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マントル深部への水輸送の地震学的証拠
平成19年6月8日
発表者:川勝 均(東京大学地震研究所 教授)
東北日本下の沈み込み帯において,マントル深部への水輸送の直接的証拠と解釈できる構造を地震学的に明らかにした.これにより海洋から地球深部への水輸送の経路が明らかになり,地球システムにおける水循環の定量化へ向けた研究が進展すると期待される.(2007年6月8日発行のScience誌に掲載).
固体地球内部の水の存在は,物質の流動性,融解温度,元素分配などに極めて重大な影響を及ぼし,その移動・分布を理解することは,固体地球のダイナミクス・進化のみならず地震発生・火山生成にまで関わる,現代の固体地球科学がめざす最重要課題である.日本列島下のような沈み込み帯は,海洋から地球内部への水輸送の“入り口”と考えられているが,プレートの沈み込みと共にどのように水が地球内部に取り込まれるかは明らかになっていなかった.今回,日本列島に展開された稠密な地震観測網Hi-net(*1)の5年分の波形データを解析することで,沈み込む海洋プレート最上部の海洋地殻に含まれた水がマントル内で分離し(50−90kmの深さ),さらにその水がマントル物質に取り込まれ(かんらん岩(*2)が含水鉱物を含む蛇紋岩などの岩石に変成作用し),沈み込む海洋プレートの上面に沿ってマントル深部へ運ばれている様子が明らかになった.(*3)
水が取り込まれると一般に岩石は柔らかくなり,地震波速度は遅くなる.したがって水の輸送経路は地震学的に低速度の領域として現れる.この水の経路に対応する低速度領域はプレートに沿って層状になっていると予想されるので,透過波を使う通常の地震波トモグラフィー(*4)では検出が難しい.今回は,レシーバー関数解析(*5)という地震波速度が急激に変化する場所からの散乱波を使う解析手法を適用したため,今まで得られなかった層状の速度構造をイメージすることができたと考えている.
今回の結果は,大量の水がこの経路にそってマントルに取り込まれている可能性を示唆している.今回の研究からは150kmくらいの深さまでのことしか議論できないが,さらに深い領域まで低速度層(すなわち水の経路)は続いている可能性がある.今後観測網の拡充(海域を含む)などをはかり,さらに深部の構造まで明らかにし,より深部への水輸送過程を明らかにしていきたいと考えている.
図1.(A)東北日本下の地震波速度変化率プロファイルと,(B)その解釈.赤色は上から下に速度が急に増えることに対応(青はその逆).
図2.水の移動による各深さでのスラブ(*6)上面付近の地震波速度構造の模式図.赤・青の線の意味は図1と同じ.水色の矢印は,脱水過程を模式的に示している.脱水によりスラブの上面の速度が徐々に遅くなる.
図3.今回の結果と地震波トモグラフィーの結果,地震震源分布を重ね合わせ,水の輸送(水色)を模式的に示したもの.赤色矢印は,トモグラフィーから推定されるマグマの上昇経路.コンターはトモグラフィーで明らかにされている低速度領域を示す.
(*1)Hi-net: 防災科学技術研究所が運用する高密度・高精度の地震観測網.
(*2)かんらん岩: マントルを構成するもっとも主要な岩石.
(*3)これ以外にはプレートそのものが水を輸送するという考え方がある.
(*4)地震波トモグラフィー: 地震波を使った地球内部イメージングの手法.原理的には,医療におけるCTスキャンと同じ.解像度は,異なった方向から来る波線の密度に強く依存するが,地震波トモグラフィーの場合は波線を自由に選べないため限界がある.
(*5)レシーバー関数解析: 散乱波を使う地球内部イメージングの手法.地震波速度の急激な変化に敏感.地震観測点近傍の地下構造を推定するのに有効.
(*6)スラブ: マントル内にある沈み込んだ海洋プレート.
H. Kawakatsu and
H. Iwamori, Transportation of H2O beneath the
A. Hasegawa, J. Nakajima, Geophysical constraints on slab subduction and arc magmatism, in Geophys. Monogr. 150, (American Geophysical