兵庫県南部地震の神戸側震源断層が,図4に点線で示した活断層系であることを示唆しています.ところが,大きな被害の地域は活断層系から海側にやや離れ,神戸から阪神間にかけての市街地に幅約2km,長さ25km以上で細長く分布しています(図4の気象庁震度VII領域).この「震災の帯」(3)の分布を生み出すメカニズムを解明することも強震動地震学の課題となり,これをきっかけにいわゆる強震動シミュレーション(差分法など数値的な手法で運動方程式を解き理論的に強震動を再現する方法)がさかんに行われるようになりました.その成果によれば,これまでメカニズムとして

1. 指向性効果による横ずれ断層直上の強震動域と市街地堆積層によるその増幅.

2. 堆積盆地(市街地)と六甲山の境界面における複数地震波の増幅的干渉.

3. 沿岸地域や人工島における人工地盤の非線型応答に伴う地震動の減衰.

が挙げられています.このほか,「震災の帯」地域には古い木造建物が集中的に分布しているといった,地域ごとの建物の建築年代や建築条件の違いなど,社会的要因が被害の程度の違いに反映していることも無視できませんが,広域の強震動分布を決めているのが自然要因であるのはまちがいありません.

強震動シミュレーションの一例(4)を見ると,地下構造が単純な時,岩盤が露頭していても(図6a),その上が堆積層で覆われていても(同b),兵庫県南部地震のような横ずれ断層の直上に指向性効果による帯状の強震動域が現れます.ただし地震波速度の違いで,aでは断層半ばから破壊伝播方向の延長上に帯が延びるのに対して,bでは断層直上が主体となります.また堆積層内の増幅によりbの方が強い帯になります.なお,図6a, bでともに断層直上に強震動域が現れたという意味で,帯直下に震源断層ありとする伏在断層説が当初流布したのには無理からぬ面がありましたが,地震後,精力的に行われた反射法探査では結局,帯直下には伏在断層は発見されませんでした.ところが,神戸市街地は大阪湾や大阪平野を含む大規模な堆積盆地の北西端に位置しており,基盤の露頭した六甲山に堆積盆地が接しているような地下構造になっています.この盆地境界の六甲山側に沿って震源断層がある時,その強震動分布はabを境界で張り合わせたようなものになります(図6c).cの帯はbの半分の幅で,断層直上から堆積層側に誘導されたような形で現れます.ただし,境界近くは堆積層がbより薄いので強度はbより弱くなります.

6. (a) 岩盤露頭,(b) 沖積平野,(c) 神戸モデルに対する強震動シミュレーション.

断層直交方向の最大速度分布がカラースケールで示され,地震波の波面も図式的に描かれている.黒い四角が横ずれ断層の断層面.

 

一方,このメカニズム1に対してメカニズム2では,主に堆積盆地底面から入射する直達波と,盆地エッジで生成され表面波となる地震波との増幅的干渉に注目します.干渉は地表近くで起こり,直達波がそこに達するまでに時間差が生じます.図6cの帯が盆地境界から離れているのは,この時間差が原因となっています.またメカニズム2は,図6cの盆地底面にある変曲点で発生する地震波に伴っても作用しており,断層右前方(現実には海の中)に別の小さな帯を作っています.メカニズム3は沿岸地域・人工島での強震動を押えることにより,帯をより細い形にする点に寄与しました.軟弱な人工地盤が幸いしたというのは逆説的ですが,液状化などの地盤災害ももたらしていることに注意を要します.現実の「神戸」では,これらメカニズム13が複合的に働いて震災の帯が形成されたと考えられます.

従来,地下構造のうち強震動にもっとも大きな影響を及ぼすのは地表から100m程度の表層地盤と考えられ,「神戸」でも震源断層に近いにもかかわらず被害の少なかった山の手地域は良好な表層地盤が分布し,その影響は少なからずあります.しかし,上述のように強震動分布の大局は深さ1000mを越える深部構造が支配していて,この点も指向性に並ぶ新たな発見でありました.

 

4. 強震動の予測(5)

兵庫県南部地震は,強震動に及ぼす震源の影響だけでなく(2節),地下構造の影響も(3節)地震学の理論に基づいて評価することが可能である,ということをわれわれに示してくれました.この可能性を将来のシナリオ地震(地震危険度の高い,活断層に起因する地震やプレート間の海溝型地震(6))に敷衍して強震動を予測するという事業が,政府の地震調査研究推進本部により進められつつあります.その枠組み(図7)において,震源の影響の取り扱いは「強震動の破壊力は単に地震の規模や震源距離だけで決まるものではない.断層破壊がどこで始まり,どこで止まるかという断層運動の巨視的パラメータと同時に震源断層内での不均質なすべり分布,すなわちアスペリティの分布のような微視的なパラメータがより重要な役割を果たしている(6)」という地震学の成果に基づいています.

地震発生にかかわる断層の面積(破壊領域)が地震モーメントの2/3乗に比例することはもともとよく知られていましたが,こうした巨視的パラメータだけでなく,アスペリティの総面積といった微視的なパラメータも地震モーメントのべき乗に比例することがあきらかになりつつあります(図8).そうなると震源断層の巨視的かつ微視的モデルは,この比例関係を利用したスケーリングと呼ばれる操作で実現可能となります.また,地震学の中でも震源物理学という分野では,断層運動の過程を岩石破壊の物理的条件(摩擦構成則,破壊強度など)に則りながら数値シミュレーションで再現することができるようになっています.その成果を取り入れれば断層すべりの時間関数を,物理的条件に基づいて決めることも可能になりました.

 

7. シナリオ地震に対する強震動予測の枠組み(6)

 

8. アスペリティ総面積のスケーリング(5)

一方,強震動への地下構造の影響は,周期23秒程度より長周期側では弾性波理論に基づく数値計算で,短周期側では統計的グリーン関数法などの確率論的手法でシミュレート可能であることもわかってきました.したがって両者をハイブリッド合成した計算手法と,前述の震源モデルを組み合わせることにより,シナリオ地震の強震動を予測することができます.地震調査研究推進本部によるこうした強震動予測の一例を図9に示しました.

9. 糸魚川静岡構造線のシナリオ地震に対する強震動予測

 

参考文献

(1)     纐纈一起: 兵庫県南部地震と強震動地震学, 科学, 70(1), 66-71 (2000)

(2)     纐纈一起: カリフォルニアの被害地震と兵庫県南部地震, 科学, 70(2), 93-97 (1996)

(3)     嶋本利彦: “震災の帯の不思議, 科学, 65, 195-198 (1995)

(4)     Furumura, T. & K. Koketsu: Specific distribution of ground motion during the 1995 Kobe earthquake and its generation mechanism, Geophys. Res. Lett., 25, 785-788 (1998)

(5)     入倉孝次郎・三宅弘恵: 強震動予測における震源の取り扱い, 「強震動予測−その基礎と応用」第3回講習会資料, 日本地震学会強震動委員会, 1-12 (2003)

(6)     入倉孝次郎: 阪神・淡路大震災をおこしたものは何であったのか, 科学, 70(1), 42-50 (2000)