平成16年度科学研究費補助金(特別研究促進費)

研究課題「2004年浅間火山の噴火に関する総合的調査」
代表者:中田節也(東京大学・地震研究所・教授)研究総括
分担者:

研究の目的

 2004年9月1日夜に発生した浅間火山の噴火は1983年以来の中規模の噴火で,今後1983年の活動のようにそのまま静穏になるのか,あるいは1960年以前のような活発な活動時期に移行するのかを見極めることは,今後の浅間山の噴火災害を未然に防ぐために重要であり,そのために緊急に火山活動の評価をするために地球物理・地球化学・地質学的分野の総合観測調査する必要がある.
 また,噴火現象をその発生直後から,各種観察調査を総合的に行うことによって,マグマの動きと噴火の関係を知ることは,噴火のメカニズムを知る上で極めて重要である.本研究は,噴火直後の浅間火山において,1)地震観測によりマグマ流体の動きを推定し,その機構を解明する.2)物質移動の直接的な観測量である重力変化と,山体の膨張・収縮を測定するGPS観測を同時に行うことによって,マグマの地下での密度(発泡率)を推定する.3)マグマの流量を反映していると考えられる火口での熱流量推定によって,マグマの流動を推定する.4)火山ガスの測定により,火山活動の推移と火山ガスの関連について研究する.5)火山噴出物の分析により,深部でのマグマ輸送のメカニズムについて考察する.
 このような総合的な観測によって,マグマ移動のメカニズムと噴火機構を関連を解明する糸口となる重要な物理量が定量的に見積もられ,火山噴火予知のための基礎研究の推進に大いに資することを目的とする.


本年度(〜平成17年3月31日)の研究実施計画

 以下の観測・調査を行い,研究を推進する.
1)山麓に臨時に4点の地震観測点を設置し,噴火活動前後に現れ,マグマ流動が起源と考えられている長周期振動を観測し,その起源を解明する.
2)山体16点の測定点で相対重力測定を実施し,それと同時に基準点における絶対重力測定を組み合わせたハイブリッド重力精密測定を行う.2003年9月に行った同種の結果を参照し,浅間火山下に蓄積していると考えられるマグマの蓄積量とその位置を推定し,噴火に伴うマグマの移動の詳細を解明する.
 東京大学地震研究所が浅間火山の周辺で行っている4点のGPS連続観測を強化し,噴火後の広域的な地殻変動を推定するために,これらの観測点の観測データのデータ取得間隔を短くし(30秒毎を1秒毎に変更),噴火後に起こることが期待される山体の収縮を高精度にもとめ,マグマの移動を追跡する.
3)浅間火山観測所で撮影している赤外映像を用いて,山頂から放出される熱流量を推定する.赤外映像による観測は,山頂部,つまり火道上端での熱放出量で,その変化は火道上端でのマグマ移動に相関がある.一方,地震活動は,火道深部のマグマ移動に関連があると思われ,これらの比較は,火道を移動するマグマの状態を反映していると考えられる.このような観測から,深部からのマグマ供給量の変化が追跡できることが期待される.また,上空からの赤外映像を撮影し,噴火地点の特定と火口活動の変化を追跡することにより,熱流量の時間的変化を明らかにする.
4)現在浅間山から噴出している火山ガスおよび火山灰付着成分の測定を実施し、火山の活動様式の解明ならびに活動のポテンシャル評価を行う.また,火山ガスの化学組成および放出量の継続観測により,噴火前後の火山活動の推移を火山化学的に捉える.
5)今回噴出した火山灰や噴石の分布から噴火規模や噴火様式を推定し,噴出物の化学分析によって,その起源や成因を推定するとともに,噴火前後に深部からマグマの移動があったのかどうかを把握する.また,火口底の形状の観察から,マグマ上昇に由来する火口底の地形変化があったか否かを判断し,今後の活動の推移を推定する.

もどる