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海山に起因する弱いプレート間カップリングと繰り返し発生するM7級地震との関係

平成20年8月29日 

発表者: 望月 公廣 (東京大学地震研究所 助教)

1.概要

沈み込み帯で海山が沈み込むと、プレート間の摩擦力が増すことによって固着強度(カップリング)が強くなり、海山の大きさに相当した大地震の震源域になりうると考えられてきた。茨城県沖では、約20年間隔で繰り返し発生するマグニチュード(M)7級地震について、海底地形等から推測して沈み込んだ海山が震源域を形成している可能性が論じられてきた。我々はこの震源域で地殻構造調査を行い、深さ〜10 kmに富士山級の沈み込む海山を同定した。さらに本海域での地震活動、および1982年7月に発生したM7.0の地震の破壊過程について解析を行った。その結果、大地震の震源域は海山基底部における応力の集中とともに海山の沈み込む前方に形成され、海山自体が震源域にはならないことが明らかになった。このことはプレート境界のうち海山部分では、これまでの予測に反して固着強度が弱いという可能性を示している。一方、その震源域に接した北側には地震活動の非活発帯が存在する。ここは複数の海山が過去に沈み込んだ痕跡であり、そこに堆積物がたまってプレート間の固着を弱くしているために地震活動が非活発であり、さらにはその南側で発生した大地震のすべりが伝播しなかった可能性があることを示した。以上のように、本研究では海山の沈み込み及びその痕跡によって、大地震の震源域やその範囲がどのように決定されているかについて、詳細を明らかにすることができた。(2008年8月29日発行のScience誌に掲載)

2.発表内容

東北日本列島下には、東側から太平洋プレートが約8.5 cm/年の速さで日本海溝沿いに沈み込んでおり(図1A)、これに伴うプレート境界型地震(※1)の活動も活発である。三陸沖で発生した大地震に関する最近の研究結果によると、30〜40年の間隔で決まった震源域が繰り返し大地震を発生してきたということがわかった。このように繰り返し震源域となるプレート境界面上の領域はアスペリティと呼ばれ、通常はプレート境界が強く固着しており、ある時に急激に固着が破壊することによって地震波を出すと考えられている場所である。アスペリティの形成要因の一つとして考えられているのが、沈み込んだ海底地形の凹凸である。海底地形の盛り上がりが沈み込んだ場合、その周囲と比較してプレート境界面に大きな摩擦力が働くと考えられ、固着が強くなりアスペリティを形成すると推測される。海底地形の凹凸の最も代表的なものに、海山(※2)があげられる。これまでに海山の沈み込みについて行われてきた研究では、大地震と海山の世界的な分布の比較、あるいは物理的シミュレーションによって、海底からの比高〜3000 mの海山が沈み込むことによって、M7級の大地震が発生する可能性が予測されていた。

図 1 茨城県沖の地震活動と構造調査測線

(A)日本海溝沿いの海底地形。太平洋プレートは〜8.5 cm/年で西南西方向に日本列島下に沈み込んでいる。北緯38度より南には、海山が多く分布する。点線で囲まれた領域を(B)に示す。(B)茨城県沖の地震活動と構造調査測線。白十字線は2004年、オレンジ線は2005年、マジェンタは海洋開発機構による構造調査測線を(太線は屈折法調査、細線は反射法調査)、六角形は海底地震計の設置位置を表す。丸は1996〜2005年の気象庁一元化震源によるM3以上の地震の震央を示す。黄色の星印は、1982年に発生したM7.0の地震の震央を、緑で囲まれた領域はその地震の余震域(≒震源域)を表す。その北側の青で囲まれた領域は、地震活動が非活発な領域を示す。黒矢印は海山が沈み込んだために形成されたと考えられる、沈み込み方向に並んだ海底地形の溝を示す。黒点線は日本海溝軸を表し、海溝軸に接して約20万年前に沈み込みを始めた第一鹿島海山がある。



日本海溝より海側の太平洋プレートの海底地形を見ると、北緯38°より南側の福島県から千葉県にかけての沖合では多数の海山が分布している(図1A)。北緯35.8°には約20万年前に沈み込みを開始した第一鹿島海山が海溝軸に接しているとともに、海溝軸より陸側の海底地形には海山の分布に対応するように、すでにいくつかの海山が沈み込んだ形跡も見ることができる(図1B:黒矢印)。第一鹿島海山の沈み込みの延長上に当たる茨城県沖では、約20年の決まった間隔でM7級の大地震が繰り返し発生してきた。最近では2008年5月8日深夜にM7.0の地震が発生し、震央が約100 km沖合にもかかわらず6人の負傷者が出た。この繰り返し地震のアスペリティは、海底地形の特徴等から考えて、沈み込んでいる海山によるものであると予想されていた。海山のような構造物が沈み込んでいる場合、構造の不均質性が大きいために構造調査の結果の詳細な解釈は困難となる。茨城県沖の震源域周辺でもこれまでに構造調査は行われていたが、予想されていた海山の同定には至らなかった。

東京大学地震研究所の海域地震観測グループは、茨城県沖の約20年周期で繰り返し発生する大地震と地殻構造との関係を詳しく調べるために、2004年にエアガン人工震源(※3)と海底地震計(※4)を用いた海域構造調査(※5)を行った。また2005年には、震源域における通常の地震活動を把握したうえで地殻構造との関係を解明するために、海底地震計による海域地震観測を行った。さらに名古屋大学との協同で、1982年7月23日に同海域で発生したM7.0の地震について、その破壊過程とすべり量分布の解析(※6)を行った。

2004年構造調査で得られた地殻構造と、過去に海洋研究開発機構によって行われた構造調査の結果とを合わせて解釈することによって、震源域周辺におけるプレート境界の形状を求めた。その結果、比高〜3000 m、基底部直径〜50 kmを持つ、ほぼ富士山の規模に相当する海山が海面より深さ〜10 kmに沈み込んでいることを明らかにした(図2)。この海山の位置はこれまでの大地震の震源域とは一致せず、震源域の南側に外れていた。通常の地震活動と比較すると、地震の発生は海山の基底部周辺に集中しており、海山上のプレート境界では全く地震が発生していないことが明らかとなった(図2、3A)。さらに1982年に発生したM7.0の地震に関する震源解析の結果、破壊は海山の基底部で開始した後プレート境界面上の深い方へと進行して、海山上ではほとんどすべりが見られなかったこと、またその破壊の平均的な滑り量は〜50 cm (最大すべり量〜75 cm)にとどまり、速さ〜8.5 cm/年で20年間に沈み込む量(= 170 cm)の30%にしか相当せず、固着強度としては弱いと考えられることを明らかにした。これらの結果から、(1)海山が沈み込むことによってその基底部に応力が集中し、その前方に比較的弱いプレート間の固着を持つアスペリティを形成していること、さらに(2) 海山上のプレート境界はこれまで予測されていた性質とは異なり、固着強度が弱い(すなわち海山自身はアスペリティにはならない)と考えられることを示した。

図 2 茨城県沖における地震活動 (M>4)
 ほぼ20年おきにM7級の地震が発生し、それに伴う余震が起こっている。これらの地震の震源域は、ほぼ決まった場所にある(経度方向の決定誤差は大きい)。



一方、震源域北側には地震活動がほとんど見られない領域が、プレートの沈み込み方向に平行して帯状に存在する(図1B:青で示された領域)。この地震活動の非活発帯においては、これまでの構造調査によってプレート境界面上に海溝軸から堆積物が沈み込んでいることが確認されており、このことがプレート境界における固着を弱くしている(したがって地震が発生しない)要因(※7)であると議論されていた。我々の海域地震観測でも、この非活発帯で地震活動がほぼ全く見られないことを確認した(図3A)。さらに今回の構造調査によって、この非活発帯に対応して、陸側プレート地殻内における上部地殻と下部地殻との境界面が南側に傾斜していることがわかった(図2中R2)。非活発帯よりもさらに北側では、この境界面はほぼ水平をなしていることなどから、この非活発帯は海山の沈み込みによってプレート境界に接する下部地殻が削り取られ、そこに堆積物がたまっているために地震活動が非活発になっている可能性がある。海山の沈み込んだ跡に堆積層が存在することによって、プレート境界での固着強度は弱まり、その南側で発生した巨大地震の破壊が北側に伝播できなかった、すなわち過去に海山の通った痕跡がアスペリティの境界になっている可能性を示した。

図 3 2004年構造調査による地殻内速度構造と震源分布

(A)東西測線下の地殻内地震波(P波)速度構造。灰色の放物線は、海底地震計で観測された特徴的な反射波を構造に投影したもので、その包絡線(R1)はプレート境界を表す。地震は沈み込む海山上のプレート境界では発生しておらず、海山前方の基底部に集中していることがわかる。(B)南北測線下の地殻内地震波(P波)速度構造。測線北側に、南に傾く上部地殻と下部地殻の境界面(R2)があり、その下に沈み込む堆積層が存在する。



プレート境界におけるアスペリティの形成およびアスペリティ領域の規定要因として、形状の凹凸や物性の不均質(例えば堆積物のような柔らかい物質があるのか、あるいは固い岩石があるのか)があげられているが、その実体についての具体的な検証例は少ない。本研究では、海山および海山の沈み込みの痕跡がアスペリティの形成場所やアスペリティの範囲を規定する一つの要因であるということを具体的に示した。個々のアスペリティの境界を規定する要因を解明することはアスペリティの連動性を考える上でも重要であり、本研究はその点についても示唆を与えることができた。巨大地震発生場となるアスペリティの実体を解明するためには、本研究のような詳細な3次元的構造調査と震源解析とを合わせた研究が重要である。本研究は今後の巨大地震発生予測に関する研究を進めていくにあたって、その指針となる重要な具体的一例をあげることができたと言える。

図 4 プレート境界の形状と地震活動

(A)プレート境界の形状と震源分布。色のついた点線はプレート境界面の等深線を、丸は2005年の地震観測で観測された地震の震源を表し、深さを同じ色パレットで示している。赤い曲線は1982年M7.0地震の滑り量分布を、緑線はその余震域を表わし、青線は地震非活発領域を示す。右下に1982年の地震の震源メカニズムを表す。黒点線は、2005年地震観測の領域を表す。太黒円は沈み込んでいる海山の位置を表す。(B)沈み込むプレート形状の3次元的鳥瞰図。1982年M7.0地震の震源は海山の基底部にあり、地震時の滑りは海山の前方で起こっている。



3.謝辞

本研究は「地震予知のための新たな観測研究計画(第2次)」の一環として実施されたものである。



4.発表雑誌

K. Mochizuki, T. Yamada, M, Shinohara, Y. Yamanaka, and T. Kanazawa, Weak Interplate Coupling by Seamounts and Repeating M~7 Earthquakes, Science, 321 (#5893), 2008.



5.用語解説

1 プレート境界型地震: 沈み込み帯におけるプレートの収束運動に伴って、プレートの境界に歪みが蓄積することで発生する地震

2 海山: 海底における高まりで、頂上が海面まで達していない地形。その多くのものが、海底での火山活動に起源をもつ。

3 エアガン人工震源: 20リットル程度の空気室に、100気圧程度の高圧空気を貯え、それを海中に一気に解放することによって音波を発生させる装置。海中で発生した音波は海底面で地震波となり、地殻を伝播した後に地震波受震器(例えば海底地震計)で記録される。

4 海底地震計: 海底に沈めることのできる地震計。地震センサー、電池、精密時計、記録装置を耐圧容器(ガラス/チタン)に封入し、水深約6000 mまで設置可能。自己浮上型海底地震計では、観測後に船上からの音響通信による命令で錘を切り離し、自己の浮力によって海面に浮上する。

5 海域構造調査: 海域における、構造調査。人工制御震源によって発生された地震波が、受震器に到達するまでの時間を計測することによって、地殻内の地震波速度構造を調べる。

6 破壊過程と滑り量分布の解析: 地震発生時に、陸上で観測された地震波形を解析することによって、断層面上の破壊がどのように進行していったのか、また破壊にあたって断層面に生じたずれの大きさの分布を求める。

7 プレート境界における固着が弱い要因: 堆積物は周りの岩石と比較して、水を多く含み固化していないため、地震波速度が遅い。プレート境界上の堆積物も、構造調査で地震波速度の遅い層としてとらえられる。このような固化していない堆積物がプレート境界に存在すると、歪を貯えることができずに、地震が発生しないと考えられている。